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03自覚のない狂気は稀に奇跡を起こすこともある

 そんな熱の籠った私を見て。


「……わかった。というか、わかる。僕も別に競技者ではないし、予選に出たのは戦闘部の予選出場権を守る為だけだし、本戦はベスト4に入ってバリィさんにライラちゃんを守れる男だと認めさせる為だけに出場している。だから、お互い様だ。三十秒くらい待つよ」


 チャコール氏そう言って、優しそうににこりと笑う。


「ふふ、そう待つわよちゃんと。安心しなよソフィア。良かったわね」


 ライラさんも笑顔で私に向けてそう言う。


「いやいや、マジに待つよ? そんな、一芝居挟んで待つ風に思わせといて待たないでドーン! みたいなアレじゃなくて、もちろん三十秒間僕も準備はするし三十秒間を一コンマでも過ぎたら攻撃に移るけど。僕は待つよ」


 チャコール氏はニヤニヤするライラさんへ間髪入れずに語る。


 ええ、やっぱライラさん怖いわぁ。

 そうそうこんな感じだった。ルールに抵触しない範囲での番外戦術とか当たり前に使ってた感じ……、セブンスバーナーのリーシャさんとかめちゃくちゃ振り回されてた記憶が一気に蘇ってきました。


「ベスト4に入れって話の本質は強さの証明だよ。だったら相手の全力を出させた上で勝つ、一回戦でライラちゃんがファイブ選手の光線を無傷で受けきっての完全勝利みたいな。圧倒的な証明になり得ることだ」


 穏やかにチャコール氏の語りは続く。


「策略での騙し討ち、弱点を利用しての圧倒的勝利ってのも強さの一つだしバリィさんなら当然そうするし僕もそうしただろう。でも、それはいつでも見せられる強さだ。そういう強さを僕が持っていることはバリィさんもわかっている」


 語るチャコール氏はほうじ茶をゆっくりとすすって。


「だから三十秒待って真正面から畳む。それでいいんだろう? ソフィアさん、全力で来てくれ」


 目からゆらりと、瞳と同じ黒色の炎を揺らして力強くそう言った。


 こ、こっわぁ……。


 でも人形さえ動かせれば……どうせ勝てないだろうけど私の目的は達せられるから――。


「……はあ、チャコ。かっこいいこと言ってるけどソフィアは強いからね。少なくとも私は当たりたくなかった選手で、かなり私は良い選手だと思ってる。なかなか勝ちきれなかっただけで、そのうち出てくる選手だとはずっと思ってた。ソフィアを舐めてんだったら今すぐ撤回しときなさい、ソフィア相手に三十秒与えるのはあんたが想像しているよりヤバいことだからね」


 私の思考を否定するかのように、ライラさんは私に対する思いもよらない高評価を述べる。


 そんな馬鹿な……、ライラ・バルーンは学生時代から頭一つどころか二つ三つ抜きん出た選手でした。

 しかも軍直属の学校やジュニアクラブチームなどではなくてサウシス魔法学校という体育会系のいない学校の部活動に所属しての快挙でした。


 それが私を……、なんか素直に嬉しいですね。


「それでも僕が勝つよ。僕はライラちゃんが好きだからね」


「もう、チャコったら……」


 なんて、凄まじい勢いで二人はイチャイチャしだしたので。


「……了承頂いてありがとうございました。それでは、よろしくお願いいたします」


 そう言って、私は足早にカフェを後にした。


 そんなこんなで約束をしてもらえて。

 一週間後。


 全帝国総合戦闘競技選手権大会トーナメント、第二回戦。


 第一試合はかなりの大激戦の末、八極令嬢キャロラインが勝利しました。あれは絶対に全土放送されると思います。下手したら年間ベストバウトに選ばれるんじゃないかってくらいの激闘でした。


 第二試合はミステリ・トゥエルブ選手が勝利……正直かなりしょっぱい試合でした。ほぼ山の神ジン選手の自滅というか不注意というか……うっかりで試合終了しました。


 そして。


「それでは! 第二回戦第三試合ッ‼ 選手の入場です‼」


 実況のアルコ・ディアール氏が、美しい声で入場を告げる。


「西側から入場! 怒涛の一撃で大番狂わせ‼ ジャイアントキリングの超大型新人ッ‼ 一撃必殺マジカルマッスル! チャコオォオオオオオ――――――ゥル・ポオオオオオォォ――――トマァァァァァアアアンンッ‼」


 アナウンスと共にチャコール氏が入場、同時に歓声が起こる。


 流石の注目度ですね、ありがたい限りです。


「東側から入場! 曲芸だと侮るなかれ! そのカラクリは世界最先端‼ 操るは人形だけでなく試合の展開‼ 人形遣いッ‼ ソフィアァァァア――――――ッ・ブルゥゥゥゥ――――――ムウゥウウウッ‼」


 続いて私も入場する。


 格技場の中央でチャコール氏と顔を合わせると、チャコール氏は無言で少し頷く様子を見せる。


 ……なるほど。

 信じても良さそうですね、ちょっと不安でしたがここを疑って変な動きをするのは野暮なようです。


「それでは! 第二回戦第三試合………………、試合開始イィィィイっ‼」


 さあ、研究発表の始まりです。


 私は開始と同時に、武具召喚で『収納箱』を喚び出す。


 直ぐに『収納箱』に手を当てて、魔力操作で起動シーケンスを開始する。


 この手の武器装備は起動状態で入場することは認められていません。

 基本的に、魔動兵装の起動は試合開始後に限られています。そうしないと『強化魔動外装』同士の戦いになってしまい競技の思想から外れてしまうからです。


 使っても良いけど、準備も含めて戦闘時間とするというのが【総合戦闘競技】なのです。


 私の人形は……、いやこの『自動人形』も『強化魔動外装』の類いです。


 元々は魔力を通しやすい『魔力変換導通金属』を内骨格にして私が魔力操糸で動かせる重量の兵装を載せるというものでしたが。


 これは根本的に違います。


 私の研究は、残留思念による魔力変換の可能性。

 魔法を使うには魔力と魔力を現象へと変化させる為のイメージ……つまり思念が必要です。


 この思念には現象をより具体的にする為の情報や思いと想いや記憶や思想が必要不可欠であり、魔道具などは魔力回路にそれらの情報を書き込んで魔力を通すだけで現象を起こすことが出来るようにしています。


 魔力というものの性質についての研究はとても大事ですが、魔法の半分は思念ですのでこれも非常に大切なテーマです。


 そこで私が目をつけたのが、残留思念。


 これは人が死ぬ瞬間に、重い思いと想いがその場所の魔力に反応してそのまま場に焼き付くというものです。

 まあ言ってしまうとお化けみたいな……、かなりオカルトの類いなものです。


 しかし、残留思念というのは確かに存在します。


 首を跳ねられた囚人が死後に接近してきた看守に爆裂魔法を発動させたり。

 ぼんやりと魔力が人の形に形成されて、お化けとして観測されたり。


 私はそんな残留思念、場に焼き付いた記憶媒体から情報をコピーして魔力変換をした場合。

 死者の記憶に基づいた、魔法を発動できるのではないかと考えたのです。


 もしこの研究が進んで残留思念による魔法発動が容易となり、人々が自由に残留思念を作り出すことが出来るようになったら。


 自身のつちかった魔法に対する経験値を、容易に継承したり共有できるようになるのです。


 そうなれば、継承や共有に費やす時間が無くなって開発が進んで世界の技術は加速することになります。


 だから私はこれを研究してきました。


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