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01きっと教科書には載らない未曾有の危機

 俺、ジャンポール・アランドル=バスグラムは帝国軍第三騎兵団の団長を務めている。


 一兵卒から団長……我ながら叩き上げ過ぎた。

 過不足なく、それだけ働いてきたと自負している。


 ……いや違うか。

 働かされてきたってのが正確だし、過去形でもない。


 現在進行形で働かされている。


「セブン地域の北はほぼ殲滅完了! 現在は警戒を継続中!」


「トーンの町より! 【ワンスモア】襲撃により、元勇者パーティのダイル・アルターが拉致! 護衛対象のソフィア・ブルームは無事とのこと!」


「本日明け方にエイト地域にて【ワンスモア】らしき工作員の目撃情報あり! ビジィ・アラートという郵便局員が拉致された可能性あり! 現在捜査中!」


「帝国軍付属病院の襲撃は援軍到着とともに迎撃成功! 現在は警戒しながら患者や医師の避難進行中であります!」


「帝都の魔物モドキはほぼ殲滅完了! しかし【ワンスモア】構成員と【暴れすぎる捕虜】が交戦中! もう既に三十人以上、斬り伏せているとのこと!」


 部下からの報告が飛び交う。


 現在、ライト帝国は【ワンスモア】による人造魔物を用いた同時多発テロを受けている。


 想定以上に【ワンスモア】は大規模な組織として成長し、想像以上の戦力を蓄えていた。


 やっと終息が見えてきたが……。

 まだ全ての被害状況を確認できてないが、かなりの被害が想定される。

 帝国史上わりと未曾有の事態だ。他国からの侵略や報復以外でこんなことが起こるなんてのは初めてだ。


 そして恐らくこれで終わりということでもない。

 第二波、第三波と警戒しなくてはならないし、根本を叩かない限り予断は許さない状況が続く。


「セブン地域南部に関してもおおよその終息を――――」


「伝令――――――ッ‼ 第三騎兵団本部に襲撃ッ‼ 襲撃犯は! 正門を突破し、そのまま真っ直ぐ中央に向けて進行中‼ 被害甚大! 間もなく中央へと到着します!」


 報告を遮るようにとんでもない伝令が飛ぶ。


「……? 四人なら待機戦力で制圧可能だろ、何をしているんだ?」


 俺はなんの面白みもない当然のことを返す。


 あー出世し過ぎた。昔ガクラ隊長めちゃくちゃおもんないと思ったことはあるけど、出世すると本当に面白いこと言えなくなるなぁ……むしろガクラ隊長は偉さから考えたらかなり面白い上官だったんだな。


「それが……とんでもない破壊力の近接火力で防壁を破壊し、こちらからの攻撃は大盾と魔法防御で全て無効化され、接近を試みた兵は重力魔法と材質変化魔法によって地面に埋められてしまい高威力の魔法が使えず制圧に難航しています」


 伝令役の兵がつらつらと襲撃犯についての情報を述べて。


「全て既に待機戦力の三分の一が戦闘不能、このままだと被害範囲を予測できません……っ」


 さらにとんでもない被害状況を告げた。


「な……っ、俺の部隊を出す! 至急伝令、跳んでこさせろ‼ 【ワンスモア】の主力か……っ、ブライが居なかったのが裏目に出るとは――――」


 俺は即座に指示を出す。


 ブライの世話をしながら指揮を執るのが面倒臭いのでほっといたが、こんな時に限って……あの馬鹿野郎が捕虜の分際で……ちょっとは思い通りに動けよ。


「違います! 襲撃犯は【ワンスモア】と主張しています‼」


「……ええ?」


 部下からの続く情報に俺はマヌケな声を上げる。


「襲撃犯は、サウシス魔法学校の教員と自称しており……メンバーの中には旧公国勇者パーティの賢者も確認されています」


 部下は襲撃犯の正体について語る。


 サウシス魔法学校の教員……、それに賢者……?


 嫌な予感が身体を駆け巡る。

 勘は悪くない方ではあるが、嫌な予感というのはしないほうが絶対に健康には良い。


「…………いや心当たりはあるが……意味がわからん。俺も出る! 中央にて待ち伏せて包囲しろ! 不用意に手は出すな‼ 交渉を試みる‼」


 俺はそう言いながら武具召喚と外装着装で武装し、襲撃犯の元へと向かった。


 予想は出来ているが目的がわからん。

 普通に犯罪だし申し訳ないが、捕らえるか殺すしかないぞ……?


 まあ俺は第三騎兵団は団長、出世し過ぎただけの実力は有しているつもりだ。


「――――バリィ・バルーンさん……ですね」


 俺は襲撃犯……もとい、サウシス魔法学校教員のバリィ氏と対峙して声をかける。


 バリィ・バルーン。

 クロウさんが居たトーンの町の元冒険者。

 セブン地域の南に位置するサウシスの街で教員を勤めていると聞いている。

 うちの妻、キャミィとも旧知の仲であり冒険者時代の先輩。

 ブライと同じく旧公国勇者パーティの指南役も勤めた実力者、後衛魔法使い。


 まあこれはキャミィやクロウさんやセツナさんから聞いた話だ。

 実はバリィ氏と会うのはこれが初めてなのだ。


 一緒に並ぶ大男は見覚えがある、あれは公国落としの際に交戦した。たしか賢者と結婚したとかなんとか……もう一人の大盾の女性は見覚えがないが恐らくバリィ氏の妻、リコー・バルーンだろう。話には聞いている。


 完全武装で隙のない陣形……。

 俺の隊を含めた帝国兵に完全包囲されている中でも、臆することもなく徹底抗戦という姿勢を崩していない。


 さらに何やら四人で囲うように、何か大きな台車に布を被せて積載物を隠している。


 何かしらの魔動兵器か……、油断は出来ない。


「おお、あんたがジャンポールだな。そりゃあ出てくるよな、勿論わかってた。


 真っ黒な炎を目から揺らしながら、バリィ氏は声だけは穏やかにそう言って。


 台車に被せて居た布を捲った。


 台車の上には拘束された、三人の女性。

 全員面識がある。


 一人はエバー・クラック氏、ガクラ閣下の奥方だ。

 もう一人はセツナ・クロス氏、シロウの母でクロウさんの奥方。


 そしてもう一人はキャミィ・マーリィ=バスグラム、



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