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02思いもよらぬ奇跡は感動よりも動揺が先にやってくる

 気持ちが悪い……、何を考えてんだ?


 これが百歩譲ってキャミィとかがどうしてもアカカゲに会いたくてとかでやったことなら、まだ納得はできる。

 キャミィとアカカゲは恋仲だった、お似合いだった。間違いなく俺とリコーに次ぐベストカップルだった。

 だからキャミィがかつての仲間で恋人だったアカカゲを蘇らせるのなら、悲しすぎるが納得はする。

 まあキャミィは【西の大討伐】の後にトーンで帝国軍人のジャンポールと出会って結婚して子供もいて幸せに暮らしているらしいから、こんなことは絶対にしないのだが。


 いやしかし……。

 戦って戦って、死ぬまで戦って、ボロボロになりながらもキャミィを生き残らせるということだけを、成し遂げて死んだアカカゲを……。


 引っ張り出して、なんでまた戦わせるんだよ。


 休ませてやるべきだろ。

 死ぬまで戦った人間を叩き起して、また戦わせんじゃねえよ。


 俺は勝つためにはどんな汚ねえこともなんでもやる、家族を人質に取るし、子供を盾にする。


 だが死んだ人間をまた働かすなんてことは、流石にやらない。


 それに……わかっているのか?

 これは、擬似的な不老不死を実現したことになるんだぞ?


 しかも、あのアカカゲの動き。


 間違いなくスキルの『忍者』による補正が働いている。


 流石に二十年ぶりに改めて見るとスキル補正ってすっげえ不自然だ。

 かつてのビリーバーたちが作ったサポートシステムなしでも、擬似的にあの人形の中にサポートシステムみたいな処理まで行われているようだ。


 以上、分析完了。


「……あのお嬢ちゃんは、どうやら偶発的にアカカゲを擬似的に生き返らせちまったみたいだな。多分、元々は戦闘データだけを使うだけだったみたいだが……人格やスキルまで再現せれちまったみたいだな」


 俺は二秒で分析した内容をリコーに伝える。


「……この試合終わったら、あのお嬢ちゃんとっちめてからソーラープレキサスブロー抉り込むようにみぞおちに一発かます……っ。あんなの、アカカゲが可哀想だ……っ!」


 リコーはポロポロと涙を流して言う。


 まあソフィア嬢も多分悪気はないんだろう、あくまでもこの事態は想定していなかった様子だ。


 だからこその純粋悪。

 無邪気な狂気が生み出した奇跡なんだろう。


 さて、それはそれとしてだ。


 問題はこの試合、チャコじゃあアカカゲには勝てねえってことだ。


 アカカゲはトーンの冒険者で対人戦最強格、あのブライすら畳むほどの実力者。


 チャコは強い。

 ポピー嬢の魔法センスとブラキスの腕力を持つ時点で割と人類最強ではあるんだが。


 アカカゲは人類なら誰でも殺せる。


 人を殺すために生まれて人を殺すために育って人を殺して生きてきた暗殺者だった。

 だから冒険者になって人じゃあない魔物相手には苦戦したし、人間超えすぎて怪物だったクロウには挑みもしなかったが。


 あいつはの中で戦闘とは殺人における状況の一つでしかないと思っている。

 本気でアカカゲがチャコを殺すと思ったのなら、チャコはその時点で殺されているのと同義なんだから。


 さて、そんな旧友への追憶の中でも試合は展開していく。


 チャコは斧を手放して身体強化と転移魔法で急所への攻撃は回避に徹しているが、死角からの棒手裏剣やらでチビチビと『纒着結界装置』が削られている。


 だがこれはチャンスでもある。

 アカカゲは『纒着結界装置』を知らないのだ。


 競技的にチャコは背中を短刀で思い切り斬り付けられていて棒手裏剣は大腿部や上腕に刺さっているのと同義なのだが、アカカゲからしたら謎の防御魔法で通っていないと感じているはずだ。あんなもん二十年前はなかったんだから。


 多分俺がチャコに……いや、奴からしたらブラキスに俺がなんかしらの防御魔法をかけているとでも思ってんだろう。

 そうなると毒煙やらを吸わせたり、呼吸器を狙いたいんだろうが競技的に反則となる装備をソフィア嬢が携行させるわけもない。


 アカカゲが狙うんなら関節技。

 チャコならそこまでアカカゲの狙いを読むことができるはずだ。


 だが、ここでソフィア嬢の援護が輝く。


 アカカゲの動きを邪魔しないように、ホーミング気味な光線魔法でチャコの防御魔法を削る。


 さらに、狙っているわけではないだろうが防御魔法に着弾した際の閃光による目つぶしを上手く使ってアカカゲが攻め立てる。


 ソフィア嬢も後衛慣れしている。人形遣いってくらいだ、こういう裏からの攻撃には慣れているようだ。


 そうなると、アカカゲはさらに伸び伸びと動ける。


 偽無詠唱で白煙爆と多重空間魔法を発動。

 完全に『土竜叩き』へと移った。


 煙幕で視界を塞ぎ、空間魔法間の高速移動と気配の分離による擬似的な分身により魔力感知も防げる。


 トーン最強のベテラン勢を支えた、撹乱戦法だ。


 さらに恐らく空間魔法出入口を上下に配置して棒手裏剣を無限落下させることによる終端速度棒手裏剣も準備している。


 あれは鎧を着たリコーの強度すらも貫通する威力がある。


 だけどまあ、良かった。

 これならチャコの勝ちだ。


 俺はチャコの勝利を見届けるため、強視力魔法で煙幕を見通す。

 これはクロウの疑似加速みたいな、スキル再現魔法で『狙撃』の再現を俺なりにやってみた際に出来た魔法だ。

 結局『狙撃』の再現は出来なかったので出来損ないの魔法だが便利ではある、便利すぎて犯罪利用出来てしまう恐れがあるので周知はしていない。念の為。


 チャコは煙幕の中で、武具召喚にてじょうを喚び出して合気じょうじゅつで対応する。


「……っ⁉」


 アカカゲは想定外の捌きに無い眉を上げて驚く。


 そりゃそうさ、そいつはブラキスじゃあない。

 こんな器用な戦い方、一撃必殺怪力大斧男のブラキスじゃあ出来ないがチャコは違う。賢者と呼ばれた天才魔法使いポピー嬢の器用さを遺伝している。


 さらにこの煙幕で、ソフィア嬢は援護が出来なくなっている。

 後衛はキャミィでもテラでもないんだよ。おまえの動きに合わすことができるほどの連携技量はソフィア嬢にはまだない。


 俺やクライス君が仕込んだチャコのじょうじゅつは甘くない、崩し目的の打ち込みでも骨を砕くことがある。実際、何回かへし折られてクライス君に内緒で治してもらっていた。


 アカカゲの『土竜叩き』は縦横無尽だが、クロウのような不可視の超高速移動でもメリッサのような連続目視転移でもない。


 魔力感知は難しいし煙幕で視認性も悪いが音や匂いや雰囲気、そんな勘の域にある気配に反応出来れば対応はできる。俺には無理だが少なくともリコーはできた。


 援護はない、この煙幕の中でも狙いは関節技だとわかっている。


 それなら――――。


…………っ!」


 チャコは捻体足絡みを狙ったアカカゲの足を鷲掴みにして思わず喜びを口に出して、空間領域から力任せに引っこ抜いて。


「――ッ⁉」


 そのまま、思いっきりソフィア嬢と対角の壁に驚愕するアカカゲをぶん投げた。


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