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10世界は同時多発的に動き続ける

「……ダルいわ」


 私はそう呟くのと同時に、重力埋葬で魔物を地面に沈める。


 ほぼ同時に詳細魔力感知と脳波操作光球を五つ展開。


 脳波操作光球は私が創った魔法。

 光線魔法を球体化させて浮遊させ、魔力操作だけでなく脳波で直観的な操作による設置式光線魔法を遠隔操作できる魔法だ。


 お兄ちゃんが試合で魔法族の人と戦った時に使ってたやつ。あれは私が教えた魔法だ。


 詳細魔力感知で魔物の魔力の流れを完全に把握して、地面に埋まった魔物を光球から放った螺旋光線魔法で貫いていく。

 魔力感知で状態を確認……あ、完全に魔力の動きが止まった。


 あれ、思ったより簡単に倒せんじゃん。

 …………


 私は目視転移で上空に跳んで、浮遊魔法で滞空する。

 広域詳細魔力感知を発動、ほぼ帝都全域を感知。

 明らかに人じゃない魔力の形をしているのを特定、一、二三四……十……二十……一。

 二メーター半以下の反応は一旦無視、小さい魔物かもしれないけど人との判別が出来ないしそんな危険度も高くないと思うし。


 私は脳波操作光球を、六十四個展開。


 一体当たり三つでオールレンジ攻撃で螺旋光線当てれば十分だ。一個は予備として出した。


 お兄ちゃんは魔法の才能がないから頑張っても十五個くらいしか動かせないし細かく動かすのも苦手だけど、私はそこそこ天才だから百くらいはいっぺんに動かせる。まあおふくろだったら二百は動かせそうだけど。


 私は展開した光球を、帝都で暴れる魔物の元へ飛ばしてオールレンジ攻撃による殲滅を行なう。


 魔力感知で魔物が減って行くのがわかる。

 うん、なんだ魔物討伐って簡単じゃん。


 およそ一分程度で私が感知できた魔物の殲滅は完了したので目視転移でアンディ君の元へと戻る。


「あらかたやっつけたからもう大丈夫っぽいよ」


 私が笑顔でアンディ君にそう言うと。


「ば、化け物……だろ」


 と、アンディ君は顔を青くしながらそんなことを返す。


 …………あ、え、私が? えー単純に失礼なんだけど、何こいつ腹立ってきた。良かったチューとかしてなくて、減るもんでもないけど損した気分になる。


「私は天才なだけで人間だよ。あんたが雑魚なだけでしょ、雑魚な上に女の子化け物扱いってモテないわよ。私以降の女の子には気をつけなさい、まあ私は振るけど」


 腹が立つまま私はアンディ君にそう言って、ほっといて帰ろうと振り返ったところで。


 謎の男が剣で斬りかかってくる。


「――っ⁉」


 ビックリしながらも反射的に出した多重物理障壁で剣を弾く。


 え、なになになになんで私襲われてんの?

 見た感じ帝国軍の人でもないから、街中での魔法使用で怒ってるとかじゃなさそう……っていうか誰⁉


 私は混乱しながら多重魔力導線も展開しておく。

 すると展開した傍から魔法攻撃を受ける。


 なんかいっぱいいない? え? 何この状況! やり返していいの? えー! どうしよ! 大丈夫なんだっけ、多分殺しちゃうよ私!


 でもやらなきゃやられる……?

 緊張感が駆け巡って汗が吹き出して喉が渇く。


 ああ、どうしよう。覚悟を決めなきゃ――――。


 私がそう考えていたところで。


 突然。


「ィイ――――――ハッハァ――――――ッ‼」


 満面の笑みで奇声を上げながら現れた男が、私を襲っていた人を斬り伏せた。


 そのまま私を襲っていた人たちを次々と斬り伏せていく。

 なんの躊躇いもなく、そしてどう見ても軍人でもない。


 え、ええええ……。

 無茶苦茶だ、この人……ええ?


 両手に剣を握った、双剣士ってやつなのかな。

 年齢は若々しく見えるけど親父と同じくらい……? いやわかんない、おふくろとか四十三だけど未だに私と姉妹に間違えられる。

 しかもごく稀に私の方が姉に見られることがあるけど、私が消滅魔法を我慢出来る良い子であることを世界はもっと感謝した方がいい。背が高い方が姉って考え方は流石に稚拙だ。


「はー…………あーあ、あ? なんだ? ポピー嬢じゃねえのか?」


 私が半ば現実逃避のようなことを考えていたところで両手に剣を握った男は、気だるそうに私に向けてそう問いかけた。


「ぽ、ポピーは母です……けど」


 私は慄きながらもそう返す。


 え……おふくろの知り合い?


「あー! ってことはお嬢ちゃんブラキスのガキか! うおー似てるわ、どっちにも似てどっちもデカいな。あれだろちょっと聞いてるぞ、あの馬鹿な大斧使って模擬戦モドキしてるんだって?」


「あ、それは兄です」


 私は男の間違いを冷静に正す。


 何者なの……? 馬鹿な大斧で模擬戦モドキってお兄ちゃんの情報としては間違いない。


「あーそうかそうか。俺はブライ・スワロウ、おまえの親父と同じトーンの町の冒険者だった男だ」


 男、ブライさんは私に自己紹介をする。


 トーンの町の冒険者……!

 親父やバリィさんやリコーさんと同じ……あーでもちょっとわかるかも、雰囲気が身内っぽい。なんかそんなに緊張しない。


「第三騎兵団本部で情報だけ聞いてたら一瞬で魔物のモドキ殲滅した魔法使いが現れたってから、ポピー嬢かメリッサかクロウ辺りがやってて、そのまま【ワンスモア】に狙われて対人戦になると思って跳ばさせた。いやー読み通りではあったがまさかブラキスんとこのガキとは……名前は?」


 楽しそうに笑みを浮かべながらブライさんは語り、私に問いかける。


「え、あスズラン・ポートマ――――ちょ……っ!」


 私が名乗ったところで魔法が飛んできたのを魔力導線で咄嗟に散らす。


「よし、スズラン。魔法防御は任せたぞ」


 そう言ってブライさんは肩を回して前へと出ていく。


「…………あー久しぶりだ……もうねえのかと思ってたんだ、こういうの。……スノウとくっ付いて、帝国軍人畳んでりゃあ衣食住確保出来て……生まれたガキもジャンポールの家でしっかり育ってて……たまにジャンポール畳んで、シロウ鍛えて……そんなんも悪くねえと思ってた…………でも」


 剣を構えながら、つらつらとブライさんは語り。


「やっぱ俺はこれなんだ! 戦いたくってさあ‼ やっぱりこれなんだ! ありがとよ【ワンスモア】! おまえらが馬鹿なおかげで、戦える‼ ちゃんとぶっ殺してやるからな‼」


 満面の笑みでそう言って。


 凄まじい勢いで、襲いかかる人たちを斬り伏せていった。


 笑いながら、洗練された無秩序な暴力で。

 楽しそうに嬉しそうに、暴れ散らかす。


 えー……ば、化け物じゃん。この人……ええ……?

 嘘でしょ……私ってこう見られてるの……?


 まあでも……親父やおふくろやお兄ちゃんはともかくとして、教師のバリィさんが普通なんだったらこの人も普通の範囲に入ると思うんだけど。


 お兄ちゃんがライラちゃんとチューしたり、わりとがっつりエッチなことしてんのにブチギレて友達の家の子殺しかけるような人間が教職についてるこの世界において。


 私はかなり普通な方なんだと、暴れ散らかすブライさんを見ながら落とし込んだ。


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