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02小さな誤差がそのまま失敗に繋がった時は実質成功と同じ

 …………は?


 意味も意図もわからん……宗教勧誘か何かか?

 世界って主語も大き過ぎる……明らかに外国人で魔族な俺に聞くならせめて帝国に不満があるかどうかとかじゃないのか。


 そして、別に不満もない。

 わりと好き勝手生きているし、外国で格闘技して飯食ってんだぞ。しかも食えてるし。


 強いて挙げるならシロウ・クロスに敗北したことくらいだが、これは別に近々打倒するから不満って話でもない。


 不満…………なんだ、マジで別にないな。

 満たされてるわけでもないが、不足してることもない。

 なんなんだ? 角なしというか帝国で流行のネタというか、決まりの返しみたいなものがある特殊な会話なのか?

 それこそ外国人で魔族の俺に向けてくるなよ。そういうの付き合ってやりたいタイプなんだけど知らないのは無理だって。


 そんな謎の多い問いかけに俺が頭を悩ませていると。


「せんぱあぁぁあ――――い‼ 負けちゃいましたああ‼」


 控え室に戻ってきた後輩のガンダラ・ダールが俺に応援の言葉を向ける。


「おお、見ていたぞ。がんばったな、ありゃ相手がかなり強かったな」


 俺は泣きそうなガンダラにそう返してから、ナナシの方へと向き直すが。


「――あれ?」


 ナナシがこつぜんと姿を消したことに気づき、思わず声を漏らしてしまう。


 なんだ? 転移魔法かなんかで帰ったのか……ノリが悪いと見限られてしまったか……まあいいか。


「こうなったら先輩は今年こそ優勝っす! 私の分も勝ち進んで、ついでに仇もとってほしいっす!」


 悔しそうにガンダラは手をバタバタと振りながら、試合後の高いテンションで俺に詰め寄りながら言う。


 しかし本当にガンダラが一回戦で負けるとは思っていなかった。


 油断は禁物、身に染みた。

 特に、俺の相手も弱くはないのだから。


「俺は俺の為にしか戦わねーよ。仇は自分でとれ、稽古には付き合ってやるからさ」


「はあ、そういうとこっすよ。先輩……、まあ頑張ってくださいっす! 応援してるっす!」


 そんな話をして、応援に無言で手を振り応えながら控え室から出て。


「それでは‼ 第五試合ッ‼ 選手入場です‼」


 実況の歌謡姫ことアルコ・ディアールが、高らかに入場を告げる。


「西側から入場‼ 灼熱の炎に溶け込んで、あらゆる敵を消し炭にする! 前大会準優勝ッ‼ 不死鳥を継ぐ者! ニックスゥゥゥゥウ・ガアァァ――――ラァァアアアア――――――っ‼」


 盛り上げ上手なアナウンスで、歓声と共に俺は入場する。


 本戦格技場は直径四十メートルの円形。


 地面は土を硬く固めたもので、魔法による地形変化の影響を受けやすく設計されている。

 遮蔽物はないが、岩魔法やらで作るのは可能だ。

 開始時は互いに中央に寄って、八メートルの距離で始まる。


 遠距離戦闘が有利なルールではあるが、だからこそ近接物理火力が活きたりもする。策略と戦略と戦術、総合力が試されるのが面白い。


「東側から入場‼ 予選では圧勝、瞬殺、一撃必殺! 瞬き厳禁! 初出場‼ 一撃必殺マジカルマッスル! チャコオォオオオオオル・ポオオオオ――――トマアァァァ――――ンンッ‼」


 高らかなアナウンスで、反対側から大男が入場する。


 チャコール・ポートマン。

 トーナメント発表会で、シロウ・クロスに喧嘩を売っていたイカレ野郎だ。

 戦績が無さすぎるために細かい分析や攻略はできていないが、予選の映像を見ての感想としては。


 こいつの魔力の親和率は魔族級だし、当たり前のように光線魔法や重力魔法や転移魔法を使える練度を持ちながら大斧による過剰な近接火力を持つ。


 相当強い、単純なカタログスペックなら優勝候補筆頭だろう。

 多分消滅魔法や、下手したら単独での戦術級魔法の発動も出来る練度だし虚を着いての即時制圧を選びがちなところを見るに実戦想定の訓練を積んできたのを感じる。


 でもこれは競技だ。

 奴も奴で、俺の攻略は出来ていない。


「…………」


「……ん? どうした」


 俺をじっと見るチャコール・ポートマンに尋ねる。


「角……かっこいいっすね。さっきの魔法族の方……ガンダラ・ダールさんもかなりかっこよかったけど、ニックスさんの角もまた……めちゃくちゃかっこいいです」


 チャコール・ポートマンは目をキラキラさせながら、俺の角について言及する。


「ああ、大舞台だからな。気合い入れて手入れしてきた。おまえの筋肉もなかなかかっこいいぞ」


「ありがとうございます。僕も気合い入れて、鍛えてきました」


 そんな緊張感のない会話をして。


「それでは! 第一回戦第五試合………………、試合開始ィイイっ‼」


 試合が始まった。


 同時に二人が動くが、俺の方がやや早かった。


 初手。

 俺は土魔法で地形を変化して格技場中に大小様々な遮蔽物を作る。

 チャコールは、多重魔力導線と物理障壁展開し一瞬遅れて十三個の光球を展開させる。


 セオリーでいうなら初手は魔法防御の展開だが、俺はその初手を遮蔽物設置に使った。

 何か攻撃魔法を撃つなら二手目だと読んで、魔法防御より地形効果のプレッシャーで実質的な防御を行った。


 そして二手目。

 俺は地形変化とほぼ同時に光学迷彩魔法で姿を消して十五体の魔力分身を展開させて縦横無尽に動かす。

 チャコールは光球を陣形を組むように並べ遠隔誘導にて展開して遮蔽を掻い潜るように光球を同時に操作して、光球から光線を発射して魔力分身や本体を撃ち抜いていく。


 やはり、光学迷彩魔法には当然のように対応してくるか。魔力操作も魔力感知も完璧なようだ。


 だが魔力分身は実体がない。撃ち抜いたとて避けられたのか魔力分身を撃ったのかの判断が、これだけ遮蔽があって目視できないとなると付けづらいはず。

 本体の俺は魔力分身に混ざりながら、魔力感知と身体操作のみで光球からの光線魔法を躱す。


 三手目。

 俺は姿を消したまま格技場内を走り回り、遮蔽物として出した障害物に設置型の灼熱線魔法を置いていく。

 チャコールは光球を操作しつつ思った以上に捕捉しきれないことから、接近されての近接格闘を想定して空間魔法から大斧を取り出して構える。


 悪くない動きだ。

 あんな殺意と破壊の塊みたいな武器を構えられた時の心理的なプレッシャーったるや凄まじい。つーかあんなもので人を叩く訓練をしてきたのか……? 過剰も過剰だ、何を倒すことを想定した武器なんだそりゃあ。


 だがここまでは俺も策略通り、むしろこの段階で近接格闘を警戒して大斧を装備したのはぎょうこうといえる。


 四手目。

 俺は設置型灼熱線魔法を順次発動し、中心から動かないチャコールへ向けて撃ちまくる。

 チャコールは展開していた魔力導線で灼熱線魔法を散らす。


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