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04十人十色はめんどうな奴らを黙らすために作った詭弁

「起動確認」


 係員が私たちの『纒着結界装置』の起動を確認している間に。


「あなた、ライラ・バルーンとはお知り合いかしら?」


 私はチャコール・ポートマンに尋ねる。


「え、ああはい。ライラちゃんはよく知ってますよ」


 驚きつつマヌケな顔でチャコールは返す。


「そ、じゃあこれが終わったら彼女に伝えて。この私が必ず本戦でぶっ飛ばすってね」


 私は不敵な笑みを浮かべて伝える。


「? はい、伝えておきます……?」


 マヌケな顔でチャコールは受け取った。


 悪いわね。何も知らない助っ人なのかもしれないけれど、今日は私の日だ。


 私のリベンジと返り咲きの踏み台にさせてもらう。


「では…………試合開始‼」


 係員より高らかに試合開始が告げられる。


 さあ、まずはセオリー通り防御魔法を展開し遠中距離から相手の防御を剥がし――――。


「――――どぅえ……っ⁉」


 開始早々、私はいきなり地面に埋まって変な声を上げてしまう。


 何が起こって……、材質変化と重力魔法を同時に使った……? 溜めも予備動作も無しに……?


 理解が追いつかないが今はもう考えるのはやめる。

 咄嗟に反応したおかげで頭と右腕だけは地面に埋まらずに済んだ。

 まさか防御魔法を展開するより速く仕掛けてくるなんて。


 仕切り直しよ。


 私は身体強化を使い、さらに右拳に爆熱魔法を宿らせて魔法拳を作る。


 この魔法拳は身体の中で魔法に変化する寸前の魔力を拳へと宿らせて、接触時に魔法へと変化させるというもの。


 格闘戦の中で、突然魔法を発揮することが出来る。

 近距離魔法発動は自爆のリスクもあるが『纒着結界装置』があれば、結界は多少削れるかもしれないが私自身にダメージはない。


 高威力で隠密性もある。

 中遠距離での魔法発動から近距離格闘へと持ち込めば、ほぼほぼ必殺。


 私は魔法拳で地面を砕く勢いで叩く。


 私自身の結界もかなり削れるかもしれないが、こんな複雑な魔法をそう易々と使えるはずがない。重力魔法と材質変化なんて、魔力消費もなかなかのはずだ。つまりこれは千載一遇狙いの奇襲のはず。


 脱出さえ出来てしまえば、後は私のターン。

 奇襲に頼るということは、奇襲でなければ私には勝てないと判断したということだ。

 接近して、ガードごと魔法拳で殴って燃やす。


 しかし。


「――硬ぁ……っ」


 殴りつけても傷一つつかない地面に、私は思わず声を漏らす。


 どゆこと? 石畳くらいなら簡単に吹き飛ぶくらいの出力……え?


 まさか地面に防御魔法をかけているの?

 さっきの魔法コンボと同時に?


 まずい、捕まった。

 でもこの距離なら魔法防御は出来る。

 埋まった左手にも魔法拳を作って中から爆発させて離脱するしかない。

 自爆で相当結界が削れるけど、ギリギリ耐えられるはずだ。

 近寄られないように右手でここから直接撃ちまくって――――。


 ここで私の敗北を告げるブザーが鳴り響く。


 気づけなかった。

 材質変化からさらに土系統の魔法で地面を操作して、私を押し潰していたんだ。


 ブザーが鳴るということは、もう圧力は私をぺちゃんこにするところまで達していた。


 初手の段階で、詰んでいたんだ。


「試合終了……っ! 勝者! チャコール・ポートマン‼」


 焦った様子で、係員が勝者を告げる。


 負けた……予選で……しかも二回戦で。


 なんなのよこいつ。もう泣きそうなんだけど、帰って愛猫のマロをこねくりまわしてからぐっすり寝たいんだけど……。


「すぐに引き上げますね」


 そう言いつつチャコールは落ち込んで泣きそうな私の右手を掴んで、そのまま私を容易く地面から引っこ抜いて。


「あー、お洋服汚しちゃいましたね。これはあんまり使わない方がいいかもな……、ありがとうございました。勉強させていただきました」


 私の無様な様子を見て、笑顔でそう言った。


「……うるせーっ‼ バカー! ばーかばーか! もう知らないわよ! うぇぇぇーん……っ」


 馬鹿デクノボーの酷すぎる煽りに対して私は泣きべそかきながら、かろうじてそう返して私は走って退場した。


 セブンスバーナーナンバーツー、爆熱パンチャー。


 リーシャ・ハッピーデイ、予選二回戦敗退。


 この後、泣き顔を後輩たちやファンに見られないように選手食堂に逃げ込んだらライラ・バルーンとチャコール・ポートマンが入って来た。


 ら、ライラぁっ⁉ 来ていたの? ってことは今の試合も見てい…………くぅぅぅぅ……っ。


 咄嗟にテーブルの下に身を隠して、悔しさと情けなさでのたうち回りたいのを我慢しながら様子を伺っていると。


「そういえばさっきのリーシャさんが試合開始の前にライラちゃんへ、本戦で必ず倒すって伝えて欲しいって言ってたけど…………敗者復活みたいなのってあるんだっけ? なんか不思議な伝言だったと思ってたんだけど」


 まさかのチャコールは親しげに、あのドヤ顔伝言をライラ・バルーンへ伝えていた。


 こいつ……っ、マジに最悪だ!

 というか私も私で大分調子に乗っていた……、確かにサウシス魔法学校戦闘部が部員を押し退けてまで出場させた助っ人……狡猾なライラが絡んでるに決まってる。


 というか、どこで見つけて来たんだこんな大型新人!

 セブン地域でトップ選手目指すんならまずはセブンスバーナーに応募しなさいよ! なぜサウシス魔法学校戦闘部に……よりにもよって……。いや、まさか。


 もし私が笑顔でポーズをキメる広報用ポスターを見た上でサウシス魔法学校戦闘部を選んだのなら、間違いなく巨乳好きの馬鹿者ということだ。


 くっそぉ……、そんな助平馬鹿野郎に負けたのか私は……情けなさすぎて泣けてくる。


「あっはっはっは! ……あー、リーシャほんとに可愛いわね。まあまあ、大会は今年だけじゃないし来年は本戦でやり合えるかもだから。楽しみにしとくわよ」


 伝言を聞いてケタケタと大笑いしながらライラ・バルーンはそう返す。


 こ、こいつらぁ…………。


 決めた、今決めた。

 こいつらは絶対に殴り燃やす。


 絶対に、恨みはらさで二人ともぶっ飛ばすっ‼


 私はテーブルの下で、強く心を燃やし続けるのだった。

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