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02責めるべきは疑うことではなく確証を持たないこと

 どうにもこいつはつい最近まで冒険者ギルドに職員として勤めていたようだ。

 それが冒険者による強盗に遭遇して、返り討ちにした後に退職。


 そこから魔法学校に入学した。

 まるで全帝国総合戦闘競技選手権大会に出場する為だけに、サウシス魔法学校に入学をしたかのようなタイミングだ。


 怪し過ぎる……、なんらかの指示で作戦に合流したようにしか思えない。


 さらに疑念を強めたのが。

 チャコール・ポートマンの母親だ。


 ポピー・ポートマン……、旧姓はミーシア。

 勇者パーティの賢者、ポピー・ミーシアである。


 旧セブン公国の最大戦力である勇者パーティの一人。

 スキル至上主義国家が集めた最高峰のスキルを持つ者だけで構成されたパーティだ。


 実際【史上最速の国落とし】では、教科書にあまり活躍を残されていないが当時の第三騎兵団は相当にやられたらしい。


 第三騎兵団のジャンポール団長もその際に勇者パーティと交戦しており、戦線離脱を強いられるほどに負傷させられた。


 とんでもない実力者だが、やはりスキルによる効果や補正の影響が大きい。

 それだけスキルに依存していた勇者パーティの一員であれば…………、スキル至上主義の残党ともいえる【ワンスモア】と何かしらの関係を持っていてもおかしくはない。


 そうなれば、チャコール・ポートマンも【ワンスモア】の工作員であると考えるのが自然だ。


 さらにいえば、冒険者ギルドに勤めていたことや冒険者からの強盗についても繋がってくる。

 元々若くして冒険者ギルドなんかに就職をしたのはギルドに保管されているスキル関連の資料を閲覧する為ではないか?

 その強盗は元々仲間で、何かのトラブルや仲間割れで警察を呼ぶことになったのでは?


 そう考えざるを得ないのだ。


 確証はない。

 実際、ポピー・ミーシアは既に『携帯通信結晶』の普及に多大な貢献をしたとして恩赦を与えられ今や立派な帝国民だ。


 正直あんま疑いの目は向けたくはないし、軍内部でも【ワンスモア】に旧公国勇者パーティは関わっていないというのが共通見解だ。


 でも流石にチャコール・ポートマンは異質だ。


 それを見極めるためにも、俺はこの大会でチャコール・ポートマンに接触を図りたいと考えている。


 その為にも俺は今日、帝都で行われる本戦トーナメント発表会にやってきた。


 一応広報的な観客向けの意気込みだとかを聞かれたり、対戦相手と並んでファイティングポーズの写真を撮ったりするのでほとんどの選手が集まる。


 そこでチャコール・ポートマンを目視確認した。

 大くて目立つため、すぐに見つかった。


「お兄ちゃんの試合相手の人どの人なんだろうね」


「さあ、でもあんまり強そうじゃない人がいいなあ」


「でも有名な人との試合なら『映像通信結晶』に映るんでしょ?」


「あー確かに、そしたら親父とおふくろも見れるのか……でもなぁ……」


 なんて妹らしき人物と話しながら、試合組み分け発表を待っていた。


 妹……そうかポピー・ミーシアの娘は現在、帝都一番の進学校である第一帝国魔法学園に在籍していたんだったな。


 スズラン・ポートマン。

 年は十五。

 背丈は兄に比べれば小柄に見えるが百七十はあるのでティーンエイジャー女子の中ではかなり背の高い部類だ。

 成績はトップクラス、既に魔動結社デイドリームから技術者として声がかかっているとかで現在帝都内を走る『魔道列車』には彼女が小等部時代に開発した機構が一部使われているという話だ。


 帝都に来たついでに落ち合ったのか。

 あれも賢者の子だ……、怪しいといえば怪しいが……スキル至上主義者やら現状に納得できない輩が【ワンスモア】に集まることを考えると、あの妹は当てはまるとは思えない。


 だがチャコール・ポートマンはお世辞にも上手くいっている人間が足を踏み入れるとはいえない冒険者ギルドに若くして就職している。


 警戒をせざる得ない。


「それでは! 全帝国総合戦闘競技選手権大会トーナメント‼ 厳正な抽選により決定した、第一回戦の組み合わせを発表いたします!」


 俺がチャコール・ポートマンを監視……もとい観察しているところで、会場の司会進行が組み合わせを発表する。


 ざらっと一覧を出すが、興味がなけりゃあ飛ばして構わない。


 第一回戦、Aブロック。


 第一試合。

 八極令嬢、キャロライン・エンデスヘルツ。

 VS。

 不屈の闘志、ゲンキ・シャーク。


 第二試合。

 暗殺執事、ナイン・ウィーバー。

 VS。

 三度の飯より猫が好き、キラ・キャット=ミケ。


 第三試合。

 山の神、ジン・ヤマノ。

 VS。

 先生プロデューサー、カゲツキ・ハネムーン。


 第四試合。

 特になし、ミステリ・トゥエルブ。

 VS。

 魔族からの刺客、ガンダラ・ダール。


 第五試合。

 不死鳥を継ぐ者、ニックス・ガーラ。

 VS。

 一撃必殺マジカルマッスル、チャコール・ポートマン。


 第六試合。

 ないです、ハテナ・クエッチョン。

 VS。

 人形遣い、ソフィア・ブルーム。


 第七試合。

 木材加工所の星、シラカバ・シーマ。

 VS。

 地獄兎、ラビット・ヒット。


 第八試合。

 谷から来た魔女、クラリッサ・シカタナイネ。

 VS。

 内もも狙いの悪魔、インサイド・キック。


 第一回戦、Bブロック。


 第九試合。

 仁王立ち、ベンケイ・ブリッジマン。

 VS。

 とくにない、ナナゾ・マスカラス。


 第十試合。

 働からざる者、ケソ・イカミリン=ポテト。

 VS。

 あんま今笑わせないで、ロッコツ・ブレイク=ニューイーン。


 第十一試合。

 なし、ナナシ・ムキメイ。

 VS。

 鋏使い、クラブ・エクソダス。


 第十二試合。

 輝く功績の鉱石、プラチナ・ゴールド=シルバー。

 VS。

 二刀流マスター、ムサシ・ベクター。


 第十三試合。

 瞬殺王者、シロウ・クロス。

 VS。

 軽快に美しく、ウシワカ・ジャンパー。


 第十四試合。

 鉄壁天使、ライラ・バルーン。

 VS。

 五時十七分、ファイブ・セブンティーン。


 第十五試合。

 誤差なし、マックス・プラスマイナー。

 VS。

 遊んでやるよ、ボーリング・カラオケ。


 第十六試合。

 特にないです、ウソル・ライアー。

 VS。

 いいもん食わせろ、ランチ・ダイナー=インスタント。


 以上、三十二名による十六試合。


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