目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

03大人の道理を子供に語る時子供は大人にさせられる

「え? だってあのチャコのママから魔法を習ったのよ? スズちゃんだって帝都の学校で首席の魔法使いだって……」


「まあ確かにチャコは賢者の子だ。そんじょそこらのやつより魔法には長けている、俺なんかより魔力量も桁違いだし多くの魔法を使える」


 ライラの疑問に穏やかに答える。


 実際、ポピー嬢の魔法センスは常軌を逸している。

 スキルの『大魔道士』を失っても、魔力との親和率が上がったらすぐに無詠唱の感覚を取り戻して全系統の魔法を使えるようになった。

 『大魔道士』持ちの頃との差は、個人で戦略級魔法を発動出来なくなったことくらい。魔力操作も魔力量も常人の域を遥かに超えている。


 でもその才覚を受け継いだのは、妹のスズの方だ。


 チャコはただ徹底した反復練習で、なんとか母親の教えをこなせるようになったに過ぎない。


「……だがライラ、あいつはブラキスの子でもある。チャコの本質は、魔法使いではなくだ」


 そう言ってから俺は、ナゾーラの斬撃をギリギリで躱して苦戦するチャコに向けて。


「チャコおおおおおお――――っ‼ 何やってんだ‼ いいから使ええええええぇ――――っ‼ 『纒着結界装置』なら耐えられる‼ セツナがブラキスの一撃を想定して設計してんだああああ――――っ‼ 絶対に傷つけることはない‼ 存分に使えええええええええええええええええええええ‼」


 拡声魔法を使って思いっきり叫ぶ。


 チャコが声に反応して、ちらりとこちらを見たので親指を立ててにかっと笑って見せる。


 それを見てチャコは目視転移で、ナゾーラから思いっきり距離を取り。


 武具召喚で、を喚び寄せる。


 人が持つことを想定していないような、馬鹿げた重量感。

 柄部分も全て金属製で、全長はチャコの背丈くらいあり斧頭だけでも胸から指先までの大きさ。


 昔、ブラキスが使っていた大斧を改修して軽量化の為に片刃にしたものだ。


 俺は三年前、あれで殺されかけた。


 ライラとチャコは昔から仲は良かった。

 兄妹のようにいつも一緒で微笑ましかった…………が、あの馬鹿ガキついにライラに手ぇ出しやがった。


 あいつはガキの頃から真面目で勤勉で優しくて賢くて良い奴だ。


 でもそれはそれだ。


 流石に、愛娘がすっぽんぽんで半裸の男にまたがってんのを見たらそりゃあブチ切れる。


 その日は帝国最高の医者である元勇者パーティ回復役であるクライス君もいたし、マジでいった。

 まあ俺はタイマン模擬戦は不得意、普通にやったら返り討ちに合うのがわかりきっていたのでマジで色々やった。


 頭に血が上ってたのもあるが、妹のスズを射線に入れておびき出そうとしたらチャコの逆鱗に触れちまった。


 流石に浅はかだった。

 侮っていた。


 ギリギリで多重物理障壁を全力で張って、クライス君がいたから生き延びたがブラキス級の一撃は二度と貰いたくはない。マジでミスった。


 でもこれが大事になり、チャコはトラウマを負った。


 チャコは人を傷つけるのが怖くなり、人に攻撃するのを過剰に嫌がるようになった。


 俺のことも避けるようになったし、俺もライラにしばらく会わないようにさせた。


 それが三年前。

 俺から歩み寄るようなことはしなかった、リコーにはめちゃくちゃ怒られたが根本的には間違ったことはしてないと思ったからだ。


 ティーンエイジャー同士で万が一子供が出来たとして、なんの責任能力もない子供が子を作って幸せに出来るのか?


 ライラと、ライラの子を幸せに出来んのか?


 だが、ライラは大人になった。

 チャコも自立をした。


 だからそろそろってところで、チャコが魔法学校に入学してきて【総合戦闘競技】をやると戦闘部顧問のオリガ先生から聞いて気になって見に来た。


 そしたら案の定、全然戦えてねえ腑抜けた状態だった。


 慣れねえ魔法は手加減のし過ぎで初見殺し気味にしか使えてねえし、最大の持ち味である近接火力は使えてねえ。


 ライラを任せるんだったら世界で二番目くらいの強さがなきゃダメだ。たとえ世界を敵に回しても、戦えるくらいに強くなくちゃならねえ。


 チャコはそのつもりで鍛えた。


 あいつは暫定的に全人類の中でライラに見合う可能性が少し高い。生まれる前から知っているし、あのブラキスとポピー嬢が変な育て方をするわけがねえ。


 本当は見るだけに留めるつもりだったが、ライラが悲しむなら話は別だ。

 ライラとリコーの生きる時間に一つでも多くの幸せを生み出すために、俺は生きている。


 それに結局、根本的に俺はあいつが大好きなんだ。


 閑話休題。

 さあ、確定したチャコの勝ちを見届けよう。


 斧を構えたチャコに向けてナゾーラは岩石弾を撃ちまくりながら、最高速度で翻弄する。


 流石に異質な空気を感じて接近を躊躇っているようだ。


 だが、物理干渉をする岩石弾はチャコには効かない。あいつに魔法防御を仕込んだのは俺だ、俺が大丈夫だと思えるものはチャコにも効かねえ。


 そして、ブラキスとポピー嬢は一撃必殺コンボを授けている。


 チャコは動き回るナゾーラを落ち着いて目で追いながら、ゆっくりと大斧を構える。


 身体強化を行い、身体中の筋肉が隆起して一回り大きくなる。ブラキスそっくりだ。


 そこから風切り音が観客席に届くくらいの剛腕で、斧を振るのと同時。


 魔力追跡転移で、跳ぶ。


 、ではなく


 元々ブラキスが斧を振った瞬間にポピー嬢が任意の場所に跳ばしてブラキスの出現と同時に相手が消し飛ぶ一撃必殺コンボである筋肉召喚を、チャコ一人で再現したのがこれだ。


 基本的に魔力感知されている限り回避不可能、避けるために動き回ろうとも感知された魔力の先に跳ぶ限り避けきれない。


 跳んだ瞬間に、大斧がナゾーラに食い込む。

 同時に決着を告げるブザーを鳴らしながら、一瞬で壁に激突して壁を砕いて貫いて。


 ナゾーラは会場から姿を消した。


 突然の超弩級力押しスーパー筋肉パワーを目の当たりにして会場中が、しんと静まり返ってから数秒の後。


「……し、試合終了おおおおおおおおおおおおおッ‼ 全帝国総合戦闘競技選手権大会セブン地域代表決定予選Bブロックトーナメント優勝は――――」


 慌てて運営の方が大きな声で。


「チャコール・ポートマン選手ぅううううううう――――――ッ‼」


 一撃必殺を継ぐ者の名を、叫んだ。


「やったぁ――――――っ‼ チャコ――――! かっこよかったよ――――っ!」


 満面の笑みでライラは立ち上がって、チャコに向けて手を振る。


 ぐ…………っ、笑顔になったのはいいが…………。

 一回マジで話すか……。


 久しぶりに飯でも食いながら、今日のダメ出しも含めて。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?