まあ灼熱線魔法自体が通るとは思っていない。
これは魔力感知や魔力操作の集中を削ぐ為の撹乱の意味合いが大きい。
設置型が故に狙いも正確ではないためそもそも当たらないものもあるし灼熱線は光線魔法ほどは速くはない、反応が良ければ避けられもする。
しかしチャコールはあんな大きな斧を構えて回避動作を行えるわけもないので魔法防御で防いだ。
甘いな、火系統魔法の本質は攻撃力じゃあないのさ。
チャコールが魔力導線で散らした灼熱線が燃え広がる。
火の本質は、延焼による二次被害だ。
燃え広がった炎には俺の魔力が練り込まれている、これで魔力感知の精度は下がる。
それに『纒着結界装置』があるので熱自体は遮断されるが、ダメージ自体は通っているので結界は削れる。
そして何より、燃え広がった炎は急速にチャコールの周りの酸素を燃やし尽くす。
これは『纒着結界装置』でも防ぐことは出来ない。
一応、競技ルールで毒物などを霧散させて経口させる行為は禁じられている。故にこれはギリギリの戦法だ。
あくまでも酸欠や一酸化炭素中毒を狙った火系統魔法ではなく熱によるダメージを狙ったものとしなくてはならない。
つまり酸欠で倒すことはないのだが……実戦向け訓練を積んでいると「もしかしてこのまま?」って危機感が脳裏をチラつく。
俺だってそうなる。
競技ルールや優秀な防具があっても、魔法を使った模擬戦に完全な安全性などない。
マヌケじゃなけりゃあ焦りは出る。
五手目。
「――――――――ッ‼」
先に動いたのはチャコール、燃え盛る火炎を対策する為に範囲水魔法で格技場全体に雨のように水を撒く。
俺はそれに合わせて、風魔法で酸素を送り込んで瞬間的に火力を上げ一気に炎をより高温にする。
高温の灼熱と豪雨のような水がぶつかり。
水蒸気爆発、これが狙いだった。
二択だった。
浮遊魔法や転移魔法で空に逃げるか、なんかしらの方法で火を消すか。
チャコールは後者を選んだ。
そりゃあそうだ、あんな馬鹿な重武器を持って宙に浮くなんてことするわけがない。地に足つけることを前提とした武器なはずだ。
しかし流石だと言わざる得ない、この爆発でもチャコールの『纒着結界装置』から試合終了のブザーは鳴っていない。
防御魔法の練度の高さか、それともあの頑強な筋肉からくる屈強さか……どちらもあるのだろう。
関心はあるし感心もするが、それはそれだ。
この機は逃さない。
水蒸気で視認性は下がっている。
魔法で生まれた爆発で格技場が俺とチャコールの魔力で満たされている為に魔力感知の精度とかなり落ちている。
水蒸気爆発で魔法防御も削れているはず。
俺は魔力分身をいっせいにチャコールに向かわせて、その中に混ざりつつ右手から焦熱炎剣の魔法で剣を出す。
これは鋼鉄製の盾でも溶断する魔法だ、物理的な防御は出来ない。
これが俺の六手目、大詰めだ。
これでちょいと、首を
水蒸気の中心地に、焦熱炎剣を振り抜い――――。
間髪入れずに攻めていたはずなのに、チャコールの姿がない。
いや、正確には何も無かったわけでもなくチャコールと同じサイズの魔力の塊……、魔力分身が置かれていた。
まさか上に――、なんて思考を切り裂くように。
「――見いぃぃぃぃぃいつけぇえたああああああああぁぁぁッ‼」
空から大斧を振り上げて目から黒い炎をまき散らし猛り叫ぶチャコール・ポートマンが現れた。
真っ直ぐ。足や背中から風魔法の爆風で加速しながら俺に斧を向ける。
何故俺の位置が――、と、考える間もなく気づく。
水蒸気によって光が屈折し、光学迷彩が意味を成していなかったし焦熱炎剣の熱でやや蜃気楼のように空気が歪んでいた。
魔力感知なしでも、目視で十分に俺を捕捉可能である。
こいつ……、水蒸気爆発と同時に転移魔法で宙に跳んでやがったんだ。しかもお粗末ながら魔力分身も残して……っ。
さらにあんな馬鹿な質量武器を装備しながら浮遊魔法で空から目視で俺を探して突っ込んできやがった。
奴の方が一手早かった、抜かった。
でもまだ――。
「――負ぁけてねえぇぇえぇえだろぉおッ‼」
俺も心の熱の爆発が魔力と混ざって目から炎として噴き出しながら、熱量が声としても漏れ出る。
焦熱炎剣を斧にぶつけにいく。
かなりのダメージは覚悟の上だが、溶断された斧であれば必殺には足り得ない。
俺は不死鳥を継ぐ者、俺の炎は死んでも消えない。
この程度で俺は、諦めない。
大斧の刃と焦熱炎剣が衝突。
しかし大斧は溶断されず。
大斧に纏われた防御魔法で耐えられて。
俺の胴に大斧の刃が食い込み。
凄まじい加速度を感じて吹き飛びながら、俺の装置から試合終了のブザーが鳴り響き。
同時に、凄まじい衝撃波で格技場に舞っていた水蒸気が一瞬で晴れて。
一撃必殺の魔法と筋力にて、俺は壁に激突した。
「試合終了ぉ――――――――~~~~ッ‼」
アルコ・ディアールによる終了が告げられる。
転移と浮遊による回避、斧を守る防御魔法……二手差か。
完敗だ、油断はなかったし侮ったつもりもなかったが想像以上の練度だった。
俺はゆっくりと立ち上がろうとすると、チャコール・ポートマンが手を差し伸べながら。
「ギリギリでした……全然見つけられないし、炎と水蒸気爆発でかなり結界を消耗していたし酸欠も効いてて無理矢理な転移で逃げただけだったので、あの一撃で決めるしかありませんでした……」
俺に向けてそう言った。
そうか、ギリギリだったのか……。過大評価しすぎたわけでもないのだろうが。だったらもっと冷静に、ひたすら削りに徹すれば良かったのか……。
「……悔しい思いさせてくれるじゃないか。次は必ず消し炭にしてやる、俺は何度でも復活するからな」
俺はそう言ってチャコールの手を握って、立ち上がった。
悔しいな、こいつ。
なんか良い奴なのが、すげえ悔しい。
不死鳥を継ぐ者、ニックス・ガーラ。
一回戦敗退。
並びに。
一撃必殺マジカルマッスル、チャコール・ポートマン。
二回戦進出。