ここからは、食べ放題の時間制限までもりもりとしゃぶしゃぶを食べまくりながら予選大会での反省点を聞かされて。
リコーさんとの交際期間や夫婦生活で学んだコミュニケーションや円満の秘訣やらを聞かされたり。
親父の武勇伝やら、おふくろの魔法の凄さやらを語られて。
制限時間内にマジで牛一頭以上の肉を食い尽くした僕らは、最後に店から出禁を食らったのだった。
その後。
「いやどんだけ食べたの……? パパも仕事サボって昼間っから飲むって、だから出世しないのよ……」
戦闘部の部室で站椿功をするライラちゃんに昼のことを伝えたところで呆れられてしまう。
「まあでも、ちゃんと学校通うのは私も良いと思う。ほとんどはチャコからすれば当たり前みたいなことだとは思うけど、それでも多少勉強になることもあるだろうし学歴もできるしね」
ライラちゃんは軸をぶらさずに、そのままあっけらかんとバリィさんの案に同意を示す。
流石親子、言ってることが大体同じだ。
「うーん、でも出来ればもう少し早くチャコが来てくれたら在学期間が重なったのに……ちょっと残念」
「そうだけど、結局学年は違うから一緒の授業を受けたりは出来ないと思うよ?」
残念がるライラちゃんに、僕は斧を持った状態で浮遊魔法を使って浮かんだままピタリと止まる稽古をしながら返す。
「それもあるけど、校内で制服着てエッチなこと出来たでしょ?」
「ぶっふぉッ⁉」
ライラちゃんの一言に、站椿をしていた部員のテリィ君が吹き出して崩れる。
「テリィ集中! 冗談に決まってるでしょ! ここ、私の父親の職場でもあるのよ? そんなことするわけがないでしょ」
コーチらしくライラちゃんは崩れたテリィ君を注意する。
あ、危ねぇ……僕もちょっと崩れかけた……。ここの制服は可愛いからな。いや、集中しよう。
「でも本戦でベスト4かぁ……、うーん。いやチャコの実力なら正直あると思ってるけど……トーナメントの運が絡むからなぁ……んー」
「本戦ってどんな感じなの? トーナメントってのはわかるけど予選と同じみたいな感じなの?」
口をへの字に曲げて悩み気味のライラちゃんに僕は素直に尋ねる。
「あんた本当になんも知らないんだな。本戦は各地域の代表と本戦出場枠を選手を合わせた三十二名で行われるトーナメントで、予選のようにワンデイトーナメントじゃなくて一回戦を二つのブロックに分けて二日間、休息日を空けつつ二回戦以降は各一日ずつ使って、一回戦と二回戦の注目試合と準々決勝以降は帝国全土で生放送されるんだ」
汗を垂らしながら站椿を続けつつ、テリィ君はさらっと本戦について語る。
へえ、うちはあんまり『映像通信結晶』を見ないからな。一応映るんなら家族にも連絡しておこうかな。
「まあ詳細はそのうち手紙で送られて来ると思うし、選手はその前に試合組み合わせ発表会があったりするから日程についてはちゃんと連絡来るはずなんだけど……、問題は今年の大会まあまあ荒れ気味なのよね」
涼しい顔で站椿を続けながら、ライラちゃんは考えていた懸念事項を語り出す。
「セブン地域予選も大本命であるセブンスバーナーの選手が一人も本戦出場ならず。まあこれはチャコがリーシャを沈めたのもあるけどセブンスバーナーのエースである灼熱バーナーのバーニィも予選決勝で人形遣いソフィアに負けた。ソフィアはいい選手だけどバーニィに勝つのはかなり大番狂わせだった。チャコの応援でBブロックしか見てなかったから何があったのかはわらかないけどね」
つらつらと語りは続く。
「他の地域予選でも、大番狂わせが起こっていて……っていうか各地域でチャコがぶっ飛ばしたナゾーラみたいな謎の手練が暴れて何人か出場してきてるみたいなのよね」
眉をひそめて今年の大会について語る。
ナゾーラ氏……たしかにあれはかなり強かった。
バリィさん曰く、なんかしらの任務で混ざってきた軍人さんとのこと。
筋肉転移は効いたけど、他の地域からお仲間が出場しているのなら対策されると思う。
筋肉転移は弱点がないわけじゃあないし、優秀な軍人さんならそもそもおふくろが二十年前に使っていた魔法を帝国が分析していないわけがない。
「それと、単純な喧嘩ならまだしもこれは競技。競技に合わせた練度がものをいう。喧嘩なら負けようがないとは思うけど、こと【総合戦闘競技】ではチャコでも厳しいと思える選手が何人かいる。トーナメントだと運が絡むから、一回戦で当たって敗退なんてことも有り得なくはないのよね」
ライラちゃんは続けて大会について語る。
確かに僕の競技歴は浅いどころか、ほぼ素人だ。
冒険者になる為の鍛錬が活きているから動けているに過ぎない。バリィさんに指摘された初見殺しはトーナメントには向かないし、逆に僕は他の方々が競技の中で培ってきた技を知らなすぎる。
未だに『纒着結界装置』の仕様にも慣れないし、毒魔法や水魔法で溺れさせたり魔法融解で結界を溶かして直接ダメージを与えたり……みたいな、競技的にはズルに当たることが最初に頭に浮かんでしまう。
それに『纒着結界装置』で怪我をしないことを前提に置く癖を付けるのを、僕は嫌がっている。
こんなもの実戦だったら多少便利な鎧以上の役割にはならないし、相手を倒すのではなく鎧を削る癖をつけたくない。
まだまだ僕は競技者にはなれそうにない。
「優勝候補たちはかなり競技にアジャストしている。とりあえず二連覇中の瞬殺王者シロウ・クロスには私も二連敗中だし、他にも去年準優勝の不死鳥を継ぐ者ニックス・ガーラや一昨年ベスト4の八極令嬢キャロライン・エンデスヘルツだったり、地味に地獄兎のラビット・ヒットなんかもかなり強い」
ライラちゃんはそのまま注目選手について語る。
シロウ・クロスって…………まあいいか。
実は僕自身あまり関わりがないし、ライラちゃんも多分競技繋がり以上の関わりはないだろうし。
でも本物なのであれば……、確かにそりゃあ相当強いんだろう。そのシロウ・クロスに並ぶとなると、他の方々も相当な実力者なんだろう。
そんな輩が混ざったトーナメントでベスト4か……、中々に厳しいな。
「それに何より、この私。ライラ・バルーンと準々決勝までに当たったらそこでチャコの大会は終わりだしね。マジの戦いでは絶対に勝てないけど、競技の上では絶対に私が勝つわ。だからまずは私と別ブロックになるように祈りなさい」
ライラちゃんはたっぷりとドヤ顔をしながら、堂々と宣う。
確かに、その通りが過ぎる。
僕はライラちゃんと模擬戦はしたことがないけれど、あの父親と母親に鍛えられ継承されているのなら。
うちの親父とおふくろじゃあ突破出来なかった防御力を有していることになる。
でも、バリィさんとの約束は守る。
ライラちゃんを幸せにして、その幸せを守れる男だと安心して貰うために。
「…………大丈夫だよ、ライラちゃん。誰であろうと、畳むから」
僕は、恋人に対して宣戦布告をする。
「ふふ、素敵。愛されるのは悪くないけど……それはそれとして、今年の私は強いからね。畳むよチャコ」
そう返したライラちゃんの目からは、ゆらりと炎が揺れている。
おっかねえ……、僕は本質的に小心者。
心からライラちゃんと当たらないことを。
めちゃくちゃ祈った。