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04この一撃は少しだけ世界を動かす

「まずはキャロライン選手から、インタビューを行いたいと思います! 本大会も真っ向勝負で相手をねじ伏せる展開が多く見られましたが、準決勝で戦う強力な近接火力を有するチャコール選手相手にもそのスタンスを貫くのでしょうか?」 


 アルコ氏はひとしきり歓声が収まったところで、キャロライン選手にマイクを向けてインタビューを開始する。


「いいえ、勝ち方に拘りはありません。ただ私に出来るのが真正面からの打ち合いのみ……、エンデスヘルツ家の家訓である『これだけは絶対に負けないというものを持て』を遵守した戦いが行えればと考えております」


 キャロライン選手は落ち着いた様子で、品のある声で答える。


 へーかなり厳しい家訓だけど、まあ得意なことを持ちなさいってことなのかな。それで八極拳か……すごいな。


「ありがとうございます! では続いてチャコール選手! 初出場ながらド派手な一撃必殺での快進撃で遂に準決勝にてキャロライン選手との対戦となりますが、やはりここも一撃必殺狙いなのでしょうか?」


 今度はキャロライン選手に感心していた僕にマイクを向けて、アルコ氏がインタビューを行う。


「いやまあ僕も拘りはないですけど……多分どうやっても一撃で決まるんじゃないですかね。お互いにどう当てるかの戦いになるのかなって、考えてます」


 しどろもどろになりながら何とか回答する。


 まあでも実際、一撃当てたら勝ちの勝負になるだろう。格闘戦技量は多分この大会でトップクラスで、しかも魔法に対する防御も多分ライラちゃんに次ぐくらいの実力者…………勝てるかなぁ……。


「ありがとうございます! 一撃の戦いに期待感が高まりますねー。はい、それでは準決勝第二試合で戦うナナシ・ムキメイ選手! 本大会初出場でベスト4ということで、しかも相手は二連覇中の王者! 率直な意気込みをお聞かせください」


 アルコ氏は盛り上がりに欠ける僕の回答を上手く盛り上げながら、ナナシ選手にマイクを向けてインタビューを行う。


「あーはい、どうもどうも。いやー面白いよ、全帝大会編。いよいよ準決勝……さてさてどうなるのか……うーんまあもうでも。使い捨てキャラは多いしケソ・イカミリン=ポテト選手とか居たの覚えてる? カゲツキ・ハネムーン選手とか、あの辺の試合全然話題にならないけど面白かったよ?」


 ナナシ選手はだらだらとマイクに顔を近づけて語り始める。


 あー確かに、どちらも一回戦敗退だったけど一回戦の中では印象に残ってる。でもやっぱり一回戦はライラちゃんとファイブ・セブンティーン選手の試合が派手過ぎたのでそっちが語られがちではある。


「まあ大会編って面白いは面白いんだけど競技的なバトルだから危機感も薄いしイマイチ盛り上がりきらないっていうか、異世界モノにおけるトーナメント大会編ってやっぱトラブル発生のフラグでしかないんだよ。結局ね」


 ちょっと長いのでマイクを引こうとするアルコ氏に追従するように近づきながら、だらだらとナナシ選手は話を続ける。


 ……ん? なんの話だ? 前にちょっと話した時に変な人だとは思ったけど……まあ競技選手はソフィアさん然りラビット選手然り変わった人も多いみたいだから全然普通に変な話もするか。


「だから、ここらでそろそろテコ入れってわけじゃあないけど新編突入する為の展開があった方が面白くなると思うんだよね」


 にこりと笑って、ナナシ選手はそう前置いて。


【ワンスモア】


 不敵にそんな不適切なことを、宣った。


 同時。


 アルコ氏がナナシ選手に殴り掛かるが、ナナシは残像を置いてとてつもない速さで躱す。


「――当たらないよ。僕はスキルが使えるからね、それに放送も止まらないよ。すでに会場と通信局は僕らの仲間が占拠しているし、帝国軍の情報網も少しばかり混乱させてある。現に君も、のんきにインタビューなんてしていただろう?」


 余裕綽々な様子で、躱した際にアルコ氏から奪ったマイクを持ちながらナナシ選手は語り続ける。


 わ、【ワンスモア】って…………あートーンの町でダイルさんから聞いたっけ。懐古主義者たちによる過激派テロ組織、スキル再現とかを行っているとかでアカカゲさんをスキルごと復活させてしまったソフィアさんが【ワンスモア】に狙われることを考慮して護衛してるって話だった。


 というか今の速さって疑似加速……いや、違う。スキル……じゃあ今のは本物の『加速』ってことか……?


「僕たちはみんなに思い出して欲しいんだ。スキルがあってステータスが見れて、そして魔物という明確な悪が存在した世界をね」


 マイクを傾けて仰け反るように、声の平らさと裏腹に大袈裟な動きでナナシ選手の語りは続き。


「この話をどのくらいわかる人がいるのかわからないけど、……。なあ、いるのかい? この意味がわかる人は」


 観客席のカメラを指さして、そんなこと問いかける。


 異世界人……? マジに何言ってんだこいつ。 


「この世界はつまらない。ダメじゃないか、せっかくサプライズモアが面白おかしい世界にしようとしていたのに……勝手に壊しちゃあダメだ」


 格技場を堂々と練り歩ながら、ナナシ選手はやや感情を込めてそう言って。


「だから僕はこの世界を元に戻すために、みんなにスキルの必要性やステータスの重要性……そして魔物の恐ろしさを再確認してほしいだけなんだ」


 大袈裟に両手を広げて、そう宣ったところで。


 格技場に、巨大な影。


 全高十二メーター近く。

 全幅十メーターくらい。

 ネコ科のようなシルエットだが頭部はワシのような形で、羽も生えている。

 爪は鋭く分厚く伸びている。


 こんな動物は存在しない、紛れもなく異形。


 ああそうか、これが――――。


「――魔物だよ。あはは! びっくりしたね、僕らで造ったんだ。かなり量産も出来ているよ。近いうちに帝国のあちこちで魔物による氾濫を起こす。きっと君たちは退けられるだろう、でもスキルがあればって思わずにはいられない程度には傷痕を残す結果になる」


 嬉々としてナナシ選手……いや、もう選手ではなく完全なるテロリストは世界に対する挑戦を叩きつけて。


 突然。


「ほらチャコール君、。楽しみだね」


 僕に向けて、そんなことを言って。


「じゃあね」


 淡白にそう告げて、消えた。


 まただ、転移魔法じゃあない。

 しかもさっきの疑似加速のようなものでもない……、他にも何かあるのか?


 なんて思考を巡らせようとしたところで、喚び出された魔物が動き出す。


「全員下がって‼ 迅速に避難を! 私は第三騎兵団特殊任務攻略隊副隊長アルコ・ディアールです! ここは私が対応します!」


 アルコ氏は魔物の前に出て僕たちへと指示を出す。


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