俺、ニックス・ガーラは魔法国家ダウン出身でライト帝国に暮らす変わり者と呼ばれる部類の魔族だ。
正確には魔法族っていうんだが、全然定着しないのでなんかもう魔族でいいやってなってる世代だ。
こっちもこっちで角のない人々を角なしって呼んだりするし、お互い様な感じである。
ちなみに俺よりもひと世代前の人にいうとわりと高確率で訂正されるので注意が必要ではある。
まあ魔族に会うことはなかなかないだろうから、そんな機会はそうそう訪れないだろうが。
魔族とは魔法が得意な種族というか人種というか、そんな感じだ。
角なしとの違いは角の有無と肌の色とか目の色とか、容姿ならそんくらいのもので同じもん食うし同じ病気にもかかるし平均寿命とかもそんなに変わらない。
魔力の影響が容姿に現れることは角なしでもよくあることだ。目の色が濃くなったり髪の色が明るくなったり、それが生まれた時から顕著に現れるほど魔力との親和率が高いのが魔族ってことだ。
九割九分九厘の魔族が魔法国家ダウンで暮らしている、単一民族国家である。
ダウンと帝国はかなり昔から通商条約を結んではいたが、互いに居住権や永住権などは許可していなかった。
それが【大変革】の後に少しづつ滞在期間の緩和や、ダウンと帝国間の街道の整備を行い、互いに特使だったりを送り合い、今は交換留学生制度も出来た。どうにもセブン地域……旧セブン公国侵攻時にダウンも参加したことから少しずつ国交が進んだらしい。
俺も元は交換留学生で帝国に来たクチだ。
元々は留学生として第一帝国魔法学園で魔道具やら魔動機械の勉強をしていた。が、俺は帝国文化に感銘を受けて留学期間が終わっても帝国に残って魔動結社デイドリームの魔族向け商品開発で働いている。
感銘を受けた文化は【総合戦闘競技】である。
魔動防具である『纒着結界装置』を用いて、安全性を確保しつつ様々な魔法や武器の使用を可能にした競技。
留学したての頃に俺は【総合戦闘競技】に出会った。
まあ、珍しい魔族の俺をちょっと囲んで意地悪気味に驚かしてやろうみたいな感じだったんだろう。世の学生はそういうのが好きだし。
だが、俺はそこでいわゆる無双をしてしまった。
そもそも角なしと魔族じゃあ魔力との親和率が全然違う、俺は魔力革命より前から無詠唱で魔法を使えた。スキルも魔法補正があるようなもんじゃなかったのにも関わらずに無詠唱が使える。それが魔族だ。
それに俺は、それなりに……いや結構ちゃんと鍛えてきた。
俺は叔父であり師の魔法国家ダウンが王族親衛隊長である不死鳥のグリオン・ガーラから鍛えられてきた。
まあ【大変革】で魔物が消え去り、ここぞとばかりに人同士の争いが起こることが予見され。
さらに魔法やスキルやステータスウインドウが消え去ったことで、星の魔力が巡り人々の魔力の親和率が上がるとされていた。
故に角なしに対する魔法戦での優位性が失われることを懸念して、俺らの世代くらいからさらに意欲的に魔法を鍛えることになった。
そこで、俺は身近な人で一番強い人に習うことにした。
叔父さんは【大変革】の前は『超再生』というスキルを持っていて実質的な不死身だったことに由来した二つ名だったが【大変革】の後も様々な危険任務から生還する姿から、不死鳥と呼ばれたり呼ばれなかったりしていた。
俺にとって最強の男といえば、グリオン・ガーラだ。
そんな叔父さんに俺はこってりと鍛えられた。
だから、俺は負けなしだった。
魔族だからとか相手が角なしだからとかじゃあなくて、不死鳥のグリオンに鍛えられた俺が負けるわけがなかった。
だが、シロウ・クロスに負けた。
どうにも叔父さんから聞くところによると、シロウ・クロスは父親が怪物だという。
ふわっとしていて具体的なことは何も教えてはくれなかったが、どうにも叔父さんは昔その怪物にえらい目に合わされたみたいだった。
実際、シロウ・クロスはめちゃくちゃ強い。
現在二連敗中、去年は決勝戦で負けた。
故にこの一年、俺はシロウ・クロス対策を叔父さんから叩き込まれた。
今なら勝てる、俺が勝つ。
なんて意気込みを持って全帝国総合戦闘競技選手権大会トーナメント、一日目。
ここまでAブロック第一回戦は下馬評通り。
第一試合を八極令嬢キャロライン・エンデスヘルツが鉄山靠で勝利し、第二試合はナイン・ウィーバーが暗殺を決めて勝って、第三試合はジン・ヤマノがなんか勝った。
しかして第四試合は。
「うお……ガンダラが負けただと……?」
控え室の『映像通信結晶』で後輩の試合を見て呟く。
ガンダラ・ダール。
魔族からの刺客なんて異名をつけられているが、ダウンから来たただの交換留学生の女子だ。
つまりは俺の後輩にあたる、まだまだライト帝国でも魔族は珍しいので交流を持つようになってなんか懐かれてしまった。結構飯を奢らされている、今回も打ち上げで食わせてやらんと……あいつは負けると落ち込むからな。
ちなみにガンダラは弱くはない。
同世代の中では頭一つ抜き出たセンスを持つが……、いやこれは単純に相手が強かった。全帝本戦、出場選手は誰もかしこがどこかしらの地域で頭一つ二つ抜きんでていたやつらしかいない。
相手はなんだっけ、ミステリ・トゥエルブだったか……。
八極令嬢と当たるまで負けることはないと思ったけど本当になかなかの使い手だった、多分元軍人とかの類いだ。
異名は……特になしって、これが異名なのか?
というかなんか今年こういう異名の奴が多いが、帝国の流行りなのだろうか。角なしの流行にはついていけてないんだよな。
「あらら、負けちゃったのかい? お友達」
ぼんやりと『映像通信結晶』を眺めていたところに後ろから声をかけられる。
そこに居たのは白い男。
白髪で色白で白い服、まあ白い男以外に言いようがないくらいに白い男だ。
あー、いやこいつ出場選手の……。
そうだナナシ・ムキメイか。
「ああ、わりと接戦だったが相手が強かったみたいだ」
俺はナナシそう答える。
ん? いやそういやこいつはBブロックだから、試合は明日だよな? なんで控え室にいるんだ?
「へー、そうそう。それはそうと君さ」
俺の返しにナナシは興味なさそうに返す。いやなぜ聞いたんだこいつ。
そのまま続けて。
「
ナナシはそんなことを尋ねてきた。