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12世界は同時多発的に動き続ける

「魔力感知班は魔物モドキの距離を伝え続けろ! 前衛はとにかく弾いて後衛の射線に誘導しろ! 前衛は怪我したら即下がれ! 空いた穴はリコーとライラでカバーしろ‼ そこぉ‼ 前出過ぎだ! 前線を上げるのは全員でやる!」


 俺は合流した東側の防衛に指示を出す。


 ここの防衛に当たっている帝国軍人の年齢層は、いいとこ三十半ば。つまり魔物との戦闘経験がないやつだらけだ。


 魔法学校側からの推薦……というか戦闘部顧問のオリガ先生からの推薦で俺が指揮を行うことになった。

 オリガ先生……俺のこと好き過ぎるだろ……、まあ二十年近く前の教え子だから多少は尊敬しちまうってのはしょうがないにしても。


 どうにも俺を凄腕魔法使いだと思い込んでいるというか……つーか卒業式に情熱的なラブレターまで貰ったし、何回か教員の忘年会で「先生が独身だったら良かったのに」というクロウだったら百パーセント乗ってるであろうお誘いも頂いている。さすがに最近はないけど数年くらい前はわりとマジで困っていた。


 俺がクロウみたいな色男じゃなくて、マジに生涯妻しか愛さない娘ラブの家族大好きマンで良かった……。多分色男ならとっくに手を出している。俺は愛妻家界隈に世界代表選手権があるなら間違いなく代表に選ばれるくらいにまだリコーにドキドキしてしまう。百万回抱いても精神的に童貞のままなくらいに、混じりっ気のない愛を持ちながら娘のライラも同率で愛している。


 俺はリコーとライラを宇宙で何より大事だと思っている。俺の両手は埋まっていてそれが俺の世界の全てだ。


 だから、家族を裏切るようなことを絶対にしない。

 リコーとライラの為なら当然死ねるし、リコーとライラの為なら絶対に死なない。百年でも千年でも長生きして、二人を幸せにする。つもりとか精神論じゃなくてマジでそうする。


 だから使えるものはなんでも使う。

 リコーとライラが住むこの街守るために、戦闘経験値の浅い軍人やらを利用して戦いもする。


 俺は凄腕でもなんでもない、ただ容赦というのが欠落して自分の大切なものの為にはどんな犠牲も厭わないだけだ。


 小手先やインチキや奇策や分析と攻略、何を使ってでも家族を守りたいだけなんて世の父親として当然の行動原理によって動いている。


「よし……魔力感知に魔物モドキの反応はないか。一旦サウシスの魔物モドキはあらかた殲滅できたが、もしかすると小型のがまだ路地や下水道に紛れ込んでるかもしれねぇ。まだ女子供は家から出すな、捜索警戒チームを編成して街を歩かせろ」


 あらかた終わったところで、俺は帝国軍人に指示を出す。


 まだ予断は許さないとは思うが、魔法学校に人を集めすぎていても良くない。

 そろそろ帝国軍も今の事態に関しては対策が定まってきているはずだ。俺の役割もここまでだろう。そもそも関係ないし。


「……パパってただの冒険者だっただけの教師だよね……?」


 俺の様子を見ていたライラが、そんな疑問を呟く。


「そうよ。でもこの世界で唯一、世界最強を泣かせたことのある冒険者だっただけの教師だよ」


 リコーは少し得意げに、ライラにそう答える。


 まあその世界最強を泣かせたのは、ライラが赤ん坊だったってこととライラのスキルによるものなんだけど……それは過去の話だ。別に重要なことじゃあない。


「さーて、帰るぞ。一応ブラキスんとことかメリッサんとこの安否確認を……まあ心配いらねーか、アイツらがこんな魔物モドキに手こずるわけねえし。むしろ俺らが心配かけてそうだから、無事だけ伝えるか」


 俺はそう言って、家族と共に帰路につこうとしたところで。


 


「確かに『大魔道士』と『勇者』は全然大丈夫みたいだね、『聖域』も無事だ。流石、S級スキルホルダーは特別だね。でも『万能武装』は捕らえることが出来たみたいだよ」


 真っ白な、それ以外に言いようがないほどに全身白ずくめな真っ白な男が白々しく、当たり前のように会話へと割り込んでくる。


「――ッ」 


 俺は反射で棍で突く。


 こいつは全帝大会の会場で魔物モドキを召喚した自称【ワンスモア】のリーダー、ナナシ・ムキメイと名乗っていた男だ。なんでこんなところにとかは考えつつも身体は反射で動かす。


「え?」


 突然のことにライラがマヌケな声を上げる。


 宇宙一愛らしいが、実戦経験の乏しさが出た。ここは全員で一気に畳むべき場面だ。


「おっとっと、まあS級スキルはそのうち集めるからいいとして。最重要なのは最強のスキル……僕らより先に再現されたら困るからね。先んじておきたいんだよ」


 俺の突きと固着空気弾を躱しながらナナシは戦闘状況下にも関わらずへらへらとそう言って。


「僕の狙いは『無効化』だ。頂いていくよ」


 そんな言葉と残像を置き、不可視の速度でライラの腕を掴んだ。


 同時に俺は最速の雷魔法を叩き込み、リコーは大盾投げを放つが。


 ナナシは転移魔法で跳んで、消えた。


「ぐ…………っ‼ あ――――」


 自分の声が聴こえないほど、身体の中で爆発的に拡がる真っ黒な感情を叫び散らす。


 ああ、駄目だ。

 世界の半分が失われた。


 身体の半分がぐちゃぐちゃになったみたいだ、チャコに殺されかけた時とは比にならない痛みが駆け巡る。

 視界がちかちかと暗くなっていく。

 頭の中が思考を放棄して溶けていく。

 吐きそうだ、いや吐いてるのか?


 ああ、ああ。


 ライラが攫われた。


 ああ……、動かなくちゃ。

 何を犠牲にしても、何をしてでも何人殺しても何をどうしても、ライラを取り戻す。


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