目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

04世界は同時多発的に動き続ける

「よしメリッサ、準備しろ」


 いつの間にか下がってきていたアカカゲが煙草に火を点けながら言う。


「は? 準備――――」


 私が振り返ってアカカゲに返そうとした時。


 ソフィアちゃんは両手を広げ、うっすら口を開けたまま上空から降り注ぐ魔法攻撃の雨あられを集中して見上げていた。


 広げた両手の指先に、五指全てに魔力反応。

 まさか、と思った時には動き出す。


 ソフィアちゃんはそのまま五指から別々に狙いを定め、同時に光線魔法を発射。


 ほぼ同時にダイルがメルの前へ。

 私は上空を目視。


 ソフィアちゃんのホーミング五指光線魔法が、降り注ぐ魔法攻撃を撃ち落とす。


 一瞬だけ、攻撃が止まる。

 その瞬間に私は目視転移で跳んで。


 疑似加速改を発動し、浮遊。

 そのままナイフで、九人の首を跳ねる。


 魔力感知、気配察知、反応無し。

 ……一旦殲滅完了。

 私は疑似加速改を解除し、目視転移で戻る。


「はー強くなったなメリッサ、クロウみたいなことするのな。おまえ」


 煙草をくゆらせながら、戻った私にアカカゲが言う。


「いやアカカゲさん、メリッサはもっと強かったんだぜ。こんなもんじゃあなかった」


 ダイルが剣を鞘に納めながらアカカゲに返す。


「いや私の話よりソフィアちゃんでしょ……なにあれ、いやホーミング光線魔法はまあ……うちにも出来るやついるけど……命中精度とタイミングが異常すぎる」


 私は二人の話を遮るように、率直な感想を述べる。


 かなり驚いた。

 【総合戦闘競技】で全帝本戦出場するような子なわけだから、それなりには動けると思ってパーティの頭数に入れていたわけだけど。

 正直、アカカゲにおんぶにだっこというか全帝本戦での活躍はアカカゲに依存したものだと思っていた。


 地力が凄い。

 あの光線魔法での後衛援護はかなり絶妙だった。

 ポピーを彷彿とさせるくらいの精度でバリィを彷彿とさせるタイミング、これで前衛にアカカゲでしょ? 模擬戦モドキの競技にはオーバースペック過ぎるでしょ。


「え、まあ仕事柄……魔力視で魔力変換タイミングや現象への昇華が掴みきれないと仕事にならないので。人形を使うための魔力操糸は性質がかなり光線魔法に近いから、自由操作は得意なんです」


 あっけらかんとソフィアちゃんは謙遜なのかマジの自己評価なのかわからないことを述べる。


 詳しく分からないけどソフィアちゃんは研究職、セツナやポピーも大きく分ければ似たような感じではあるけど……ポピーは例外としても世の研究職の人間が全員それだけ魔力視の精度が高いわけがない。


「ああやっぱそうなのか、じゃあソフィアは天才だ。チャコールやらおまえらしか見てねーから今のやつはみんなこのくらいやるのかと思ってたが相当強いぞ」


 アカカゲは煙草をブーツの踵で消しながら口を開く。


「俺の動きにずっと追従させて魔力の糸を繋いで魔力を送り続けてたんだぞ。魔力量もかなりある、連携の基礎も出来てるし、まあもし学者畑で食いっぱぐれても冒険者としてやってける」


 吸殻を空間魔法に弾いて入れながら続けて、アカカゲはソフィアちゃんの評価を語る。


 その通りだ。

 アカカゲの動きに追従なんて、ブライ並の反応速度があっても不可能だ。天才としか言いようがない。

 まあでも学者畑で食いっぱぐれた程度で今の冒険者にまで身をと落とすのは頂けないけど。


「いやいや、私なんて今年は奇跡的に本戦に出られたけど万年予選落ちの選手なので」


 アカカゲの評価にソフィアちゃんは慌てて返す。


 いやまあ確かに今年の本戦出場はアカカゲという不必要な奇跡があってこそのことなんだろうけど……、それにしてもでしょうに。


を使うか迷ったんですけど……良かったまだ実戦投入できるほど解析できてなかったので、助かりました」


 ソフィアちゃんは少しほっとしたように、ついでにそんなことを漏らす。


 まだ何かあるの……?

 アカカゲを生き返らせたり、卓越した魔法センスと後衛技量を見せておいて……どんだけ護衛のしがいがあるのよ、この子。


「とにかく、まだ第二陣が攻めてくるかもしれないから今のうち補給と陣形を――――」


 私が全員に指示を出そうとしたところで。


 私たちの輪の中に突然、空間から滲み出るように人が出現。


 突然過ぎて私は反応が遅れた。

 アカカゲは若干距離が離れていた。


 


 私の夫、ダイル・アルターは元公国最強の戦士として勇者パーティに所属していた。

 当初はどんな武器でも使いこなせる補正が入るスキルの『万能武装』に頼っただけの馬鹿だったが。


 私の冒険者時代のパーティリーダーであるブライ・スワロウに鍛えられて、本当に最強の戦士となった。


 全盛期のダイルの反応速度はブライを超える。

 世界最速最強と戦うには、それが必要だったからそうなった。


 今でも前衛として攻守共に間違いなく帝国トップクラス。

 だからダイルだけが、ソフィアちゃんを狙った奇襲に対応出来た。


 ダイルはソフィアちゃんと現れた敵の間に割って入り、伸ばした敵の手を斬り落とすのと同時に腹を突き刺す。


 同時に私とアカカゲは伏兵が続かないか警戒を行う。


「ぐぶぁ……、だが……っ『万能武装』は貰った……っ‼」


 腹を刺された奴が腹に刺さったダイルの剣を掴み、吐血混じりにそう言って。


 ダイルと一緒に、跳んだ。


「ダイル……っ⁉」


 私は予想外の行動に思わず驚きの声を上げる。


 な……っ、なんでソフィアちゃんでもメルでも私でもなく……一番おっさんのダイルを……これだけ可愛い女子がいて何故ダイル……。


 いや、なんか『万能武装』とか言ってたか?

 今更なんでそんな今はないものを……。


 広域魔力感知でも反応がない、かなり遠くに跳んでいる。


 追いかけるのは無理か……。


「……お父さん連れてかれちゃったの?」


 魔力感知を終えた私のズボンを掴んでメルが不安そうに聞いてくる。


「……うん、でも大丈夫よ」


 私は少し屈んでメルに目線を合わせて。


「全員ぶっ飛ばして、お父さんは必ず連れ戻すから」


 私は笑顔でそう言った。


 ダイルは剣を持ったまま攫われた。

 下手したら一人で拠点を壊滅させることも考えられる。


 懐古主義者共が……、昔のこと好きなら忘れるんじゃあないよ。


 私たちは公国最大戦力の勇者パーティ。


 世界で二番目に喧嘩を売っちゃいけない相手ってことをさ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?