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03大義は人を強くも弱くもする

 私は『風爆半長靴』と武具召喚で喚び出し着装した『魔力推進バーニア』を用いてくるくる回るように、地面を滑るように翻弄しながらキャロライン嬢へと迫り。


 出力六十パーセントの『強化魔動義手』を遠心力と推進力ごと叩きつけを狙う。


 一応右腕を競技用に調整してはいるが、基本的にこれは必殺の威力を誇る技だ。

 実戦では光学迷彩や煙幕との併用しての奇襲で使うが、彼女の魔力掌握力だとどちらも効かないことが考えられる。


 だが私は八極令嬢が、この手の攻撃を避けないことを知っている。


 迎撃はキャロライン・エンデスヘルツの得意技。

 どんな攻撃もカウンターにて一撃で叩き潰す。

 つまりこの一撃も、カウンターを狙ってくる。


 翻弄する動きから、くるくると回転数を上げてそのまま間合いに入って。


 、弟が考えてくれた技だ。


 遠心力と推進力ごとキャロライン嬢に叩きつけようとしたのと。


 同時。


 キャロライン嬢は震脚の衝撃波で私の『風爆半長靴』と『魔力推進バーニア』に魔力干渉しながら、八極拳のもうこうざんと呼ばれる突きを放ち。


 私の右拳とキャロライン嬢の右拳が衝突。


 一瞬魔力による発光現象が起こるほどの衝撃で、二人とも吹き飛ぶ。


 ぃい痛ぁ――っ! 右腕の接続部ごともげて飛ぶかと思った……っ。

 この『纒着結界装置』は身体に結界を追従させる仕様上、関節可動域への負荷は逃がせないし右腕と右腕の接続部は生身じゃないので結界が追従してくれない。


 でも、だからこそキャロライン嬢の持ち味である発勁は私の右腕には通らない。


 私は『風爆半長靴』で吹き飛びながら姿勢制御を行い、再びくるくると回り出して次の一撃を準備する。


 まだ『強化魔動義手』は持つ、あと二発は打てる。

 出力も上げる、次は八十五パーセントだ。


 そのまま『魔力推進バーニア』も全開にして、間髪入れずにキャロライン嬢へと迫る。


 キャロライン嬢も崩れた体勢を立て直しながら、しっかり私を目で追って構える。流石に立て直しが迅速だ、身体の中に通っている軸が太い。


 でも出力勝負ならさっきので五分だった。

 今回吹っ飛ぶのは貴女だけよ。


 再び回転数を上げ最高速度で接近して、二発目であるを放つ。


 だが今度は私の打をいなすように、先程収束電撃伝線魔法を投げ捨てたのと同じように私の腕逸らし。


 そのまま私のふところに潜り込んで、地面を割る程の震脚から真っ直ぐ中心、だんちゅうへと肘を合わせる。


 寸前。


「――――っ、く、はー……っ、あっぶ……な」


 紙一重のところで目視転移で離脱するも体勢を崩して転がって距離をとって呟いて身体中から汗が吹き出す。


 あれはもんちょうちゅうと呼ばれる技。

 肘を使った体当たりと言えば簡単な技に聞こえるだろうが、発勁を乗せた一撃必殺だ。

 生身で貰っていたら胸骨から陥没して背中から心臓が飛び出るくらいの威力はある。


 間違いなく『纒着結界装置』も消し飛ぶ、装置を付けていても死を感じさせるほどの危機感が身体に駆け巡った。


 目視転移で魔力をごっそり使った『魔力推進バーニア』と『風爆半長靴』の最大出力連続使用でも魔力がなり持ってかれている。


 だが離脱はできた。


 姿勢制御から『強化魔動義手』を臨界出力へ。

 もう逸らしたり流したりは出来ない威力で殴りぬける。


 回転数を上げてくるくると回る。

 三発目、これがこの右腕の限界。魔力量的にもここで決めるしかない。


 推進出力全開、さらに今度は電気信号筋力強化魔法を追加して間合いに突っ込み。


 三発目である、を放つ。


 キャロライン嬢は当然のように、迫る拳を避けず。


 踏み込んだ震脚で格技場全体が数センチ沈んで、歪みが拡がるように地面が砕け。

 同時に放たれた、本日一番の発勁を込めたぽんけんと私の拳がぶつかり合って。


 私の右腕だけが弾かれた。


 生身の腕だったら発勁が通って破裂していただろう、そんなダメージを負ったら『纒着結界装置』は敗北を告げるだろう。


 機械の腕だから耐えられた。

 心の熱が一気に体を駆け巡って魔力と混ざって目から炎が噴き上がる。


 右腕が弾かれた反動で逆回転。

 同時に武具召喚で左手に『融合装着型強化魔動左腕』を着装、臨界出力へ。


 これが奥の手、最後の一撃。


 だ。


 私の左拳はキャロライン嬢の凄まじい出力をそのまま返すように。


 キャロライン嬢の右脇腹へクリティカルに当たり。

 勝利の感触が左拳へと伝わって来た。

 その瞬間。


 キャロライン嬢の目が燃え上がる。


 脇腹に食い込む拳の勢いそのままに、ぐるりと半身をこちらに預けるように無理矢理流し。

 そのまま地面が私たちを中心に一瞬で円形に沈み。

 私に預け、接触した背中から発光するほど凄まじい発勁が放たれる。


 ああ、知っている。

 私は何だかんだで八極令嬢のファンだから、これは知っている。


 てつざんこう

 八極拳といえばこれというほどに、基礎的で最大火力を誇る技だ。


 接触から一拍の静寂。

 時間が止まったかのような感覚の後。


 大爆発。


 それ以外に言いようがない。

 とんでもない衝撃で私は『纒着結界装置』から敗北を告げるブザーを鳴り響かせながら吹っ飛ばされ。


 そのまま格技場の壁に叩きつけられて。


「試合……終了ぉぉおおおおおおおおぉぉお――――――っ‼ 激戦を制したのは、八極令嬢キャロライン・エンデスヘルツ選手ッ‼」


 アルコさんが、高らかに勝者の名を呼んだ。


 完敗だ。

 敗因はいくらでもあるし、言い出したら全て言い訳になるから言わない。

 結果が全てだ。私は任務を失敗した。


 これで特殊任務攻略隊は準決勝には残れない……、最悪だ。


「ミステリさん、大丈夫ですか? 義手や義手側の肩に問題はありませんか?」


 壁に叩きつけられてへたり込んで落ち込む私に、キャロライン嬢は優雅に歩きながら近づいて尋ねる。


「ええ、問題ないわ。ありがとう、流石に強かったわね。完敗よ」


 私は笑顔を作って、彼女に返す。


「いえ、紙一重の勝利でした。貴女を飛ばした直後に衝撃で私の『纒着結界装置』もブザーが鳴っていました。貴女の一撃を貰った段階で結界は既に限界寸前だったのです」


 彼女は眉をひそめて、真摯に語り出す。


「もし私の一撃が必殺足りえなかったら、もし貴女の一撃がもう数ミリ私に食いこんでいたら……結果は違っていたでしょう」


 続けて彼女は脇腹を擦りながら、最後の一撃についてを語った。


 そんなにギリギリだったのか……。

 尚更悔しくもあるけど、帝国最強女子をそこまで追い詰められたという嬉しさもある。


 …………いや、やっぱ悔しいわ。


「間違いなく、私の人生においてベストバウトでした。貴女との戦いは、この大会を優勝して歴史に刻ませていただきます」


 彼女は力強く、そして優雅に美しく私に向けて笑顔でそう言って手を伸ばす。


「はは、応援するよ。後でサインちょうだいね」


 私はそう返して、右手をぎくしゃくと動かし彼女の手を取って立ち上がった。


 任務は失敗だけど、やりきった。

 正直、ここだけの話。


 めちゃくちゃ楽しかった。


 ミステリ・トゥエルブこと特殊任務攻略隊ステリア・エルブラン。


 準々決勝敗退。


 並びに八極令嬢キャロライン・エンデスヘルツ。


 準決勝進出。


 まあでも結局、私たちが懸念する通りに【ワンスモア】は動き出して大会どころじゃなくなってしまうんだけど。


 彼女が優勝する姿を見たいので、大会が行えるようにするっていう。


 私が【ワンスモア】を叩き潰す理由が一つ増えたのは、良かった。


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