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05世界は同時多発的に動き続ける

 俺、ファイブ・セブンティーンことビジィ・アラートの朝は遅い。


 昼前に起きて、昼間の一時から夜の九時まで働いて夜中の二時頃までには寝る。


 仕事は郵便屋だ『魔動二輪』に乗って、レフト地域のごく普通の町で手紙や荷物を届けている。


 俺は朝が弱い……というか朝に弱い、朝だと弱い。

 そういう体質だ。低血圧症とかそういうのに近いと言えば近い。


 魔力欠乏症並びに魔力過剰吸収症。


 ざっくりいうと俺は魔力が溜めにくい、人より魔力の総量がかなり低い。まあ【大変革】より前なら珍しくもない体質だったらしいが……魔力革命後ではかなり珍しい症例となった。


 それに併せて、俺は星から魔力を吸いすぎる。


 過剰な程に魔力を吸って、過剰なほどに魔力との親和率を上げてしまう。

 なんか欠乏症と合わさって上手いことプラマイゼロになると思われがちだがそうはならない。


 なんというか朝は魔力欠乏症が強く、晩にかけて魔力過剰吸収症が強くなる。


 子供の頃は大変だった。

 朝起きてからしばらく何も魔法が使えないまま学校に行ってやっと使えるくらいになったら学校が終わり、そこから夕方にかけて魔力の過剰摂取でのたうち回ってヘトヘトになりながら泥のように眠る。


 親に連れられて、医者を回った。旧公都やら帝都にも行ったが、ほとんどの医者は匙を投げた。


 だが一人、俺の体質に本気で向き合ってくれた医者がいた。


 帝国軍付属病院医師、クリア・クラック。


「治すことは出来ないけど、適切に付き合って行くことは出来るよ。まずは詳しく自分の体質を知ることよ」


 クリア先生はそう言って、診察や観察の魔法を駆使して俺の体質を事細かに解析してくれた。


 そして、魔力が最も枯渇する時間帯と最も魔力が過剰に集まる時間帯を割り出し。


 分刻み秒刻みで生活リズムを徹底して調整して、最も弱くなる時間と強くなる時間を固定化することに成功した。


 それが、五時十七分。


 早朝から夕方の十二時間をかけて魔力が上がっていき、夕方から早朝にかけて下がっていく。


 さらに『試作型強化予備魔力結晶』を用いることで過剰な魔力を放出する先を作り、足りない時には魔力を補充することが出来るようになった。


 しかもクリア先生は魔動結社デイドリームに掛け合って、俺を『試作型強化予備魔力結晶』のテスターとして使用結果を報告することで無償提供して貰えるように話をつけてくれた。


 そこからようやく俺は、普通の生活ができるようになった。


 前から憧れがあった【総合戦闘競技】も始めた。


 でも大会の開催時間……いや最早試合の順番によって、パフォーマンスが著しく変わってしまう俺はムラがある選手としてあまり活躍出来なかったし、扱いづらい選手な為に特定のチームや団体に属することはせずに色々なところで技術を学んだりスパーリングを行ったりしつつ独学で鍛えた。


 それでも楽しかった。

 自分の特異な体質を使って、時間帯に合わせた戦術を組み立てて勝ち方を研究していった。

 だからリングネームとして、ファイブ・セブンティーンを名乗って活動していった。


 そしてようやく全帝予選出場枠を手にして、予選に出場した。


 ワンデイトーナメントは午前中から始まるので俺には不向きなのだが、今年はたまたま前日の下水管工事が遅れて開催スケジュールにも影響が出た。


 さらに第一回戦の試合順が最後になり、俺は午後から戦えた。


 故に本戦出場権を手にした。

 運が良かったんだ。


 だがしかし。

 本戦第一回戦に当たったのは鉄壁天使ライラ・バルーン。


 最高戦績は全帝ベスト8ではあるものの、二連覇中のチャンピオンであるシロウ・クロスにしか負けていない。組み合わせ次第では準優勝もあったと言われているしシロウ・クロスの戦績に唯一判定での決着を与えた、紛うことなき優勝候補筆頭だ。


 でも試合順目は第十四試合、二日目の後半だ。

 本戦は集客の関係で午後から開始される。


 前の五試合の時間にもよるけれど、かなり万全な状態で戦えそうだった。


 そして試合開始時間は五時十五分三十六秒だった。

 ライラ・バルーンは待ちを選んでくれた。

 俺を、待っていてくれた。


 だから俺は、俺の出来る最強の戦術を使った。


 五時十七分一秒から五十九秒の一分間、光線魔法を照射し続けた。


 PM五時十七分の一分間、俺は都市一つを飲み込める規模である戦略級魔法を個人で放てるほどの魔力量を有している。


 そんな俺の全魔力を一発の光線魔法に注ぎ込んで、魔力のピークである一分間放ち続ける。


 これが俺の最大火力だ。


 必勝のはずだった。

 これはもう、俺が未熟とかそういう反省は出来ない。


 単純明快、矛盾なし。

 ライラ・バルーンは真正面から俺の光線魔法を受け切った。


 無傷で不敵に笑う彼女は、惚れてしまいそうな程にかっこよかった。


 完全敗北を喫して、俺の大会は終わった。


 まあ大会は終わったけれども俺の人生は続く。

 初戦敗退の俺は来年の本戦出場権を獲られなかったけど予選出場枠は有したままだから来年も狙っていきたいので選手としても続くし、郵便配達の仕事も続く。


 山あり谷あり、波を乗りこなしてこその人生だ。

 幸い、そういう生き方には慣れている。


 でも流石には荒波が過ぎるだろう。


「ファイブ・セブンティーン……、いやビジィ・アラート君。我々は【ワンスモア】だ。君の特異体質に興味があってね、我々と同行して欲しいんだ」


 寝ているところを叩き起されて、起きしな見知らぬ輩に囲まれて不敵に不適なことを言われる。


 いーや、どういうことだよ。

 全然理解が追いつかねえ……、なんで勝手に俺ん家入ってんだこいつら。


 つーか今何時だよ……俺は昼過ぎに起きて、今日はゆっくり全帝準々決勝の放送を観ようと思ってたのに……。


 意味がわからん、わんすもあ? 強盗なのか? いや俺みたいな万年金欠病気持ちに強盗入るわけねーや。

 特異体質に興味? なんだ? こんなん別に厄介なだけだぞ。


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