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01大義は人を強くも弱くもする

 私、ステリア・エルブランは…………いや今はミステリ・トゥエルブね。


 私、ミステリ・トゥエルブは帝国軍第三騎兵団特殊任務攻略隊に所属する軍人である。


 現在、私たち特殊任務攻略隊は【ワンスモア】襲撃に備えて全帝総合戦闘競技選手権大会に選手として潜入している。


 準々決勝に行われる全土放送を狙って【ワンスモア】がことを起こすということらしい。


 そのために我々は、選手として大会に参加して準々決勝まで勝ち残り同じく選手として紛れ込んでいると思われる【ワンスモア】の人間が暴れだしても迅速に止められるように警戒をしているのだが……。


 とりあえず、一旦準々決勝の組み合わせを見てほしい。


 第一試合。

 八極令嬢、キャロライン・エンデスヘルツ

 VS。

 特になし、ミステリ・トゥエルブ。


 第二試合。

 一撃必殺マジカルマッスル、チャコール・ポートマン。

 VS。

 地獄兎、ラビット・ヒット。


 第三試合。

 あんま今笑わせないで、ロッコツ・ブレイク=ニューイーン。

 VS。

 なし、ナナシ・ムキメイ。


 第四試合。

 瞬殺王者、シロウ・クロス。

 VS。

 誤差なし、マックス・プラスマイナー。


 これが今年の全帝ベスト8なんだけど……。


 特殊任務攻略隊は、私一人しか勝ち進んでいない。


 いやマジにみんな何やってんの?

 これでも私たちって第三騎兵団でもまあまあな精鋭揃いの部隊なのに、私以外二回戦敗退どころかゾーラとか予選敗退したしテナーもソルも初戦敗退って……。


 うーん【総合戦闘競技】の選手層が厚いと考えるべきなのか私たちが慢心軍人集団だったのか……。


 一応、団長の弟子であるシロウ君がいるが。

 確かにシロウ君は強いし、第三騎兵団全体で見てもシロウ君を超える技量を持つ者はそうそう居ないだろう。


 だが、まだ彼は訓練生だ。

 正規の軍人ではない。


 士官学校に所属している時点で民間人とはいえないのかもしれないが、訓練生は訓練生だ。民間人と変わらない。

 私は、命をかけるのはプロだけで良いと思っている。


 思っている以上に【ワンスモア】は悪逆非道な連中だ。


 三年前に起こった、ナイン地域刑務所襲撃事件にて【ワンスモア】は囚人たちの解放を行った。


 囚人たちの中には旧セブン公国貴族、しかも元騎士団の人間が多く収容されていた。


 セブン公国侵攻時の戦犯や、公国統治環境下で悪政を強いていた者などの中で支持者が多く処刑してしまうとさらに暴動などが起こりうると判断された者たちだ。


 それらの解放と合流を狙っての事件だと言われているが……、解放されたのはそれだけではなかった。


 ほとんどの囚人を【ワンスモア】は連れ去った。

 だがあくまでもほとんどだ、一部の犯罪者はそのままナイン地域に解き放たれた。


 そのうちの一人が、猟奇殺人鬼であるディルエン。

 老若男女を問わずに五十三人を惨殺し、死刑の決行を待つだけだったところを【ワンスモア】の襲撃によって解放された。


 ディルエンは解放後、ナイン地域内でさらに十三人を殺して二十五名の重傷者を出した。


 十三人の中には私の弟が含まれており。

 二十五名には私と父が含まれていた。


 弟はまだ子供だった、十歳になったばかりだった。年の離れた弟だった。

 私は軍に入って三度目の長期休暇で、ちょうど里帰りをしていた。


 私は休暇中ではあったが刑務所襲撃事件の事後処理に駆り出された。当然だ、前代未聞の大事件で現場は混乱を極めていたし刑務所と近隣の町には軍の介入を防ぐために『転移阻害転移結晶』や『通信阻害結晶』がばら撒かれていたので、それらを見つけ出すして破壊する為の人員が必要だった。


 だから私は家には居なかった。


 私が弟を見た時には、もう人のかたちをしていなかった。

 抵抗しようとした父は執拗に手足を潰されて、瀕死の重体だった。クライス・カイル=クラックの到着が遅れていたら父も死んでいただろう。


 私はディルエンを追った、三日三晩寝ずに追ってついに追い詰めた。


 だが、ディルエンは想像以上に狂っていた。

 壊れていたのだ。


 見つけ次第に処刑の許可が降りていたので、私は火炎弾や雷鳴撃で殺そうとした。


 だがディルエンは燃えながら私に抱きついて、道連れにしようとした。

 振り解けない有り得ない力で、何度剣で刺しても蹴りを入れても笑いながら抱きつくのを止めなかった。

 それでディルエンは大笑いしながら死に、私は大火傷を負った。

 しかも右腕が完全に炭化してしまいクライス・カイル=クラックでも手の施しようがなかった為、私は右腕を失った。

 今はデイドリームの『強化魔動義手』で補って、軍人を続けている。


 過激派テロ組織【ワンスモア】は、世界を顧みない。

 こんな奴らを相手にするのは、巻き込まれるのは、私のようなプロだけでいい。


 命をかけた者から先に、命は失われるべきだ。

 だから私はここにいる。


「西側から入場‼ 帝国最古の旧貴族エンデスヘルツ家のご令嬢! 誰にも負けないものを持つ為に極めに極めた二の打要らずの、八極拳ッ‼ 八極令嬢、キャロライィィィ――――――~~ンっ・エンデスヘルツうぅぅぅう――――――――ッ‼」


 アルコさんの高らかな紹介によって、キャロライン・エンデスヘルツが入場する。


 前大会ベスト4の、優勝候補。

 文武両道で眉目秀麗で才色兼備で冷酷無比にして、

 エンデスヘルツ家は大昔から帝国を支えてきた良家で、今でもエンデスヘルツが領地とする街や管理するインフラなども存在している。

 領地の幸福と安寧を守るため【大変革】前から積極的に冒険者や軍人の排出を行っており、彼女自身もまたその為に尽力してきた。


 それが故の八極拳。


 いくつも八極令嬢伝説を残していて、去年は領地に手を出そうとしていたギャング組織を単身で拠点に乗り込み一網打尽にして警察へと突き出したりもしている。

 エンデスヘルツの誇りである、誰にも負けないことを示す為に【総合戦闘競技】にも参加して全帝ベスト4の実力を帝国中に知らしめた。


 かく言う私も彼女のファンだ。鉄壁天使より八極令嬢派だ。

 単純に考えれば、競技における実力は絶対に彼女の方があると言える。


 しかしこれは任務だ。

 準々決勝まで進んだ時点で勝敗はそれほど関係がない。


 全力で手合わせしてみたかったと言えば嘘になるけど、私はプロだ。


 私は彼女も守って見せる、全員助ける。

 血を流すのは、逆賊と軍人だけでいい。


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