私、ソフィア・ブルームは魔動研究会セブン地域第二支部に所属する研究員です。
同時に私は【総合戦闘競技】の選手でもあります。
プロ……いやセミプロ?
魔動研究会セブン地域第二支部にある競技部門の所属として大会に出たり交流戦をしているのですが、所属選手は全員基本は真っ当に研究員です。
私も例に漏れず、ただ学生時代の部活動でちょっとだけ【総合戦闘競技】をかじっていた程度の研究員です。
魔動研究会はそもそも魔力変換や魔力伝達素材や魔力影響をけっこう深めに研究するニッチな研究機関なので、全然ちゃんとしたプロチームでもない。
単純に研究成果を戦闘利用出来ないかを調べるために安全な対人模擬戦を行える【総合戦闘競技】を使っているだけなのですが。
そんな私がまさかの、全帝国総合戦闘競技選手権大会の本戦に勝ち進み。
なんと、二回戦進出を果たしてしまいました……。
先程も述べたように、私は別にちゃんと強い選手でもなんでもないのです。
ただ戦闘利用可能かの精査や研究成果や進捗の発表を行って魔動研究会への協賛企業を増やしたりする為だけの為に、セブン地域の大会にちょこちょこと出場していただけのはずなのに。
私の研究成果が予想していた以上の結果を出してしまったのです。
気付いたら、
確かに私は研究開発した装置や機構を組み込んこんだ自作の人形を魔力
学生時代からこうやって戦っていたし、そもそも私の実家はこういう魔動装置というかからくりを造ってきた家なので人形を用いる以外に私は戦う術を持ちません。
そして、そんな変な戦い方をする選手が強いはずもないのですが……。
本当に予想外もいいところです。
と、困惑している反面。
私は研究者として、これ以上にないほどにワクワクしてしまっている。
この研究はどこまで結果を出すのか。
そして、注目度の高い全帝国総合戦闘競技選手権大会で『映像通信結晶』にて全土放送されたらどれだけの協賛企業が集まるのだろうか。
打算的にならずにはいられない。
私たち魔動研究会はニッチでコアな研究を生きがいとしているので、私を含めて恥ずかしながら大概マッドなのです。
でも、昨日の大会二日目で第一回戦の全試合が終わって第二回戦の組み合わせが発表された。
第二回戦。
第一試合。
八極令嬢、キャロライン・エンデスヘルツ。
VS。
暗殺執事、ナイン・ウィーバー。
第二試合。
山の神、ジン・ヤマノ。
VS。
特になし、ミステリ・トゥエルブ。
第三試合。
一撃必殺マジカルマッスル、チャコール・ポートマン。
VS。
人形遣い、ソフィア・ブルーム。
第四試合。
地獄兎、ラビット・ヒット。
VS。
内もも狙いの悪魔、インサイド・キック。
第五試合。
とくにない、ナナゾ・マスカラス。
VS。
あんま今笑わせないで、ロッコツ・ブレイク=ニューイーン。
第六試合。
なし、ナナシ・ムキメイ。
VS。
輝く功績の鉱石、プラチナ・ゴールド=シルバー。
第七試合。
瞬殺王者、シロウ・クロス。
VS。
鉄壁天使、ライラ・バルーン。
第八試合。
誤差なし、マックス・プラスマイナー。
VS。
特にないです、ウソル・ライアー。
計十六名による、全八試合。
これはなかなか下馬評通りの結果もあれば、なかなかの大番狂わせもあって客観的に見たらとても熱くて楽しい一回戦でした。
恐らく私も大番狂わせの類いだったというか、そもそもセブン地域予選を勝ち抜いてセブンスバーナーのリーダーを倒して本戦に出てきた時点で大番狂わせだったと思います。
でも一番の大番狂わせを起こしたのは。
チャコール・ポートマン。
同じくセブン地域の予選から本戦に出てきた選手で、予選初出場どころか戦績なし。多分どこかで戦闘訓練は積んできていたんであろう競技者としてはルーキーの学生。
そんな彼が、前大会準優勝のニックス・ガーラを倒してしまったのです。
ニックス・ガーラ初戦敗退は誰も予想出来なかった事態です。
一回戦のトーナメント発表の時点で準決勝はキャロライン・エンデスヘルツとニックス・ガーラの戦いになると予想されていました。
凄まじい光線魔法や転移魔法に細かな風系統魔法と、大斧による過剰な一撃必殺。
とんでもない超大型ルーキー……まあ実際身体も大きいのだけれど。
そんな怪物じみたチャコール・ポートマンが、私の二回戦の相手なのです。
まあ正直……、負けるのは別にいい。
予選も一回戦も私が通過したのはほとんど奇跡みたいなもの。人形が強かったに過ぎません。
でも、瞬殺は避けたい。
一回戦と二回戦は、注目試合だけが全土放送されます。
実際。一回戦が終わり二回戦までの休息期間に放送されましたが、放送されたのは優勝候補であるシロウ・クロスや八極令嬢キャロラインや鉄壁天使ライラなど。
もちろん前回準優勝のニックス・ガーラの試合も放送されました。
私は一回戦での放送はなし、お相手のハテナ選手も初出場だったのでこれは仕方ありません。
ですが二回戦は、ニックス・ガーラを一撃で倒したチャコール・ポートマンとの試合です。注目試合として放送される可能性は高い。
私の研究成果を全土に放送することが出来るのはありがたい、本当に魔動研究会はニッチ過ぎていまいち協賛企業が集まりにくいのです。
デイドリームからの支援も多少ありますが、ニッチでコアでマッドな私の研究はお金がかかるのです……。
だから、このチャンスでしっかりとアピールしたいのですが。
チャコール・ポートマンは強すぎる…………っ!
予選の映像も見たけど、ほとんど瞬殺。
光線魔法で蜂の巣にされたり、重力魔法で埋めちゃったり、転移魔法で落下させられたり……。
私の人形は動き出すまでに多少のラグがあります。
その致命的な隙を何とか私の拙い攻撃魔法や牽制などの陽動で埋めていますが、恐らくチャコール氏はその隙を見逃さないと思います。
このままでは……なんか大っきい箱を武具召喚した女ってだけで終わってしまいます。
第一回戦が終わってから一週間くらい、なんとかその時間を生む方法考えましたが……私には不可能という結論をもって考えるのを辞めました。
第二回戦は一週間後。
残りたった一週間で対策ができるような相手ではないし、突然強くなれるほど私に戦いの才能はない。
なので強硬手段に出ることにしました。
セブン地域旧公都の西端にある研究室から『長距離魔動バス』に揺られて南の街サウシスへ。
到着次第、私はサウシスの街を歩く。
えっと、サウシス魔法学校は……学生時代に一回だけ練習試合で行ったことあるけど久しぶりだから忘れてるなー……わりと駅から近かった気がするけど。
私は案内板の地図を見て、周りの建物をきょろきょろと確認していると。
「どうしたんだ? 道を知りたいのかい?」
と、真っ白な男の人が声をかけてきた。
びっくりした。
全身おろしたての白衣のような驚きの白さだ。