俺、バリィ・バルーンはサウシス魔法学校の教師だ。
もちろんセブン地域の南に位置するサウシスに居を構えているわけだ。
二十代半ばくらいから二十年近く、一時は旧公都に住んで……まあそん時はまだ公都だったか。
まあそんな昔話はいい、その辺の話は別の話として完結している。
結局重要なのはいつだって今でしかない。
これはどれだけ過去を遡っても、未来永劫そうなんだ。
「ライラ、反応を引き出させる立ち回りはしなくていい。後手で反応し続けてパターンと分岐を覚えろ、魔物討伐に駆け引きはいらない。攻略することだけを考えろ」
俺は魔物モドキと戦いながら、ライラに指示を出す。
「……っ、むっず……くない⁉ 結構シビアっていうか甘くないんだけど!」
ライラは装備した大盾で魔物モドキをぎこちなく捌きながら返す。
ぎこちないが十分すぎる動きだ。
いつも使っている『四枚羽根』はクロウの馬鹿ガキに壊されて修理中なので試合でも使っていたリコーが冒険者時代に愛用していた大盾の三枚目を使って戦っている。
「こっちが複雑に動かなければ魔物もそれに合わせた攻撃パターンしかしてこない。駆け引きが必要ない分その辺は素直にコントロールが効くわよ」
リコーは大盾の二枚目を使って、安定した盾捌きで余裕を持って魔物モドキを弾いていく。
なんかもう面倒だから色々と割愛するが、現在【ワンスモア】が帝国中に魔物モドキを放って色んなとこで同時多発テロを起こしている。
セブン地域にも魔物モドキが放たれて、このサウシスでも魔物モドキが暴れ回っていた。
サウシス魔法学校は避難場所として街の人々が集まっている……、魔物は狡猾だ。非戦闘員が密集している場所を優先的に狙ってくる。
帝国軍が防衛を行っているが、サウシス常駐の帝国軍はいるにはいるが少ない。まあそもそも魔物相手を想定してないし立地的にも他国の侵攻が起こりえないので仕方ないが。
なので、魔法学校で魔法戦闘学を教える俺やら元冒険者のリコーやら全帝最強女子選手であるライラに協力要請がかかった。
流石にブランクがあったが……まあ仕方ない。
それに思ってた以上に身体が覚えていたし、そもそも魔物モドキが想像以上に弱いというか再現度が低かった。
行動パターンは……まあこんなパターンのやつも居たけど、単純に種類が少ないので逐一攻略を当てはめるっていう一番大変な手間がかからないし。
何より柔い。
まあこれはトーンの山脈の魔物と比較しての話だが、ブラキスの前衛火力がなくても俺の後衛火力だけで何とかなってるのもありがたい。いやありがたくはねえか、大前提として大迷惑だ。
「よし……、魔力感知と目視範囲に対象なし。魔物モドキがどこまで魔物と同じ習性を持ってるかはわからんが、そろそろこの場所を避け始めてもおかしくない。帝国軍に連絡して手薄なところに移動するぞ」
俺は圧縮水切断で魔物モドキを処理して『携帯通信結晶』を取り出しながらそう告げる。
実は、今の俺は魔法使いとしてはかなり最盛期に近い。
四十後半のおっさんではあるが魔力革命によって魔力量も増えたし、偽無詠唱ではなく無詠唱での魔法発動や発動遅延による擬似的な魔法の同時発動とかではなく三つくらいまで同時に魔法を発動できるようになったし、一応全部の系統の魔法を使えるようになった。
まだ二十代で若かったし、魔法学校教員として先んじてクロウが起こした魔力革命の効能を知っておく必要があったから。すげー頑張って鍛え直した。チャコをを鍛えるのに負けてたら話にならないしライラにも格好着かないしな。
俺は魔法使いとしては下の中、魔法使いというより魔法が使える人だったのが魔力量が増えてやれることが爆増したことで今まで「あーもうちょい魔力があったらこんなこと出来んだろうけどなー」ってことが出来るようになり楽しくなって鍛え直した。
まあそれでも、今の魔法使いでいうなら良いとこギリギリ中の中としていい程度だ。並以下だったのが並になったくらい、それほどまでに今の魔法使いのレベルは高い。
自己評価を「そんなに得意じゃない」とするライラですら上の下、まあ魔法学校卒業してんだから一般的には上澄みなんだけども。夕方には帰れて休みが安定しているって理由で図書館で司書勤務をしているが、本来魔法学校の卒業生はもれなく学者畑だったり技術者の道へと進むもんだけどな。学者も技術者も休みが安定しないからライラの選択肢からは外れたみたいだ。
上の上にはチャコやメリッサやセツナやミーシア理事長とかいるし、ポピー嬢やらスズランやクロウや角ありの人たちみたいな平均をぶっ壊す例外的な魔法使いもいる。
自己評価は正確に、自惚れても駄目だし過小に見積もって駄目だ。
でも才能に関しては過信すべし、それが努力できるコツだ。なんかしらの天才であると信じろ、信じるからには努力しろ。活かせた時には本当の天才になれる。
「――よし東側の防衛に合流する。ここは西側から何人か補填される、移動するぞ」
俺は帝国軍人と『携帯通信結晶』で連絡を取って移動を開始する。
マジに『携帯通信結晶』って便利すぎるな。
二十年前にもっと一般的に普及してたらアカカゲたちも……まあこれこそ無駄か。重要なのは今なんだから。