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03世界は同時多発的に動き続ける

 私、メリッサ・ブロッサム=アルターはセブン地域は旧公都にある学校で給食のおばちゃんをやっている主婦だ。


 が、今はそれどころじゃあない。


「アカカゲは土竜叩きを使いすぎないで数を減らして! ソフィアちゃんが操糸で魔力を送れない! ダイルはアカカゲが狙ってないところを各個撃破! ソフィアちゃんはとにかくアカカゲのサポートに集中! 魔法防御は全部私に任せて! 絶対に通さないから‼」


 私は多重魔力導線を張りながら、全員に指示を出す。


 全帝大会準々決勝が終わった後、帝国の至るところで魔物が出現した。

 トーンの町に常駐している山岳攻略部隊上がりの老兵たちも、近くに湧いた魔物を討伐しに向かった。


 帝国軍が出払った隙を狙って、トーンの町は【ワンスモア】による襲撃受けている。


 とりあえず旧ギルド訓練場で迎え討つ状態には出来た。町の人たちも心配だけど。


 まあ狙いは間違いなく、ソフィアちゃんとアカカゲだ。


 一番手薄なタイミング……、まあこの為にダイルと私がこの町にいるわけだけど。


「メルは私の背中から絶対に出ないで! ダイル前出る‼ 前衛が下がるな! ソフィアちゃんはダイルに援護はいらない! アカカゲだけに集中!」


 細かく全体を見ながら指示を出す。


 現在、相手は十五人……あ、アカカゲがまた殺した。相手は十四人。


 全帝大会の放送で見た通り、スキルを使うらしい。しかも全員スキル持ち。

 ざっくりと見る限り軽業系職モノが五人……あ、アカカゲがまた殺した。四人。

 重武器系職モノが八人……いやアカカゲまた殺したから七……いやまた殺したから六人。

 まだ具体的にはわからないが恐らく万能モノが二人。


 分析の間に減ったので残り十一人。

 つーかやっぱアカカゲ強過ぎ……ダイルがヘイトを稼いで注目させたところへの暗殺が上手すぎる。


 私はメルを守るから前に出られないのが不安要素ではあったけど。

 前衛盾役にダイル。

 前衛対人火力にアカカゲ。

 後衛火力にソフィアちゃん。

 後衛サポートに私という布陣は思っている以上に、固い。


 こんな思考の間にまたアカカゲが二人殺った。

 残り九人、相手もこちらの異常さに気付いてきた。


 万能モノ持ち疑惑のやつが、何やらハンドシグナルで作戦共有する。あいつが隊長級か。


 ハンドシグナルからやや陣形が変わる、これは……アカカゲを警戒した――――。


 と、分析をしていたところで。


 空間から染み出すように、目の前に敵が出現する。


 魔力感知に反応はなかった、気配もなかった。

 転移やら気配隠匿とかの魔法じゃあないし、歩法のような技術でもない。


 何かしらのスキル効果、恐らく『手品師』のやつだ。昔討伐したゴロツキの中に居た。


 目の前に現れた『手品師』持ちは、真っ直ぐ私の喉に向けて剣で突きを放つ。


 反応が遅れた。

 ブライならもう首を跳ねてるだろうけど、私も老いたし最近はチャコールを鍛えるために動いていたとはいえブランクもある。


 でも流石に、私を舐めすぎでしょ。


 擬似思考加速で、意識だけを加速。

 同時に擬似部分加速の左ジャブでダイルの方へと弾き飛ばす。


 そのまま飛んだ先のダイルに斬り捨てられる。


 正直、この程度の相手なら疑似加速改から部分消滅纏着で全員瞬殺なんだけどまだ援軍が来ることが考えられる。

 この仮パーティでヒーラーは私だけだし、転移での離脱も私しか行えない。ソフィアちゃんがなるだけ魔力を送り続けて延ばしてはいるけどアカカゲの時間制限もある。


 ポピーとクライスがいるならまだしも、このパーティの継戦能力は高くない。

 なるべく魔力は温存して、少なくとも老兵たちが帰ってくるまでは持たせないとならない。


 なんて考えているところで、さっきハンドシグナルを出していた隊長級の男の首が跳ぶ。

 流石アカカゲ、頭を取りに行った。


「――っ⁉」


 敵側にあからさまな動揺が見られる。


 攻めどころか? いや、これは護衛だ。殲滅狙いは慎重に判断する。


 動揺が拡がったところで、動きが悪くなった三人の首が狩られる。残り五人。


 ここで魔力感知に反応。


「援軍が来る‼ 跳んでくるよ!」


 私が全員に共有したのと同時に、五人が転移して……いや転移後の隙を狙ってアカカゲが一人殺した。


 追加は四人、残りは九人。


 九人は飛び上がるように距離を取り。

 同時に訓練場の天井を爆裂系の魔法で吹き飛ばして瓦礫を落としてしくる。


 私は物理障壁を複数展開しソフィアちゃんとメルを守り、ダイルは身体操作のみで瓦礫を弾く。


 無茶苦茶やりやがって……、訓練場壊すな。こんなん二十年前だったら、ギルドの入口に二週間は吊るされるわよ。


 瓦礫を弾いて、構え直す。

 が、九人全員浮遊魔法で宙に浮いて魔法の一斉掃射。


 降り注ぐ魔法攻撃に対して、反射的に範囲多重魔力導線を展開するが。


「ミスった……っ!」


 展開と同時に私は呟く。


 このパーティの対空性能はほとんどない。

 浮遊飛行戦闘は私にしか出来ないし、アカカゲの跳躍力や土竜叩きによる移動でもひらけた空中にあの人数相手だと空間魔法の出入口を的にされる。


 反射的にギルドを守る動きをしてしまった……っ、ギルドは大切に使いましょうってのが染み付きすぎていた。二十年以上前の習慣が……、くっそ地元過ぎた。


 魔法攻撃の雨あられ、まだまだ魔力切れにはならないだろう。

 受けに回ったのは失敗だ、固められてしまった。動けない。


 ここはすぐにメルをダイルに任せて、私が飛び上がって殲滅する場面だった。

 やはり訛っている……、ブランクを感じる。


 魔力を温存しているとはいえ、限界はある。

 まだ向こうがどれだけ援軍や伏兵を用意しているのかもわからない。


 老兵たちが戻るまで……いや、あいつらが戻っても魔物討伐で消耗している。


 思ったよりデカいミスをした……っ‼


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