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01この一撃は少しだけ世界を動かす

 僕、チャコール・ポートマンは現在全帝国総合戦闘競技選手権に出場する競技選手だ。


 他に語れるような肩書きはサウシス魔法学校の生徒というものだけど……全然授業を受けてない。

 一度魔法学科の試験を一通り受けたけど、理事長であるマリー伯母さんは。


「……この学校で教えられることはないわね。強いて言うなら帝国史とセブン地域公民なんかの社会科が少し弱めなくらいだから……、まあその授業だけ取ったらもう卒業できる単位取れちゃうから今のうちに卒業後の進路を考えておきなさい。私のおすすめとしてはこの学校付属の研究室ね、具体的には私の研究室。今度見に来なさ――――」


 的なことを、言っていた。


 今は【総合戦闘競技】の練習やらメリッサさんたちとの修行で忙しいし、大会が終わったら社会科の授業を取ろうとは思っている。


 ちなみに進路に関しては未定。

 うーん研究室か……学者の道に行くほど魔法に関する探求心とかないんだよな。バリィさんからの影響で、魔法はただの道具であるという思想が強い。

 魔法も斧もあるから使う、使えるから使う、本質は目的の達成であり結果なわけだからそこに拘るのは意味がない。


 でもそう考えたら魔法に関する知識を用いてお金が貰えるんならやりたいことに拘ることもないのか……? この場合の本質ってなんだろう。僕が生きていくってのが本質なら仕事は何だっていいのか?


 見事に進路に悩んでいる。


 冒険者……いや、確かに憧れはある。

 でも僕の憧れた冒険者という仕事は、もう存在しないから。


 まあ仕方なし、僕は十八歳だ。ここからの人生の方が順当にいけば長い。


 閑話休題。


 とにかく僕は暫定的だけど【総合戦闘競技】に精を出している。

 ライラちゃんに見合う男であることの証明をする為に、全帝ベスト4を目標に…………いや目標は優勝になったんだっけ。


 現在準々決勝、第一試合はキャロライン選手とミステリ選手の試合。


 白熱した試合だった。

 いや本当に、本大会で三本の指に入る試合だったんじゃないかな。


 どちらも凄まじい技量だった。

 キャロライン選手の八極拳という武術、あれはもう対魔法に関してこれ以上ない解答だろう。あんなことおふくろやメリッサさんも出来ない。


 ミステリ選手もおそらく装備から、予選で当たったナゾーラ選手と同じく帝国軍の人なんだと思うけど本職ではないのにも関わらず真っ向勝負で立ち向かっていた。


 結果はキャロライン選手の勝ち。


 ええ……、僕ここ勝ち進んだらあれと戦うのか……? 魔法掴んだり地面砕いたりしてたんだけど…………いや、まだいいか。考えるのはここを勝ち進んでからだ。


「西側から入場‼ 勝負を決めるは過剰な一撃! 今宵も魅せるかジャイアントキリング‼ 一撃必殺マジカルマッスル! チャコォオオオオ――――――ゥル・ポォオオオオ――――トマァァアァアアアンッ‼」


 入場したところで実況のアルコ・ディアール氏が高らかに僕の名前を呼び上げる。


 一撃必殺マジカルマッスルも三回呼ばれたら流石に慣れてきた。慣れて尚ダサいのだけれど。


 というか実況といいつつ僕は一度もアルコ氏の実況を聞いた事ないんだけど、どうにも会場では試合中の選手に聞かれてしまうことを考慮して実況は流れないらしい。

 基本的に音声収録して『ラジオ通信結晶』や『映像通信結晶』で聞けるみたいだ。


 そんな緊張感がないことを考えていたところで。


 肌を刺すようなプレッシャーを放ち、反対側の入場口から相手選手が入場してくる。


「東側から入場‼ 跳んで跳んで気づけば地獄の一丁目! 今年は王者奪還なるか‼ 元全帝王者、地獄兎‼ ラビイィィィイィット・ヒイィィィイ――――〜〜ットォッ‼」


 アルコ氏が高らか呼び上げたところで、綺麗なバク宙をしてポーズを決めたのは。


 うさぎの耳が高く伸びたカチューシャをつけて。

 白く塗った顔に目の周りと口の周りを赤く塗った奇抜なメイクに。

 ボロボロのジーンズを履いて、足元は何故か地下足袋。

 上半身は素肌にそのまま縫い目と荒く縫い付けられたうさぎのアップリケだらけの白衣を身に纏って。

 両手に錆びた出刃包丁を握っている。


 地獄兎ラビット・ヒット選手だ。


 凄まじいプレッシャーというか、単純に見た目が怖すぎる……ええ……街にいたら即通報だろう……その格好。

 コンセプトが意味不明すぎる。

 いやホラーがコンセプトなんだろうけど、ホラーコンセプトにしてももっとこう……なんか色々ある中で狂気に振りすぎだろう。僕が子供だったら泣いているぞ、トラウマレベルだ。なんかこう出刃包丁が錆びてるのがまた恐ろしい……人刺してるだろその包丁。


 だが、バク宙による入場によって会場全体が一気に湧く。


 に、人気がある……っ。

 全然僕の入場より盛り上がっている……、今日はライラちゃんが普通に司書の仕事で来てないしライラちゃんがいないならバリィさんたちも来ない。うちの両親も生放送で応援するといって観に来てはないし、妹のスズは学校だから来てない。

 つまり僕の応援はテリィ君だけなのに対して、この歓声……。アウェーだ。


 いやそりゃあシロウ・クロスが王者になる前の全帝王者なわけだから、超有名選手でファンも多いんだろうけども。

 あのビジュアルが帝都では受け入れられているのか……都会は違うな。


 まあ、それだけ強く競技選手として優秀ということなんだろう。


 実際、過去の試合映像をいくつか見たりライラちゃんから聞いたりしたけど。


 基本的に連続した短距離転移で跳びまくりながら、無尽蔵に包丁やナイフや石なんかの物理投擲を行う。

 試合終了後に格技場内が散乱する錆びた武器類で埋まり、ばら撒かれた錆びた武器類の上で踊るように飛び回る姿から着いた異名は地獄兎。


 めちゃくちゃ強い。

 基本的には圧勝、相手に何もさせずに押し切る試合が多かった。

 王者陥落したシロウ・クロスとの試合は勝ってるシロウ・クロスを見たくなかったので見ていないけど。


 去年ライラちゃんとの試合は見た。

 とんでもない量の投擲攻撃をライラちゃんが捌ききって、風魔法で砂や小石を巻き上げて転移を繰り返すラビット選手に当てて時間制限いっぱいまで使って微量のダメージ差でライラちゃんが勝利していた。


 かっこよかったけど、まるで参考にはならなかった。


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