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02大人の道理を子供に語る時子供は大人にさせられる

 流石に責任を感じざる得ない。

 俺が間抜けを晒したせいで、チャコがこんな腑抜けたヤツになっちまったのか?


 落ち込む、流石にこれは酷すぎる。

 何とかするしかねえか…………、終わったら飯でも連れて行って話を――――。


「パパ、何やってんの?」


 と、思考に割り込むように、ライラが声をかけてきた。


「えっ、何をやっているんだ俺は……皆目見当もつかない。一体全体何故こんなところにいるんだ……?」


 ライラの問いに、俺はこれ以上なく白々しくすっとぼけて返す。


「…………そう、じゃあ仕方ないね。一緒に見よ、もう始まるよチャコの試合」


 呆れるようにライラはそう言って俺の席の隣に座る。


 流石に賢い、俺が答える気がない時点でチャコが目的ってことを確定させている。こんなところ似なくても良かったのに……、嬉しいような悲しいような。


「予選決勝戦! 東側、サウシス魔法学校戦闘部! チャコール・ポートマン選手‼」


 決勝戦とあってか、やや力の入った運営の方の声でチャコが入場する。


 会場から声援が飛ぶ、どうやら多少なりと注目されているようだ。


「いやーまさかチャコがこんな圧倒的に勝ち進むなんて、パパの件で戦えないのかと思ったけど杞憂だったね」


 嬉しそうにライラは言う。


「……ねえ」


 俺はライラの言葉に、ぽつりと胸中を洩らす。


「西側、ライティングライダーズ! ナゾーラ・ギメイ選手‼」


 運営の方の声で対戦相手が入場する。


「あの人は有名な選手なのかい? パパ何でここにいるのかわからないから、教えて欲しいんだけど」


「……はいはい、教えてあげますよ……。って言っても全く無名の選手、チャコと同じく初出場で過去の戦績も無しでライティングライダーズなんてチームも聞いたこと…………ん?」


 俺の質問でライラも同じ疑問に辿り着く。


 俺は【総合戦闘競技】に詳しくはないので、単純に知らないだけな可能性もあったが現役選手のライラが知らないんじゃあ不自然だ。


 あのナゾーラとやらは、どうやって予選出場枠を獲たんだ?


 過去の大会成績によって予選出場枠は団体単位、本戦出場権は個人単位で与えられる。

 無名選手に無名団体所属で戦績もないってのはなかなか不自然だ。


「うーんまあ、私が知らないだけでライティングライダーズってチームが他の地域でなかなかの成績があって、ライト地域に拠点を移してきたとか…………まあないことじゃあないとは思う……かな?」


 ライラは少し考えつつ、思いついた一番高い可能性を答える。


 まあ、それしかないなら多分そうなんだろう。そうじゃなかったとしても、俺には関係がない。


「それでは…………、試合開始ッ‼」


 そうこうしていると、運営の方の力の入った合図で試合が始まる。


 速攻でナゾーラが動く。


 ここまでの試合もある程度見てきたが、ナゾーラは速い。身体強化を用いた身体操作が上手いのもあるが、無駄がない。単純に今日見た中で一番強い。


 高機動で臨機応変に戦術を変えるし、隙もない。そりゃあこいつが勝つわなって試合だった。

 恐らく今のところ全力も出てない、意図的に余力を残している。


 プロっぽい……というかなんというか。まあそれはいいか。


 チャコは動き回るナゾーラに対して、ホーミング螺旋光線魔法の連射で迎え撃つ。


 だが、ナゾーラは魔力湾曲でぐにゃりと光線魔法を歪めて対処する。

 魔力湾曲は魔力導線と同じく、魔法を逸らすタイプの魔法防御だ。魔力導線のように任意の方向に流すのは出来ないが、螺旋では巻き込んで貫通は出来ない。まあ俺は好んで使わないが、優秀な魔法防御だ。


 チャコは今日だけで二試合は螺旋光線魔法を使って見せている、そりゃあ対策くらいはされる。


「すご……、あれ適切に捌くの難しいでしょ」


 ライラも思わず感心の声を洩らす。


 まあライラならあのくらいの攻撃を通すことはないだろうが、ナゾーラは縦横無尽に動きながら捌いている。少なくとも俺には出来ない。


 チャコは螺旋光線を連射しつつ、今度はナゾーラの軌道上に重力埋葬で沈めようとするが反応されて躱される。


 身体強化の出力を調整して速度に緩急をつけて対応している。巧みだ、生徒があれやったらはなまるをくれてやる。


 つーかマヌケはチャコだ。

 重力埋葬は基本的に初見殺し、使うんならここぞという時だ。手の内晒したら対策されるに決まってる。


 ホーミング螺旋光線を捌いて、重力埋葬を躱して、一気にナゾーラはチャコに接近し。


 空間魔法から刀を抜く。

 空間領域に鞘を残して、いわゆる居合のような形で斬りかかった。


 しかし、設置型転移魔法で天井まで跳ばされる。


 先程のトラジ戦に使ったやつだ。

 つまりこれも、既に見せている。


 ナゾーラは空中でくるりと体勢を変えて、天井を蹴るのと同時に足の裏から放たれた風系統の魔法で加速して真っ直ぐチャコへと向かう。


 あれは魔道具……というか魔動兵装か。

 デイドリームで多分セツナが造ってる類いの、かなり高性能なやつだ。そんなもんを無名の選手がねえ……、まあいいか。


「――ッ」


 なかなかの速度でチャコに接近して刀を振るが、チャコはギリギリで躱す。


 まあ躱すのが正解だな、ありゃあ多分物理障壁を斬れるくらいの太刀筋だ。防御魔法は過信しない方が良い。


 そのままナゾーラは厳しく攻め立てる。


 チャコもギリギリで躱しながら距離を取ろうとするが、ナゾーラは甘くない。


 堪らずチャコは目視転移で跳んで、風撃斬やら岩弾撃やら火炎弾やら雷撃爆やら様々な魔法を放つがナゾーラは器用に躱して詰めてくるし、目視転移時の視線を読んで先回りもしてくる。


「つ、強すぎない? 何者なのあいつ……」


 ナゾーラの猛攻を見て、ライラが思わず声を出す。


「……あー、あれ多分軍人だぞ。第三騎兵団の、しかもまあまあ優秀なやつだ。多分何かの任務で大会に出場してんだろうな、あからさまな偽名で実績ないのにあの練度、セツナの造った装備が支給されんのならそれしかない」


 俺は小声でライラに返す。


「え、そんなのズルじゃない! 元軍人ならまだしも本物の軍人がしかも実績も詐称して……」


「まあ任務なら仕方ないよ。それにちゃんと予選には出て本戦に出場するのなら、比較的フェアな方法だと言える」


 驚くライラを俺はたしなめる。


 何が目的かはわからんが、まず間違いない。

 動きにクロウの思想を感じる。


 第三騎兵団の団長ジャンポールはクロウが最後に面倒を見たやつだ。キャミィの旦那ってことでかなり厳しく鍛えたらしいからな……、そのジャンポールの部下なら部下もクロウの思想を感じて然りだ。


 世界最強の系譜は今も受け継がれている。


「じゃあこれ、チャコにもう勝ち目ないってこと……? 魔法が通用しないんじゃ……魔法使いのチャコじゃあんな近接戦闘に対応出来ない……」


 ぽつりとライラは言う。


「……このままじゃあ負けるだろうね」


 俺はライラに事実を述べる。


「まあ仕方ないか。とりあえず決勝まで来れたし、戦闘部の予選出場枠は維持できそうだし……」


 ライラは寂しそうに切り替える。


 そんなところで。


 遂にラゾーナの刀が、チャコに届く。


「……くっ」


 チャコは腕に部分硬化をかけて、刀を受ける。


 『纒着結界装置』は使用者の肉体強度に合わせてダメージを判定する。


 部分硬化を使えばダメージはあまり通らないが、部分硬化も攻略可能なものだ。軍人なら当然そこも抑えている。


 ラゾーナはチャコの脚を狙って斬りかかる。

 単純だが脚を硬化させると動けなくなるので有効な攻略法だ。


 チャコは無理矢理躱すように脚を動かしたので体勢を崩し、空間魔法から抜かれた二本目の刀で斬られる。


「チャコ……っ‼」


 思わずライラが声を上げる。


 だが試合終了のブザーは鳴らない、魔力感知で空間魔法の発動を感じたチャコはギリギリで回避した為に通りが浅かったようだ。


 ライラはかなり不安そうな顔をしてチャコを見つめている。


 ………………はあ、仕方ない。


「ライラ、おまえはチャコを勘違いしているよ」


 俺はライラに優しく語りかけ。


使


 俺はライラの勘違いを正す。

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