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04自覚のない狂気は稀に奇跡を起こすこともある

 私は人形に残留思念の読み取りを行う装置や機構を組み込んで、帝国中にある伝承や街談巷説を頼りに残留思念が焼き付いているであろう場所を回りました。


 そして残留思念の読み取りに成功。

 すると当初、予想していなかったことが起こりました。


 残留思念から読み取った情報で、魔法だけではなく行動の再現まで出来てしまいました。


 要は、


 靴職人の方の残留思念だったようで、木槌で革を打つ動作をゆっくりと人形は行いました。

 これをヒントに、戦えるような情報を持つ残留思念を読み取って。その記憶にアジャストした人形を造り上げました。


 それが『自動人形』です。

 まあ自動といっても、私の思惑というか行動の方向性を魔力操糸で伝えなくてはならないのですが。

 私はこれを用いて、何体かの『自動人形』を造り上げてきましたが。


 今回の残留思念は、今まで観測した中で最強でした。


 セブン地域西の街、新シャーストよりもさらに西へ行った荒野で見つけた残留思念。

 恐らくセブン公国時代の【西の大討伐】で亡くなった、冒険者のものでしょう。


 私はこの残留思念の持つ戦闘経験値を可能な限りそのまま発揮できるように、様々な魔導物質や機構を盛り込んで複雑な専用の人形を造り上げました。

 中には魔動研究会で実験中の思念によって形を変える『思念影響魔力金属』のような、他では手に入らないような素材も使われています。


 おかげで研究費用がいくらあっても足りません。

 この研究の有用性を知って貰えればまだまだ私の研究は続く。


 でも…………っ、これは本当にギリッギリです。

 機構を複雑にした分、起動シーケンスにかかる時間が少し長くなっています。


 かなり短く改良出来たとはいえ……、三十秒はギリギリです。

 こんなことだったらもっと図々しく一分くらい……流石に無理か。


 チャコール氏は防御魔法を展開し例の大斧を構え準備万端の様相でこちらを見ています。


 そろそろ三十秒が経つ……いつ動いてもおかしくはな――――。


 そんな思考の中、チャコール氏が消えた。

 同時に私の真横に現れて、斧が迫って来ていた。


 目視転移からの、斧による近接攻撃。

 予選で見せた一撃必殺の動き。


 ああ、終わった――――――。


 


 『収納箱』から『自動人形』が飛び出して、凄まじい反応速度でチャコール氏の首元に短刀を滑らせる。


「――――ッ」


 チャコール氏は紙一重で斧を引いて、回避した動きのまま距離をとる。


「……お待たせいたしました。これが私の研究成果、残留思念魔力変換機構搭載型半自律行動戦闘用『自動人形』……通称『赤』です」


 私は『赤』の陰に隠れて、防御魔法を展開しながらそう宣った。


 赤い髪に赤いマフラー。

 武器は短刀と棒手裏剣や十字手裏剣にワイヤー。


 髪は魔力の影響で私の薄い青色とは対照的に赤く染まり、何故かマフラーを付けた時の方がパフォーマンスが良かったので装備させました。


 恐らく【西の大討伐】で亡くなったであろう冒険者の方の残留思念で魔力を変換して、動く『自動人形』です。


 これが、信じられないほどに強い。

 なにより対人戦への経験値が凄まじく高い。


 『赤』を前衛として動かし、私は後衛サポートとして遠距離から攻撃魔法を撃つ。


 個人戦の競技で、私だけが連携を使う。

 これはこの競技において、凄まじいアドバンテージです。


 『赤』の活動限界は約十分、激しく動けばもっと短い。


 なので、早速いきましょうか。


 私は『赤』に魔力操糸を通じて、攻撃指示を出す。

 すると『赤』は戦闘経験値に基づいて自律的に攻撃を行う。


 空間魔法から棒手裏剣を取り出して投げつけて、躱す為に行った目視転移の先を短刀で狙う。

 近接で張り付いて、的確に急所を狙って短刀や徒手空拳で攻め立てる。


 あれだけ接近されると物理障壁でも上手く守りきれない……『赤』の残留思念の持ち主は魔法戦は得意としなかったようです。


 でも【大変革】より前の人であれば魔法を自在に使うのは難しいと考えて、人口声帯で詠唱などの発声も行えるように作っているのですが……。


 何故か空間魔法や身体強化は無詠唱で使用します。

 まあしかし魔法は基本的にその二種と、攻撃には足りえない火系統の魔法を少ししか使えないようです。


 その代わり、卓越した近接技量を持つ。

 昔の人って強かったんだなぁってしみじみ思ってしまいます。


 近接攻撃に致命傷はないにしろ少しずつ削られることに業を煮やしたチャコール氏は目視転移で上空に跳んで浮遊魔法でビタリと止まり、空中から私に向けて光線魔法を放つ。


「――――っ!」


 私は咄嗟に的を絞らせないように駆け出して、武具召喚で人形を喚び出す。


 これは普通の完全操作型の人形。

 とはいえ、対魔法用のコーティングは最低限されています。


 冷静に……、人形は身代わりとして使う。


 空中という安全領域からの本体である私への遠距離攻撃、私は浮遊や飛行の魔法は使えないし『赤』も飛べないのでかなり的確です。


 でも、攻撃方法がないわけじゃあないのですよ。


 私の出した人形が、光線魔法に破壊されている隙に。


 『赤』は空間魔法の出入口を複数展開し、出入口を通ってチャコール氏の首元に短刀を振る。


 これはセブン地域予選にもいたレイト流の戦い方に非常に似ています。もしかするとレイト流に縁のある人物の残留思念なのかもしれません。


「な――ッ⁉」


 チャコール氏は咄嗟に空中で身をよじって短刀を躱すも、肩口から背中を思いっきり斬り裂かれる。


 注意が『赤』に向いたところで、私は五連光線魔法をチャコール氏に向けて放つ。


 魔力操糸はかなり光線魔法に近いので、私も使えます。


 チャコール氏やファイブ選手ほどの威力はないし、魔力量的にも乱射は出来ないけど魔力操糸で鍛えた操作力で当てることは出来ます。


 私の光線魔法は魔力導線で弾かれるが、チャコール氏の注意が私へと向く。


 いいの? 私を見ても、私は弱いのに。


 私を見た隙を狙って『赤』が空間魔法の出入口を通って、腋窩動脈へ短刀を滑らせる。


 当たるか当たらないかの瞬間。

 チャコール氏は私の目の前に、転移で跳んできた。


 あ、やられた。


 全ては『赤』と私の距離を離す為の動きだったんだ。

 ダメだ『赤』には攻撃指示を出したままです。本体防御のための動きはしません。


 それに、この斧の一振りを耐えるような防御魔法を私は使えません。


 詰みってやつですね。


 私は迫り来る大斧を受け入れ――――――。


「………‼」


 そんな聞き覚えのない声と共に。


 とてつもない速さで私とチャコール氏の間に割って入り、地面に倒れ込むような蹴りでチャコール氏の斧を弾く。


「……⁉」


 チャコール氏は驚いて、即座に距離を取る。


「……ブラキス、てめえイカレてんのか? キャミィに向けて斧振り回して…………、誰に手え出してんだ馬鹿筋肉ダルマが」


 そのまま割り込んだ人影……いや。


「てめえは畳んで、ギルドに吊るす。その後バリィとリコーも連帯責任で、畳む!」


 『赤』は目からゆらりと赤い炎を漏らしながらりゅうちょうに、まるで人のように、そう言った。


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