「教えられな――」
と、言いながら疑似加速を発動。
これでバリィ氏は俺の部下へと魔法を使う、意識が向く。
恐らく魔法の同時発動も出来るだろうが、同時発動しようとしないと不可能だ。
俺の疑似加速を察してキャミィの脳幹を貫くまでにはラグが生まれる。
疑似加速なら、そのラグ中に四人を畳んで魔法融解で三人の頭の中に設置されている魔法を散らせることが出来る。
これでも帝国最強でね、過不足なく天才として生きてきた。
目から炎を撒き散らしながら真っ直ぐバリィ氏へと駆けて、剣を振る。
必中の太刀筋、不可視の速度による必殺。
時間軸の外から理不尽な攻撃、絶対回避不可能。
だが。
「――いIi……っ⁉」
超反応で太刀筋に割り込んできた大盾に剣が接触した瞬間、接触発動式の電撃魔法が発動し感電する。
加速した世界の中でもほぼ光速で流れる電気は通る、疑似加速対策としては正攻法だ。
大した威力ではない、意識も保てているしダメージも残らないだろう。
だが電撃は筋肉を硬直させる。
つまり加速が途切れる、一瞬だけ、本来隙ともいえない瞬きにも満たない一瞬。
この一瞬は致命的。
動けずに思考加速だけが残った状態の俺に向かって、巨大な斧の刃が迫る。
とてつもない質量の大斧。
近づいてくる度に、俺の身体の中に死が現実味を帯びていく。
視覚的な恐怖、全身の細胞が泡立つように死を感じる。
まるで俺がこうなることを想定して、狙い通りに振られた大斧が俺の脇腹にゆっくりと近づいてくる。
全力で物理障壁魔法を多重展開。
部分硬化を発動。
斧がくい込んだ先から回復魔法を全開で重ねがけ。
魔力を……ここで全魔力を使い切る……っ。
当然のように、物理障壁を砕きながら部分硬化を行った脇腹に刃が食い込む。
凄まじい、絶対に抗えない衝撃で加速した世界から弾き出され。
そのまま、身体中の骨や肉を砕いて潰しながら。
壁に叩きつけられた。
「が……は…………っ」
全魔力を投じて行った回復魔法で、何とか意識を保つ。
ギリギリ呼吸を通して、激痛は根性で抑え込む。
死ぬ……っ、多分子供に蹴られても、犬に噛まれても死ぬ。
回復魔法を勉強しておいてよかった……、キャミィに感謝だ…………っ、痛え…………声も出ねえ……。
「舐めんなよジャンポール、リコーはブライでも突破出来ねえ盾役でブラキスは世界最強の近接火力だ。それに今日は賢者もいるんだぞ? その気になれば帝都に戦略級極大消滅魔法を撃ち込むことも出来る中で交渉の余地を残している意味を考えろ、とりあえずキャミィは殺すが、一旦泣いて詫び入れるか? 帝国最強さんよ」
壁に激突して虫の息の俺に対して、平らな声でバリィ氏は語りかける。
その言葉に俺の中で爆発が起こり、身体中に熱が巡るり目から炎が吹き出す。
「っ…………なべん……っ、ごぶ、ゲエェェェェ…………っ、ハ――――――――っ! スゥ――――――っ」
俺は震える身体を根性だけで起こして立ち上がり、振り絞った声と共に込み上げてきた吐瀉物と吐血と融解した臓器を吐ききって喉を通す。
「…………舐めてんのは……っ、貴様だ……バリィ・バルーン……ここは第三騎兵団本部で、団長がいて、国民人質にされて襲撃犯の要求をはいそうですかなんて…………グェ……ハーッ! 受け入れるわきゃあねえだろうがあッ‼」
俺は霞む視界でなんとかバリィ氏を捉えながら、なんとか言葉を返す。
ギリギリだ……、このまま俺は死ぬ。
最後に一撃、こいつらはここで消す。
なけなしの魔力を体内で圧縮し、核熱自爆の準備を行う。
当然バリィ氏や賢者にはバレている、疑似加速で接近して巻き込んでから死――――。
「そうか、じゃあキャミィの死体の前でもう一回同じことを聞かせてく――」
俺の決意虚しく、バリィ氏が行動に移ろうとした。
その時。
俺とバリィ氏の間に、
転移魔法で現れた。
「――待ったバリィ、降参だ。本当にごめんなさい、全面降伏で全ての要求を呑む、本当に済まなかった。ジャンポール君は後で坊主にする」
現れた人間、まあこんなタイミングで現れる真っ黒な格好の人間なんてクロウさんしかいないわけだが。
クロウさんはバリィ氏に対して全力の敗北宣言を行った。
……つーかなんだその格好、そんな真っ黒な格好なのは久しぶり見たぞ。それに髪も……というか仮面? 趣味が変わったのか?
いやそれとなんか俺の坊主が決まったんだが……、嘘だろ? 四十過ぎて団長にまで出世しておいて謝罪で坊主にされるのか? というか俺が謝るのか? 襲撃された側なんだが、今日日新兵にすら強制坊主なんて滅多にやらんぞ……。
「……それと、ライラに関しては僕がなんとかする。だからそれを前提に一旦話を聞いてくれ」
困惑する俺を無視して、クロウさんはバリィ氏に穏やかにそう告げる。
「…………言ったな? なんとかするんだな……?」
全身が燃え上がるほど真っ黒な気迫を放ちながら、バリィ氏はクロウさんへ問う。
「ああ、僕はなんとかしなくちゃならないことをなんとか出来なかったことがない」
あっけらかんと、この世界でクロウさんにしか言えないようなことを返す。
これを否定できる人間は帝国にはいない。
この人がなんとかしたから、帝国にセブン地域があり、この世界から魔物という脅威がなくなり、スキルという甘えが消え、魔力革命が起こった。
停滞していた世界そのものを前進……いや加速させた張本人だ。
そんな世界最強にしか許されない返しに対して。
「………………助けてくれ……クロウ、頼む…………っ」
バリィ氏は顔を歪め、目から吹き出していた黒い炎を涙で消火しながらそう言った。
「任せとけ、これでも僕は頼りになる方なんだ」
そんな親友の頼みを、クロウさんは笑顔でこれまた世界最強にしか許されない言葉で快諾した。
いやまあ、じゃあもうちょっと早く来てくれ。
辛うじて話を聞いていた俺は、素直にそう思ったところで。
意識を失って、崩れるように倒れた。