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03家庭を顧みたいが世界がそれを許さない

「悪いが……足でまといは――」


「クロウ、チャコは俺たちと勇者パーティで鍛えたんだ。いずれあいつはおまえより強くなる。現段階で帝国内にあいつ以上の冒険者はいない。疑似加速も覚えたしな」


 ブラキスへ断りを入れようとしたところで、バリィがさらにチャコを推してくる。


「なっ! どこで覚えた……っ! 軍事機密――」


「テメーの弟子でそこの垂れ目馬鹿のクソガキが全帝大会で全帝中にお披露目したからな。賢者の子だぞ? 一回見たら覚えられんだよ」


 驚くジャンポール君にバリィが煽るように答える。


 シロウの疑似加速を見て覚えた?


 ……いや、多分メリッサが教えたな。

 見てわかるような魔法じゃあない、そもそも不可視の速度がまともに見えるわけもないし特に思考加速はコツがいる。

 『勇者』を持つメリッサが試行錯誤してやっと再現した『加速』を賢者の子なんて理由で出来るわけがない。


 まあシロウが疑似加速を使える以上、いざという時に疑似加速を覚えておくのは競技をするのに大事なことだ。同速対決になるという事実だけでも、疑似加速に対する牽制になりえる。


 しかし……疑似加速を使えるのはあくまでも最低条件であって、どちらかといえば遂行能力を求めている。


 チャコールってまだ十八やそこいらだろ? いくらなんでも若すぎる。


「俺はチャコを連れていくことがライラ奪還成功率を上げると確信している。ライラを取り戻すために連れていけ、何でも使えよ。絶対に成功させるんだからよ」


 バリィは真摯に、目から炎を揺らして語る。


 本気だ。

 マジに言っている、バリィがライラ奪還に関してマイナスになることを言うはずがない。


 バリィの分析は信頼しているし、その目的を達成する為の非情さや容赦のなさは僕よりも上だ。


 そのバリィがチャコールを勝算に含めている。


「……わかった、チャコールを連れていこう。だが子供を守って死ぬみたいなかっこいい死に方はしたくないからね。使うけど守りはしないぞ」


 僕は提案を受け入れる。


「ああ驚け、あいつはトーンの町最後の冒険者だ」


 歪んだ笑みを浮かべてバリィはそう言った。


 そこから一旦場所を『魔動ロケット』発射地点へと移し、バリィはチャコールを呼び出した。


「……ッ‼ ぶっ殺す……‼」


 呼び出されてバリィから事情を聞いたチャコールは、目どころか身体中から真っ黒な炎を吹き出して殺意だけを言葉にする。


 なるほど。

 ブラキスに良く似てるけど、性格とかは違いそうだ。

 感覚でしかないし他所様の子に言うことじゃあないし、大人として間違ってるかもしれんが。


 


 ブライのように倫理観が欠落していたり。

 メリッサのように乗り越えたり。

 アカカゲのように最初からそう育てられたり。

 バリィのように合理性の中で処理したりってのとは違う。


 怒りで焦がした真っ黒な殺意だけで、人を殺せる。

 僕やセツナに近い、つまりかなり危うい子ということだ。


「ああ殺してこい、皆殺しだ。こっちは親兄弟一族郎党根絶やしにしておく」


 バリィが燃え上がるチャコールに言う。


「いやそれは流石に全然ダメだぞ。特殊な事態にかこつけて単なる犯罪に走るな……クロウさんの作戦参加ですらどう処理するのかガクラ閣下に丸投げするしかない状態なのに」


 バリィの犯罪予告にジャンポール君が呆れるように口を挟む。


「つーかバリィさんが居て……なんでライラちゃんが攫われてんだよ……っ、戻ってきたら畳むぞおっさん」


「ああ、畳んでくれ。不甲斐なさすぎて死にたいところなんだ、必ず戻ってきて俺をボコボコにしろ」


 チャコールの怒りの言葉を、バリィが受け入れる。


 確かにバリィらしからぬ醜態だ。

 ここまでさせるまでに【ワンスモア】を潰しきれてなかった僕が言えることでもないけど。


 まあ、お互いに歳を取ったってことなんだろう。


 僕がバリィとチャコールの話を聞いている横で。


「よし……『実戦用強化魔動右腕』に換装完了、他も実戦装備に切り替えた」


 特殊任務攻略部隊ステリア・エルブランが、右腕を回しながら言う。


 今日の全帝準々決勝でミステリ・トゥエルブとして八極令嬢との激戦をしていた。試合を見たけど、なかなか動ける。


「パンツもちゃんとTバックに――ぐふっ」


 同所属テナー・クエスが、ステリア女史に軽口を叩いて腹を殴られる。


 彼もハテナ・クエッチョンって名前で全帝に出場していたらしい。一回戦敗退らしいので放送がなかった為に試合は見れてないけど、ジャンポール君から聞いてる感じ実戦ではかなり優秀なスナイパーだ。


「馬鹿やってないで準備しろテナー、ステリアも換装だけじゃなく慣らしもしとけ」


 同所属ゾーラ・メイが、二人を窘める。


 彼もまたナゾーラ・ギメイという名前で全帝大会予選に出ていたらしいが、運悪くセブン地域予選でチャコールと当たり予選敗退したらしい。 特殊任務攻略部隊の中でもトップの実力者と聞いている。


 ジャンポール君推薦の精鋭たち、精鋭揃いの特殊任務攻略隊の中でも選りすぐりの精鋭。やはり凄腕揃いだ。


「よし揃ったね、今回このパーティの指揮をとる――」


 と、僕が今回のパーティメンバーに挨拶をしようとしたその時。


「黒仮面師匠っ‼ 話はわかりませんが、私も行きます! どこまでも着いて行きますわ!」


 転移魔法でリーシャ・ハッピーデイ嬢が現れて、宣った。


「……っ、なっ、マジに何やってんだ君は……え? いや帰りなさい、これは競技でも何でもなく実戦だからね。帝国軍の避難指示に従って家族と一緒に過ごしなさい、早急に」


 僕は驚愕しながらも、即帰宅を促す。


 マジに何やってんだ?

 つーか広域魔力探知で僕を見つけて跳んできたのか? 鍛えすぎたか……、若くて才能あるから調子に乗って色々と教えすぎた。


 しかも僕と色違いのオレンジの仮面とコートまで作って、完全に僕の関係者だとわかる格好で……別にこれ流派の道着とかじゃなくて正体隠したいだけの変装なんだぞ。


 確かにリーシャ嬢は今の段階で、出来ることだけでいうなら今の僕の八割程度の完成度だ。


 ただ、圧倒的に実戦経験に乏しい。

 彼女は紛れもなく競技者、人は殺せないし殺されそうになったこともない。


 単純なスペックならシロウやチャコールやライラに並ぶけど、経験ばっかりは環境によるからね。


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