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03この一撃は少しだけ世界を動かす

 僕は武具召喚で大斧を喚び出す。


 同時に、一回戦でニックス選手がやっていたように土魔魔法で格技場に遮蔽を作りまくり転移先を限定させる。

 本当に運任せならこれで遮蔽に埋まって終わるかもしれないし、何かからくりがあるとしても出現場所を制限できる。


 さらにアカカゲさんのように多重空間魔法を格技場内にバラまく。

 空間魔法の出入口を使って転移で重なった時に特定の場所へ出現させるように道筋を作り。


 出入口に重ねるように。

 出てきたところを大斧で、叩いて――――。


「試合終了おおおおぉ――――――――〜〜っっ‼ 勝者! チャコール・ポートマン選手ッ‼」


 アルコ氏が高らかに試合終了を告げた。


 この攻略法は早い段階から思いついていた。

 まあ流石に目視確認なしで跳んでいたり、格闘戦技量の高さは予想を大幅に上回ったし、格闘戦に対してまだまだ課題は残った結果ではあるけど。


 勝ちは勝ち、僕はこれでいい。


 勝利の余韻に浸ることもなくそのまま僕が退場して、控え室に戻ろうと廊下を歩いていたところで。


「……いやはや、やっぱり凄まじいね。さっきの斧はあれかい? か何かをつけているのかい?」


 斧による一撃で吹っ飛んだラビット選手が、目視転移で僕の前に跳んできて穏やかにそう尋ねる。


「……? いえ、特にそんなことはないですけど……」


 僕はうさ耳転移怪人に素直にそう返すと。


「ふぅん、なるほどね。……君も思いと想いの重さで事象に影響を及ぼせるタイプなのか」


 そんな話を恐ろしい顔のまま続けた。


「しかもまだまだ無自覚だね。その感覚を広げていくといい、の運否天賦転移やキャロラインちゃんの八極拳やライラ選手の盾操作や強度だったりクソガキ王者の畳み掛け力とかは魔法じゃないけど思いや想いが魔力に伝播して結果として現れているものだ」


 つらつらとラビット選手は語る。


 運否天賦転移っていうのか……、というか列挙されたものは確かに卓越したものだ。魔法ではないのに人を超えた現象を起こしているものではある。


 というかこの人こんなに饒舌なタイプだったのか……、見た目が怖すぎてなんかもう全てが面白い。


「君も、あの斧は絶対に止まらないものだと確信している。その思いが伝わった結果、の磁力魔法を振り切ったんだ」


 真摯に、ラビット選手はそう言った。


 磁力魔法を使っていたのか。

 確かに大斧対策にはかなりクリティカルなものだ、金属製の斧は磁力の影響をモロに受ける。あの大量の投擲武器も金属製なので磁力を使ったら色々とまだまだ展開がありそうなものだけど。


 僕はあの時、磁力なんてまるで感じなかった。


「その無意識の確信を広げて強くしていけ、君はもうそれを掴めている」


 ラビット選手は真っ赤に塗られた目元を細めて笑いながら、僕に向けて穏やかにそう告げた。


 無意識の確信……、思いと想いの重さ……、いや正直荒唐無稽な話ではあるんだけど。


 同時に、思い当たる節が幾つも出てきている。

 メリッサさんの消滅纏着とか、親父の怪力とか、バリィさんの分析攻略とか、ソフィアさんの造ったアカカゲさんの存在とか。

 魔法を超えた何かというものの存在は、日頃から感じていた。


 興味深い話だ。

 かなり気になる、もっと話を聞いておきたいのはそうなんだけど。それより先に。


 ……


「あの、良かったらもう少し詳しく伺ってよろしいですか?」


 僕はラビットさんに、そう申し出る。


 ちょっとこの話は深く聞いておきたい。

 それと僕は完全にこのラビット選手のギャップに惹かれてしまった。完全にファンだ、そりゃあ入場時にあんなに盛り上がる。納得だ。


「ああ、いいよ。俺様も君には是非とも勝ち進んで、あのクソガキ王者を叩き潰してもらえるんなら協力しよう。ちょっと着替えてくるから、流石にこの格好は恥ずかしくてね」


 快くラビット選手は了承してくれた。


 いやその格好恥ずかしかったのか……、やっぱ面白すぎるだろこの人。こりゃあ人気選手になる。


 そこから場所を移し、着替えてノーメイクとなったラビット選手からしばらく話を聞いた。めちゃくちゃ好青年すぎて話しかけられてから俺様と言うまで気づけなかった……。


 若干オカルトじみた話だったけど、魔力というものに対する考えが深まった。


 そこからわりと世間話というかシロウ・クロスの悪口やらキャロライン選手の話だったり、競技の先輩としてのアドバイス的なことだったり。


 そんな話を聞いている間に、準々決勝は終わっていた。


 準々決勝第三試合、ロッコツ・ブレイク=ニューイーン選手対ナナシ・ムキメイ選手はナナシ選手が勝利。

 第四試合、シロウ・クロス対マックス・プラスマイナー選手はシロウ・クロスが勝利した。


 まあ全然見てなかったんだけど、ラビット選手の話が面白すぎた。

 いやーまさか、奥さんが学生時代に「俺様系」が好きってのを真に受けて一人称だけを俺様にしていたら癖になってしまった上に、奥さんに「そういうことじゃあない」と冷静にたしなめられてしまったというエピソードは書籍化レベルの完成度だった。


 サインの交換までしてもらった。

 いやーどこに飾ろうこれ、めっちゃ嬉しい。


 そうこうしていると、今回のベスト4にインタビューを行いたいということで格技場へと呼び出された。


 ちょっと緊張するけど、うさぎの耳を頭に付けているわけでもないし生放送されてるらしいから親父とおふくろとスズとかライラちゃんに向けて手でも振ってみよう。


「――それでは! 本大会ベスト4の入場ですっ‼」


 アルコ氏が格技場の真ん中で高らかにそう言うと、観客席から歓声が湧き上がる。


「二度目のベスト4! 今大会も八極拳が猛威を振るう、キャロライン・エンデスヘルツ選手!」


 続けてアルコ氏のアナウンスに合わせて、キャロライン選手が入場してスカートの端を摘んで少し目を伏せてから優雅に格技場の真ん中へと歩いていく。


 うおーかっこいい、えーやっぱああいう入場のパフォーマンスあった方がいいかな。えー何しよ……全然ボキャブラリーがない。


「初出場でベスト4! 魔法も物理も何でもござれの超大型新人、チャコール・ポートマン選手!」


 僕が入場パフォーマンスを考えていると容赦なくアルコ氏は僕の入場をアナウンスする。


 しどろもどろでギクシャクしながらなんとか観客席に手を振って、足早にキャロライン選手の隣に並んだ。


 こりゃ無様だった……まあでも多分家族やライラちゃんとかにも届いただろう……及第点だ。


「同じく初出場でベスト4! 多彩な動きでしっかり完勝、ナナシ・ムキメイ選手!」


 続けてアナウンスされると、真っ白な格好で白々しく不敵にだらだらと歩いて入場する。


 いやーやっぱ白いなこの人、北で生まれ育った僕は白い服を着ると雪に紛れてしまって迷子になっても見つけてもらえないから着る習慣がなかった。


「常勝無敗の二連覇王者! 瞬殺劇で三連覇なるか、シロウ・クロス選手!」


 さらにアナウンス共に、シロウ・クロスが堂々と手を振りながら入場する


 流石に王者、人前へ出るのに慣れている。

 現在、僕の目的はこのシロウ・クロスを畳むこと。ライラちゃんの敵討ちみたいな感じだ。

 彼との因縁は僕としてはそのくらいなんだけど、親世代からすると色々とあったみたいだ。

 特におふくろ……というか旧勇者パーティは、彼の父親であるクロウ・クロスさんとは因縁深い。こないだトーンの町で修行している時もダイルさんはめちゃくちゃクロウ・クロスさんの悪口を言っていた。


 世界最強のギルド職員か……、僕とは大違いだ。


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