目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

02大義は人を強くも弱くもする

「東側から入場‼ 謎に包まれた超絶ルーキー! えーっと、! 特になし、ミステリイィィィイィ――――――――っ・トゥゥゥウエルブウゥゥゥゥ――――――――~~ッ‼」


 アルコさんのとんでもない紹介で私も入場する。


 いや……っ、なぜ私がTバック派なのをバラしたんだあの人……っ!


 アルコさんはディアール隊長の娘さんで、私の一期先輩でもありかなり付き合いもある……。

 司会進行兼実況として、大会に潜入している。


 多分私たちが大会のエントリーシートを適当に埋めすぎて煽り文が考えられなかったのだろう……。謎のルーキーなのにTバック派という事実だけが流布されてしまった……。いやだとしてももっと他にあったでしょ……絶対私が隻腕な情報の方が盛り上がったって!


 かなり恥ずかしいがミステリ・トゥエルブも偽名だし仮面もしているから私生活に支障はないけど……。


 いや本当に私は意外と大胆な下着が好きとかじゃなくて、装備的に割とタイトなウェアを着ることが多くてボクサータイプだと蒸れるしラインも出るからTバックを身につけることが多いだけなの! 軍にはわりといるから! Tバック派!


「……私もTバックの下着は持っていますよ。珍しいことでもありませんし、恥じることもありませんことよ」


 どぎまぎとしている私にキャロライン嬢が、謎の励ましの言葉を向ける。


「え、ええ。お気遣いありがとうございます……」


 私はかろうじて、キャロライン嬢へと感謝を告げる。


 かっこよく決意を固めたつもりだったけど、まさかのTバックの件でなんか力が抜けてしまった。


 いや、切り替えよう。

 もしこのタイミングで【ワンスモア】が何もして来なかった場合、私は準決勝に進まなくてはならない。


 つまり【ワンスモア】の襲撃を警戒しながら、八極令嬢キャロラインに勝たねばならない。


 厳しいがこれが軍務。

 やれといわれたことをやり遂げるのが私なのだから。


「それでは! 準々決勝第一試合……………………、試合開始イィィィ――――――~~っ‼」


 試合が始まった。


 キャロライン嬢の使う八極拳は、入身から発勁と呼ばれる抗力や反力や重さや魔力など様々な力を流し込んで爆発させるような打を通す武術だ。


 踏み込みと姿勢と呼吸、一朝一夕では身につかない。

 何年も何万回も徹底した鍛錬を行って身につけたものだ。


 私とは重さが違う、魔法はイメージだ。

 徹底的な鍛錬は強固な確信を生む。


 でもそれは私にも同じ、私には大義がある。

 キャロライン嬢の気高き誇りが、徹底した鍛錬を可能として勝利への確信を生んだように。

 私も軍人として大義は、遂行という結果を生む。


 まずは距離を取る。

 キャロライン嬢は下手な遠距離魔法であれば、叩き落とす。

 だが不用意に近づくのも自殺行為。


 私は魔動装備『風爆半長靴』を第三騎兵団名物魔法人馬一体の応用魔法で馬を超える機動力を有する。

 これは私にとって唯一と言っていいほどのアドバンテージだ。


 有事に備えて魔力消費は『予備魔力結晶』一つまでに抑えたい。


 雷鳴撃で攻める。

 雷系統魔法の放電音を風系統で空気振動を倍増し、任意方向へ凄まじい音を発射する魔法。


 魔力操作は面倒だが手元で完結する分魔力消費は抑えられるし、単純に音は見えない上に文字通りの音速。


 打ち落とせるものでもない。

 機動力で牽制しながら多角的に雷鳴撃を放つ。


 まずは初撃で削り、接近時に合わせて置き魔法で削り続ける。近接格闘戦には持ち込ませずクレバーに――――。


 なんて私の思考を一気にひっくり返すように。


 キャロライン嬢は、しんきゃくというもので地面が砕けるほど踏み込み。

 その衝撃波と轟音で、雷鳴撃を相殺させた。


 なっ、そんなことが出来るの……っ?

 身体強化だけじゃあ説明がつかない、だが魔法にしては直感的すぎる。


 思いと想いの重さがそのまま事象に影響を及ぼしているかのような。

 本当にただ踏み込んだ勢いで雷鳴撃を迎撃したようにしか認識できていない。


 これが八極拳か。

 競技選手だと侮っていたら、一撃で吹き飛ばされる。


 切り替えろ、こちらもギアを上げていく。


 私は『風爆半長靴』での立体軌道を加速し、私は右腕の『強化魔動義手』の出力を四十パーセント解放。


 さらに今度は雷鳴撃ではなく多角的に収束電撃伝線魔法を放つ。


 電撃を拡散させずに収束させて、空気を伝わせて真っ直ぐ飛ばす。単純に言うと雷を垂直方向に放つような魔法だ。


 光線魔法ほど速さや貫通性能はないが、躱せる速度にもない。

 放ったと同時の着弾する速度だ。


 


 キャロライン嬢は電撃を優雅に、手で受け流すように。

 、そのまま真っ直ぐ私へと向かってくる。


 な……っ⁉ なんだそれ、電撃を触った……?

 そしてそのまま掴んで投げた……?


 何を――――いや、わかった。


 彼女は魔力を触れるんだ。

 万物に流れる魔力の流れに触れることが出来て、そのまま魔力操作を行える。


 己の打に思念……重い思いと想いを乗せることで触れた魔力の流れをそのまま事象へと変化させる。


 思い通りの結果を生み出している。


 これが八極拳ということではないのだろう。

 これは八極拳という武術を通じて出来上がったキャロライン・エンデスヘルツの特性だ。


 彼女が踏み込めば魔法は届かない。

 彼女が触れば魔法はねじ曲がる。

 魔力で起こる全ての影響は、彼女の思いと想いの重さによって上書きされてしまう。


 つまり彼女に魔法は通じない。

 魔力で動かしている限り彼女の八極拳は全てを叩き潰す。


 これが【総合戦闘競技】における、最強の女。


 でも。

 それでもなんだよ。


 私は『風爆半長靴』を停止して地面に立ち。

 右の手のひらを向ける。


 人差し指から順番にゆっくりと、折り曲げて。

 最後に親指で力を閉じ込めるように、握り込み。


 拳を作る。


 それを見てキャロライン嬢は少し驚いた顔から、歪んだ笑みを見せて構え直す。


 魔法が通じないんなら殴り合いしかない。

 幸い私はこれが好みだ。

 義手になってから殴るのが楽しくて仕方ない。


 本当は余力を残して勝ち進みたいが八極令嬢を相手にそんなことは叶わないし、そんなことじゃ敵わない。


 今出来る全力で叩き潰す。


 敗退すれば彼女はこの大会から距離を置くことが出来る、つまり【ワンスモア】の凶行から守ることが出来る。


 一人でも多く守る。

 結果的に、任務遂行へと繋がるからね。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?