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01あらゆる儀式は基本的には無意味だが時に重要な意味を持つ

 僕、チャコール・ポートマンは一応サウシス魔法学校の生徒……ということになっている。


 まあ厳密に言うと冒険者ギルドを辞めて、求職中というか無職だ。でも一応でも肩書きがあるのなら使わせてもらおう。


 さらにいうと幼馴染のライラちゃんと再会し、なし崩し的に【総合戦闘競技】をやることになった。

 どうやらライラちゃんの後輩というか、教えている人が怪我をして大事な大会に出られないということで代打として出場することになった。


 慣れない競技に悪戦苦闘して、最後は予想外の叱咤激励によってなんとか予選を優勝出来た。


 そして、今現在その予想外な叱咤激励をしてくれた人物。

 ライラちゃんの父、バリィ・バルーンさんと二人でしゃぶしゃぶを食っている。


「何ぼーっとしてんだ? 食え食え、食い放題だぞ? 元を取る気で食え、店を潰す気で食え。どうせまだ背伸びてんだろ? 遠慮すんな優勝祝いだ。最低牛一頭分は食うぞ」


 皿から昆布だしがくつくつと煮える土鍋にどぼどぼと肉を入れながら、バリィさんは俺に言う。


 何故、俺がバリィさんと二人でしゃぶしゃぶ食べ放題に来ているのかというと。


 セブン地域予選大会を終えた後、バス代を浮かすためにライラちゃんとバリィさんをサウシスまで転移で送り届けてバルーン家に泊まった次の日の昼頃。


 ライラちゃんは司書の仕事行き、僕は夕方からの戦闘部での稽古まで時間があったのでリコーさんの家事を手伝っていたところで。


「おう、飯行くぞ。旧公都との往復考えて三連休にしちまってたから暇なんだ、付き合え」


 と、バリィさんに誘われた。


 いやまあそれだけの話なんだけど……、少し気まずい。

 三年前……、ライラちゃんと思いっきりそういうことをしようとしてるところを見つかってマジで大喧嘩になった。


 頭に血が上って……、斧でぶん殴ってしまった。


 バリィさんは、ぐしゃぐしゃにひしゃげて飛んでった。


 その日はたまたまクライスさんが居たから迅速に治療をすることが出来て、何とかなったけど少しでも処置が遅れたら死んでいた。


 どう考えても僕が悪い。逆ギレも逆ギレ、そんな理由で人を殺しかけた。


 僕はそれ以来、人を叩くのが怖くなった。

 稽古でも素振りは出来るけど、どうしても出来なくなった。


 そんなことがあってから三年ぶりの再会。

 緊張する…………怒っているとかではなさそうだけど。


「で? 好きなのか?」


「え、はい。大体の肉は好きです」


 バリィさんの突然の問いに、鍋からごっそりと肉を箸で摘み出して取り皿に盛りながら返す。


「違う、ライラのことだ。好きなのか?」


 ゴマだれを絡めた肉を頬張る僕に、あっさりとバリィさんは再び問う。


「…………ごくんっ、はあ……、はい。大好きです」


 肉を飲み込んで僕は本心で返す。


「そうか…………、それはあれか? 友人としてだったり、子供の頃から一緒で姉のように思っているとか、手頃で仲良くておっぱい大きくて性的なことが出来そうだからとか、そういうことじゃあなくて……一人の女として幸せにしてやりてえとか幸せになりてえとかの、そういう好きって話か?」


 バリィさんは鍋にどばどばと肉を追加で投入しながら、淡々と続けて問う。


「はい。一人の女性として、ライラちゃんが好きです」


 僕は真摯に答える。


「……なるほどな。じゃあ今度は冷静にフラットに、俺の語ることが当てはまるかどうかを考えて答えてくれ。おまえは田舎で生まれ育ち、村には同年代の友達どころか女の子もいなかった。親同士が仲良くて、必然的に仲良くせざる得ない同年代の女の子であるライラしかおまえは好きになりようがなかった。だからライラを好きになった。ならざるを得なかった……これは当てはまるか?」


 肉を何枚か取りつつ、淡々と落ち着いた様子でさらにバリィさんは問う。


「…………全くないわけじゃないかもしれません。確かに僕は友達も全然いないし、女の子と遊ぶ機会もありませんでした。でも…………、具体的に好きなんだと自覚した時のことを覚えています――――」


 僕はそう答えて、子供の頃を思い出す。


 僕の家……、というか主におふくろは一部の方々に若干疎まれているというか乱暴な言い方をするとちょっと迫害されている感がある。


 おふくろ、旧姓ポピー・ミーシアといえば旧セブン公国最大戦力と謳われた勇者パーティの一人として有名人だった。


 おまけにセブン公国最高の魔法使いである、賢者の称号を持っていた。


 二十年前、僕が生まれる少し前に旧セブン公国はライト帝国に侵攻を受けた。

 たった一日、転移を用いて精鋭揃いの第三騎兵団が政治的要所を強襲して公都を落とした。

 その後、公国の残存勢力は主要貴族たちと公都を抑えられたことで二日で投降。


 これが、教科書にも載っている【史上最速の国落とし】である。


 この時、おふくろは勇者パーティで公国防衛を行っていた。どうやら当時の帝国最高戦力と交戦して。


 奮闘むなしく、あっさりと負けてしまったらしい。


 まあ正直、勇者パーティがどれだけ頑張ったところでたかだか四人の精鋭がどうにかできる状況でもなかったし世の中的にもそういう認識なのだが。


 一部の方々……、元々公国で貴族だったり国政に近いところで働いていた人々から責任を追求された。


 そういう方々に恨まれた。

 公国が落とされたのは勇者パーティのせいされた。

 それに加えて、公国最大戦力だったということで反乱などを危険視され帝国民から投獄や隔離しろという声が上がった。


 まあ実際色々と協議が行われたらしいし、当然の話ではあるが何故か恩赦が与えられた。

 これは秘密だけど親父やバリィさんと親しい人が帝国軍にかなり強く意見できる立場だったことが大きく働いたらしい。


 それでも厳しい監視がついたし行動も制限され一部帝国民としての権利を得られずにしていたが。


 おふくろは保有していた『携帯通信結晶』と僕を妊娠中に開発した『画面付携帯通信結晶』の製造方法や特許を帝国に無償で譲渡したことで、半年に一度の形式上の面談以外ほぼ全ての制限を撤廃させた。


 ちなみにクライスさんは第三騎兵団前団長のガクラ・クラック氏が身元を保証し軍医として働くことを条件に制限を撤廃。

 戦士だったダイルさんは警察組織で旧公都の治安維持を行うということを条件に奥さんのメリッサさんとの生活を確立させた。

 まあこのご夫妻の行動制限や監視は厳しいものなので、最後に会ったのは十年以上前だが。


 それでもまだ、勇者パーティを不審に思う方々からの風当たりは強かった。

 僕らの住む田舎の村では全く感じなかったけれど、バリィさんの住むサウシスでは感じることが多かった。おふくろや親父は全然気にしている様子はなかったけど。


 それを前提として。

 ある日、

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