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02十人十色はめんどうな奴らを黙らすために作った詭弁

 セブン地域代表決定予選はざっくり三十二名からなるワンデートーナメントだ。


 本選出場枠は二名。

 十六名ずつのトーナメントを二つおこなって各トーナメントの優勝者が帝都で行われる本戦へ出場出来る。


 そもそもこの予選に出る為のハードルも高いため、ここにいる三十二名は少なくともセブン地域で最強格の三十二名である。まだ予選だが、この時点でそれなりに注目度は高い。


 十六人のトーナメント、つまり四回勝てば本戦だ。


 たった四回。

 だが一度でも負ければおしまいだ。ひと試合も気は抜けない。


「では西側、レイト流ショッテ・マーケン選手」


 係員に名前を呼ばれて格技場へと入場する。


「がんばれー! 優勝あるぞーっ!」


「ショッテーっ、がんばれー! 勝ったらモテるぞー!」


「ぶちかませ! ショッテ! レイト流を見せてやれー!」


 地元の友人や道場の門下生たちからの声援が飛び交う。


 旧公都まで応援に駆けつけてくれた。有難い、負けられない理由が増えた。


「では東側、サウシス魔法学校戦闘部チャコール・ポートマン選手」


 係員にそう呼ばれ、対戦相手が入場してくる。


 サウシス魔法学校戦闘部……? 一昨年俺が負けた巨乳お嬢さんと同門か。


 つまり、かなり使うのだろう。


 黒髪でタイトな黒のシャツの大男。


 かなり大きいな……筋量もかなりのものだ、武器は携行していないが武具召喚や空間魔法で何かしら出して来るのだろう。巨乳お嬢さんも大盾を召喚していた。

 というかサウシス魔法学校は、なにか発育が良くなる研究でもしているのか? 通えば発育が良くなるなら入学の倍率が帝国一番に跳ね上がるぞ。


 あまり固定観念に囚われないようにしたいが、巨乳お嬢さんと同じく近接戦闘を得意とするタイプかもしれない。


 で、あれば耐久力と根性の勝負。


 だったら俺が勝つ、そういう鍛え方をしてきた。


「起動確認」


 係員が『纒着結界装置』の起動を確認して。


「では…………試合開始!」


 高らかに試合開始を告げる。


 俺は一気に駆け寄りながらセオリー通り魔力導線、物理障壁、身体強化の順で展開し。


 黒煙爆の魔法で煙幕を張った。


 まずは視界を奪い翻弄する。

 まあ視認性が悪くなって観客が試合を見れなくなるので興行的には良くないが、知ったこっちゃあない。


 この翻弄している間に準備をする。


 多重空間魔法で空間領域の出入口をばら撒く。

 この出入口を使って擬似的な転移魔法を再現し、近距離で真正面から戦いつつ死角から急所を狙う。


 これがレイト流奥義『土竜叩き』だ。


 テンプ先生が【西の大討伐】で出会ったトーンの冒険者の一人が使っていた技を長年の修行で再現させたものらしい。


 俺は耐久力に自身はあるが、防御魔法を貫くほどの魔法は使えない。

 だから防御を貫通する死角からの攻撃で火力を補う。


 空間魔法の出入りを利用した、擬似的な高速移動。

 さらに四方八方に広がる気配と魔力での撹乱。


 否が応でも隙だらけ。

 死角からの一撃は、効く。

 一方的にこのまま畳み掛ける。


 煙幕で出入口は見えない、さあこのまま削らせて――――。


 そんな思考の最中、閃光が俺の左手肩に着弾する。


 光線魔法だと……? こいつ、魔法使いなのか?

 魔法使いにしちゃあデカすぎんだろ!

 この視界の中で、魔力感知の精度が良すぎる。

 しかも魔力導線を貫通して……早く空間領域に飛び込んで『土竜叩き』を成立させないと――――。


 いや、焦るな。

 大丈夫『纒着結界装置』はそれほど削れていない。


 この競技で使用されている『纒着結界装置』は装備する者の耐久性に応じて許容するダメージ量は変化する。

 つまり、この光線魔法を生身で喰らっても俺は死に至らないということだ。


 この程度の攻撃魔法なら問題ない、この程度なら百発は喰らわないと死にゃあしねえ。

 俺は鋼だ、ここまで鍛錬を積んできたんだ。

 光線魔法は高難度な魔法、そうそう連射は出来ないはず。

 この隙で決める。

 驚いたが、俺の優位は変わらな――――。


 


 夜空の星のように、黒煙からちかちかと大量の光が四方八方から輝いて。


 防御魔法を貫通して、身体中に百発以上着弾する。


「ぐぉ……っ」


 何が何だかわからずそのまま撃たれ続けて煙幕の中から吹き飛ばされて、壁に激突して思わず声が漏れ出たところで。


 俺の『纒着結界装置』から、敗北を知らせるブザーが場内に鳴り響いた。


「し、試合終了! 勝者、チャコール・ポートマン‼」


 高らかに、係員が勝者を告げる。


 同時に、俺が張った煙幕が風系統魔法で吹き飛ばされ。


 試合開始から一歩も動いていない、大男の姿が見えた。


 そのまま壁に激突してへたり込む俺に向かって、歩き出して。


「ありがとうございました。自身の耐久性で『纒着結界装置』の効果はここまで変動する……かなり勉強になりました。本当にありがとうございます」


 申し訳なさそうに、されど真面目そうにそう言って大男チャコールは去っていった。


 煽り…………ってわけでもなさそうだ。

 ありゃあ別格だな、あんなもん耐久力だとか根性の話だけじゃあどうにもならない。強すぎた、完敗だ。


 レイト流の看板を背負って、夢を見た男。


 ショッテ・マーケン、予選一回戦敗退。


 まあ、この後俺は先生や応援に来てくれたみんなに会うのがバツが悪くて会場の選手食堂に身を隠そうと入ったら。


 先程戦ったばかりの大男が巨乳お嬢さんと食事をしていた。


 おいおいまだ試合残ってるのにカレー行くのか……? まあまあ量あるだろここのカレー、若さとかじゃ片付けられんぞ。


 驚きつつも俺は少しでも、常軌を逸した強さの秘訣を聞き出すべく話しかけたのだが。


 彼らの親が元トーンの冒険者ということを知って、色々と納得をした。


 不思議な縁だ。

 まさかこんなところでトーンの流れを汲む者と戦うとは……、彼らの鍛錬法や戦闘思想を聞いたけど。


 根本的に実戦志向というか、容赦とかスポーツマンシップとかが欠落しているように思えた。

 レイト流の想定するトラブルなどによる護身的な実戦ではなく、なにかを遂行する上で暴力を用いることによる実戦を想定しているようだった。


 鍛錬に関しても過剰も過剰、一体何を想定した鍛え方なのか。

 まるで東にはその気になれば世界を滅ぼせるような怪物がいて、その怪物と戦えるようにして備えているみたいな雰囲気を感じた。


 そんなわけのわからない鍛え方をされてきた、彼らに敵うわけがない。


 俺はそんなことを悟り、大会を終えて。


 道場の教えに「トーンの冒険者の子供たちにも気をつけろ」というのを、追加した。

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