俺、ブラキス・ポートマンはセブン地域の北の村で木こりをしている。
既婚。
奥さんは美人で巨乳で賢いスーパーマジカル妻であるポピーさん。
結婚して二十年近く経つけど美しさはあいも変わらず、いやはややっぱり魔法使いってのは凄い。
凄腕というか、帝国一番の魔法使いだ。
その昔、まだセブン地域がセブン公国だった頃に国で一番の魔法使いに贈られる賢者の称号を有していた。
メリッサ率いる公国最強の勇者パーティで後衛火力を担当していたくらいだ。
【大変革】でスキルの『大魔道士』を失って魔力量は下がったけれど、それでも抜群の魔法使いとして今は魔道具を造って特許を魔動結社デイドリームに買い取ってもらったりもしている。
助かっているどころか、うちは見た目より裕福なくらいだ。本当に頭が上がらない。
自慢の奥さんだ。
子供は二人。
上の子のチャコは、僕に似て無駄に大きく育った。
冒険者になる為、旧公都へ出たけど土壇場でビビって冒険者ではなくギルド職員になってしまった……。
そんな臆病なところまで似なくて良かったのに……いや、冒険者になる為に公都へ出たはずがビビって遠回りした結果東の果てに辿り着いてしまった俺よりはマシか。公都には着いてるもんな。
昔から冒険者になりたいと言っていたけど、今の冒険者は俺がやってた頃とは違って昔よりさらにろくでなしがやる仕事になっている。
親としては不安がないわけじゃあなかったが、まあ何処でも達者に生きていける程度には鍛えてやったつもりだ。
俺はそこまで力になれなかったかもしれないけど、ポピーさんの魔法知識やバリィの兄貴の杖術や分析と攻略、リコーの姉貴の防御術、クライスさんの医学知識や回復魔法なんかを叩き込んだ。
冒険者になろうがなれなかろうが、ギルド職員になろうが辞めようが、魔法学校の生徒になろうが、【総合戦闘競技】を始めようが。
チャコならどうにかやってみせるだろう。
まあ心配があるとすれば、ちゃんとライラちゃんとのお付き合いをバリィの兄貴に認めさせることが出来るかどうかだけど……。
まあそこは頑張れとしか言えないな。
下の子のスズランは、ポピーさんに似て可愛く賢く育った。
育ったといってもまだ十五歳で学生だから育っているところだ。
背丈は同年代の女の子よりは大きいみたいなんだけど、俺からするとあまり差がわからない……みんな俺より小さいからいまいちピンとこない。
スズは魔法が好きで才能もあったので、ポピーさんの知識をぐんぐん吸収して帝都にある帝国一番の進学校へと入学した。
今は帝都の学生寮で生活しながら勉学に勤しんでいて、小等部の頃に開発した魔動機構が『魔道列車』に採用されたりしている。
学のない俺には詳しいことはわからないけど、他の機構を動かす為の余剰魔力で自動ドアの開閉を行えるようにして何パーセントだかの魔力を節約できるようになったとかなんとか。
もう既に魔動結社デイドリームやら色んな企業や研究機関から声がかかっているみたいだ。
スズに関してはもう道が決まっているというか、選びたいもの選べばいいところまできている。
何も心配いらない。強いていうならボーイフレンドの有無くらいなもんだけど、俺はバリィの兄貴ほど厳しくするつもりはない。人格に問題がなくて丸太十本程度を担いで潰れないくらい頑丈なだけでいい、死んだ俺の親父も俺もチャコも出来る簡単なことだ。つまりちょっと鍛えた優しい男の子なら全然オッケーだ。
でも問題はある。
「……さっみしいぃいぃ――――ぃぃ…………っ」
俺は担いだ丸太を乾燥小屋に積んで、不意に訪れた寂しさを吐き出しながら膝をつく。
寂しい……、まさかこんなに早く子供が自立してしまうとは思わなかった……。
バリィの兄貴やリコーの姉貴から「本当にあっという間だから」って言われ続けていたけど、本当にあっという間だった……っ。
しかもうちの子は多分よその子よりも早い……発育が良かった分、自立も早かったっぽい。無駄にデカい俺に似てしまったせいだ……。
うう……、心が折れそうだ。
「……いやいや何してんの? ほら、チャコの試合が放送されるわよ。一緒に観ましょう」
ポピーさんが小屋で一人項垂れる俺を見て、呆れながらそう言う。
「……うん、行く」
俺はかろうじて返事をしながらポピーさんに言われるがままに立ち上がって部屋へと戻る。
「んもーなに? まーた寂しくなっちゃったの? 確かに寂しいけど、チャコもスズも長距離転移使えるんだから呼べばいつでも帰ってくるわよ」
ポピーさんが俺を気遣ってそんなことを言うが。
「うーんでもわざわざ呼び出すほどの用事もないからな……邪魔しちゃうのも悪いし」
俺はまだ立ち直れずにそんなことを返すと。
「まあまあ、私もちょっと寂しいけど。今は今で久しぶりの二人っきりを楽しみましょうよ」
そう言って、ポピーさんは俺の腕に絡まるように抱きつく。
「それもそうだね」
俺はそう返して、腕に抱きつくポピーさんをそのままお姫様抱っこで持ち上げてソファへと運ぶ。
結婚してぼちぼちもうすぐ二十年、未だに夫婦生活は昼夜問わず良好だ。
ソファでイチャイチャしながら全帝国総合戦闘競技選手権大会の準々決勝を生放送で観ていたが。
「……いやーチャコは準決勝でこの人と戦うのかい? 八極令嬢さん? こりゃあかなりの使い手みたいだよ」
俺は準々決勝第一試合を見終えて弱気な感想を漏らす。
「すごい強い子ね、武術家って感じですごいわねー。消滅魔法とかは使っちゃいけないし、チャコは合気での制圧メインでやり合うのかしらね」
お茶を飲みながらポピーさんは呑気に返す。
うーんまあ確かに、近接格闘においてチャコは斧か合気杖術くらいしか選択肢がない。
あの練度の武術家に大振りの斧を当てるのは難しい、少なくとも俺は乱戦の中とかバリィの兄貴が作り出した隙に叩き込むことは出来ても一対一で当てることは出来ないだろう。
でも合気はどんなことをするにしても基礎的な身体操作に組み込んでいても良い概念というか感覚ではあるけれど、それ単体で勝てるようにしてくれるものではない。
「まあ準決勝の心配より目の前の準々決勝の応援でしょ、ほらほらチャコ出てくるよ」
ポピーさんは考え込む俺にそう言って、二人でやや前のめりに画面を見る。
すると高らかなアナウンスと共にチャコがキョロキョロと辺りを見渡しながら入場してくる。
おー画面に我が子が映ってるって不思議な感覚だな。この間ライラちゃんの試合の後にブチ切れかけたバリィの兄貴止めに呼ばれた時にちょっと会ったけど、なんかこう新鮮に感じる。
そしてそのまま高らかなアナウンスと共に、大歓声の中バク転をしながらお相手のラビット・ヒット選手が入場する。