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01大人の道理を子供に語る時子供は大人にさせられる

 俺、バリィ・バルーンはセブン地域の南のサウシス魔法学校で教員を勤めている。


 愛すべき妻と娘が一人。

 なんだかんだで二十年以上、学校の先生として夫として父親としてサウシスで過ごしてきた。


 もうおそらくここに骨を埋めることになるくらいに、俺はサウシスの民だ。


 が、今日は旧公都へとやってきた。


 えっこら『長距離魔動バス』を乗り継いで、十三時間。馬車やら徒歩の頃に比べりゃあかなり早く着くようになったが、まだまだ遠い。早いとこ『魔動列車』の開通が待たれる。


 そんな時間も金も手間も使って、愛する妻と離れて旧公都なんかにやってきたかと言えば。


「ここか……」


 俺は旧公都の東、スラムだった辺りを取り壊して作った特別格技場の前で呟く。


 今日はここで全帝国総合戦闘競技選手権大会のセブン地域代表決定予選が行われる。

 それを見に来た。


 まあ【総合戦闘競技】って正直あんまり興味がある興行でもない、元々冒険者だった俺は対人模擬戦なんて若い頃にブライやらアカカゲやらのを見て腹いっぱいだ。


 だが愛娘のライラが学生時代に熱中して、今も現役選手が故にわりと見る機会は多い。


 しかもどうにもライラはなかなかに強くて、人気選手になってしまった。

 当然と言えば当然だ。全国ベスト8に次の大会も16には残っているし、何よりめちゃくちゃ可愛いし母親のリコー譲りの巨乳も携えているので最強だ。


 クロウが世界を変えてから、ちょいとばかし治安が悪くなったので一応護身術程度にリコーの盾術と基本的な魔法を仕込んでポピー嬢が作る魔動武装なんかも扱えるようにしておいたのが競技に活きたのかもしれない。


 大人気国民的超絶美少女になりつつある娘に変な野郎が寄り付かねえようにする為にも、大会にはついてくようにしている。


 が、今回の予選にライラは出場しない。

 既にライラは本戦出場権を持っているので予選は出ない。


 じゃあ何故俺が、えっこら十三時間も使って大して興味もない他人の模擬戦モドキを見に来たのかといえば。


「東側、サウシス魔法学校戦闘部チャコール・ポートマン選手」


 運営の方がそう言うと、黒いタイトなシャツに林業作業用のダボッとしたデニムのズボンを履いた大男が入場する。


 そう、俺はこいつを見に来た。


 チャコは俺の冒険者時代のパーティメンバーであるブラキスの子供だ。

 生まれた時……いや、ポピー嬢の腹の中にいる時から知っている。おしめを替えてやったこともあるし風呂にも入れたこともある。

 ちっちゃな頃から冒険者になりたいと言っていて、両親のブラキスやポピー嬢やクライス君や俺やリコーで色々と叩き込んだりした。


 だから心配で見に来た。

 今のチャコが、果たしてまともに戦えるのかどうかを。


「では…………試合開始!」


 何やら準備が終わって試合が始まったみたいだ。


 初戦の相手はショッテ・マーケン。

 道着を身につけていて、格闘家風の若い男だ。

 かなり身体を鍛えこんでいる、耐久特化の近接格闘武術家ってとこか。


 ショッテはそれなりの魔法防御と身体強化をかけながら、煙幕を張る。


 対人は先手必勝、ブライは格下から動けとか舐めたことを言うこともあるが基本的に主導権握り続けてこちらの流れを押し付け続けるのがセオリーだ。


 悪くない動きだが…………、いやまだいいか。


 ここからさらにショッテは多重空間魔法を展開する。


 これには少し驚いた、ありゃあ冒険者時代の後輩であるアカカゲが使ってた『土竜叩き』だ。

 アカカゲは天涯孤独の身で若くしてこの世を去ったので誰かに技を託したとは考えづらいが、西で見た誰かが真似したのかたまたま同じ発想に至ったのか。


 まあこれも……惜しいな。


 そこからチャコからの迎撃、螺旋光線魔法放たれる。

 ポピー嬢が作った魔法防御貫通力を高めた光線魔法だ。あれを防ぐとなると、螺旋に合わせた魔力導線を貼ったりして逸らしていかないとならないので結構厄介な魔法ではある。


「し、試合終了! 勝者、チャコール・ポートマン‼」


 運営の方が決着を告げる。


 一発当たったところからホーミングで螺旋光線を連射、そのまま壁に叩きつけられて決着。


 ショッテ氏は悪くなかった。

 煙幕で視界を奪っての『土竜叩き』はアカカゲの必殺コンボ、あれをやられたら大抵の奴は死ぬ。


 でも多分ショッテ氏はチャコが魔力視や魔力感知が出来るとは思ってなかったんだろう。その手の魔法に明るいやつに視認性を悪くする戦法は通りづらい。


 さらに『土竜叩き』も不完全だった。

 あれはアカカゲの『忍者』による機動性やら、躰道や暗殺術による運動性や気配を殺す術があってこそのものだ。


 発動から暗殺までを一挙動にできなくては、割り込まれる……でも発想は悪くない。実際アカカゲだったらチャコの首を取れていただろうから。

 耐久性に優れた鍛え方は十分に出来ているので、後は身のこなしや機動性を上げられればかなりの使い手になりそうだ。


 七十点。

 かなり熱い戦いぶりだった。個人的にかなり好印象な選手だ。


 チャコは……だな。

 思った通り、やっぱりチャコは戦えてねえ。

 責任を感じちまうが……まあまだ見るか。


 他の試合をぼちぼち観戦しつつ、ライラが大きくなったことを機に解禁した煙草を吸いに喫煙所でとぐろを巻いたりして次のチャコの試合まで時間を潰す。


 いやー結構みんな色々やるんだなーって思った。

 俺がやるならどうすんだろ、そもそもタイマン模擬戦得意じゃねえというかトーンでも最弱だからな。試合前に毒を盛るとか親子供を人質にして脅すとか……いやルール違反か。やっぱ俺に競技は向いてないな。


 そんなこんなで予選二回戦第二試合。


 今度のチャコの相手は、大人気プロ戦闘競技選手セブンスバーナーのリーシャ・ハッピーデイ嬢。


 ライラと同世代の子で、ライラと同じ大会でよく見た事がある。最近はライラが勝ち越しているけど、なかなか使う子だ。


 華があるし、魔法拳は面白い技だ。

 手に魔法を宿らせて、接触時に発動。

 威力もあるし、何より身体強化を用いた身体の使い方が上手いというのに噛み合っている。


 実戦では捨て身になり過ぎる感が否めないが『纒着結界装置』を使って怪我をしないことを前提とした戦法だ。競技にフォーカスするなら、かなり良い。


 実際ライラほどじゃあないが可愛らしい見た目をしているし、なかなかの成績を収めている人気選手だが。


「試合終了……っ! 勝者! チャコール・ポートマン‼」


 試合は三秒で決着を迎える。


 開始一秒以内に、チャコが重力埋葬でリーシャ嬢を埋めた。

 咄嗟に右手だけを出し、地面を砕いて脱出を試みたが抜かりなく地面に物理障壁を張ってそのまま潰して勝ち。

 リーシャ嬢は八十点、初見の重力埋葬を咄嗟で攻略する判断力もなかなかだった。


 チャコは

 トーナメント制の競技で初見殺しを選択するのは馬鹿だ。やはりまともに戦えていない。


 次は準決勝まで昼飯でも食おうと食堂に行くと、丁度ライラとチャコが出てくるところだったので咄嗟に隠れる。


 まあ別に隠れる必要もないのだが、俺が行くとなんか変にギクシャクしてしまうし面倒くさい。声をかけるなら終わってからだ。


 ライラとチャコをやり過ごして食堂に入り、適当な席に着くと。


「うおおっ⁉」


 テーブルの下からリーシャ嬢が出てきて驚きの声を上げてしまう。


「ごめんあそばせ、それでは失礼いたします。おほほほ」


 リーシャ嬢は俺にそう言って去っていった。


 愉快な子だな。ライラと仲良くしてほしい限りだ。


 さくっと食って一本吸って観客席に戻ったところで。


 予選準決勝第一試合、相手は傭兵トラジ・トライ。


 俺と同年代くらいのおっさ…………おにいさんだ。

 俺ほどじゃあないが、まあまあ引き締まっている。鍛え込んできている感がある。


 試合開始と同時に詠唱有りで身体強化、最低限の防御魔法、武具召喚で長剣一本を呼び出して動き回る。


 対魔法使い相手のセオリー通りな動き。

 動き回られると狙いは付けづらいし、近接格闘に持ち込む為には走るしかない。


 チャコは初戦と同じようにホーミング螺旋光線連射で迎撃を狙うが。

 トラジは無詠唱魔法剣でがむしゃらに弾いて進む。


 おいおいこんなすげえやついんのかよ。

 光線魔法に反応して、無詠唱の魔法を使って剣で弾くなんて一昔前なら公国でもトップクラスの実力者だ。


 しかも動きにブライの匂いが残っている。ありゃあブライが基礎を仕込んだ公都の冒険者上がりのやつか。


 光線魔法の雨あられを掻き分けて、間合いまで詰め寄ったところで。

 チャコが設置した転移魔法で天井まで跳ばされて、そのまま地面に落ちて試合終了。

 トラジは相当良かった、冒険者や傭兵としてのセオリーを捨てて競技にアジャストした戦いぶりを見せた。


 八十五点。

 かなり良かった、この競技にそんな興味のない俺ですら応援したくなった。


 チャコは…………

 問題外だろ……こんなにチャコはダメになっていたのか。

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