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03再会の嬉しさの内訳は打算が半分

 ラッキーもラッキーだ。

 スカウトするのにこれ以上条件に当てはまる人材はいない。私が知っている人間の中でも最強ランク、少なくとも全帝ベスト8の私よりも強い。しかもついでにチャコの転移魔法で『魔動バス』の代金が浮いて、時間も短縮されたのは大きい。


「サウシス……魔法学校? ライラちゃん僕は何をさせられようとしているんだい? 確かに暇だから着いてきたというか跳んできたけど……」


「まあまあ、いいからいいから」


 そんなやりとりをしつつ、チャコを魔法学校の戦闘部の部室へと連れていき。


「助っ人が見つかったわよ! 次の予選はこのチャコール・ポートマンを出します!」


 部員たちの前で私はそう宣った。


「よ、予選……? 何、え? 僕なんかスポーツをするの?」


 困惑しながらチャコは私に尋ねる。


 私は不敵に笑みを浮かべて。


「【総合戦闘競技】よ」


 私はチャコに語り出す。


 【総合戦闘競技】は格闘競技というか、元々は軍や冒険者などの戦闘職の人たちが行っていた対人模擬戦をベースにした競技スポーツである。


 ざっくり言えば格闘技、ボクシングやレスリングなどと同じくルールの中で競い合う競技性の高いものだが大きく違うのは。


 実戦武器、攻撃魔法を使用することだ。


 装着型魔道具『てんちゃく結界装置』が規定値までダメージを肩代わりする為、安全性は確保されている。


 故に何でもあり、目潰しや金的や後頭部への打撃やある程度殺傷力の高い魔法なども認められている。


 元々は模擬戦をより実戦的に行えるようにする為に軍とデイドリームが共同開発した『纒着結界装置』を用いた模擬戦をデイドリームが広告活動の一環として十五年くらい前に帝国全土へと『映像通信結晶』を用いて放送した。


 その際に放送された帝国軍第三騎兵団の現団長である、ジャンポール・アランドル=バスグラムと謎の双剣男の戦いが帝国中を熱狂させた。


 そこから模擬戦ブームが到来。


 二十年前、私が二歳に満たない頃に起こった【大変革】により魔物の脅威がなくなって世界はかなり平和になった。


 しかしてそんな平和も束の間、犯罪率が上がった。


 魔物と戦うことしか出来なかった人々。

 そういうスキルに生まれて、そういうステータスを伸ばしていた人々が社会からこぼれた。

そんな混乱期を狙って他国との交戦や、かつて帝国との争いに敗れて統治された地域の残党による武装決起が行われたり、単純に野盗や泥棒などが増えた。


 帝国軍は優秀なのであっという間にそれらを制圧したけど、根本的な解決にはならない。

 帝国は様々な政策や方針を打ち出して、治安の安定化を図ろうとしていた頃。


 ジャンポール氏のスキルを使わない対人模擬戦が放送され、世の中の戦うことしか出来なかった人々に再び戦う目的を作った。


 合法的に暴れる目的が出来たことで犯罪率はやや下がり、軍も国民の護身術などの普及に繋がると全面協力をし早い段階で全国大会などが設けられるようになった。


 そこから軍人たちの力試しとしてだったり。

 元冒険者たちの新たな活躍の場として。

 かつてはスキルやステータス的に魔物との戦いを諦めていた者たちが強さを求める為に。


 様々なところで色んな団体を立ち上げて、日々技量を競い合っている。


 そんな【総合戦闘競技】についての概要やらをざっくりと熱っぽくチャコに伝える。


「へえ……、そういうのが流行ってんだね。田舎者の僕は全然知らなかったけど……、ライラちゃん僕は誰かを傷つけるのが――」


「傷つかない。安全だから競技として成立してんのよ。『纒着結界装置』の安全性は帝国軍お墨付き、細かい仕組みまでは説明できないけど装置が致命傷となるダメージ量まで達した段階で試合終了のアラームが発せられるから基本的に事故は起こりえない」


 私は想定されていたチャコの疑問に答える。


「指取りなどの関節技は『纒着結界装置』では肩代わり出来ないけど生命に関わらない範囲であれば許容されている。でも同じく肩代わり出来ない呼吸器や経口摂取を狙った気体や液体を用いた毒攻撃と消滅魔法みたいな結界自体を消し飛ばすような必殺級の一撃は禁止。それ以外は基本的に何でも有り」


 一応細かいルールも伝える。


「…………なるほど、だったら僕にも出来なくもないけど…………うーん」


「とりあえず今回の大会だけ! 負けたらおしまい! 勝った分の賞金はちゃんと渡すし、おっぱいも揉んでいいから! おねがーいチャコ、マジでピンチなの」


 悩むチャコの腕に抱きついて、口説き続ける。


 本当にこのチャンスは掴むしかない。

 魔法学校への途中入学とか入学金問題もあるけど、これがまさに一番の奇跡なんだけど魔法学校の理事長はチャコの伯母に当たるマリー・ミーシア=ヴァレンタインだ。

 ミーシア理事長もチャコのことは赤ん坊の頃から知っているし、魔法学校への入学もかなり進めていたと聞く。


 なんとかなる。


 私はママ譲りのたわわに育った胸を押し付けて、お願いをする。

 まあパパが言うには、チャコのママや私のママっていう巨乳に囲まれて育ったチャコの巨乳耐性は常人の八千倍はあるらしいのでおっぱい戦法は効かないんだろうけど。


 でも、チャコは変化を求めている。

 じゃなきゃ仕事を辞めたりしない。


「……わかった、やってみ――――」


「待ってくださいっ‼」


 チャコの返事に割り込む大きな声。


「俺は反対です! なんでこんな、図体だけのビビりを使うんすか先輩! 俺だって、エースにゃあなれなかったけど鍛えてきたんすよ! 出場権の維持なら俺にも出来ます!」


 部員のテリィがそのままの声量で捲し立てる。


 テリィは助っ人を呼ぶことを反対していたし、まあ言ってしまうと私に少し好意を寄せている節もある。面白くないとは思う。


 でも、申し訳ないけれどテリィじゃあ話にならない。


「じゃあ試しにスパーしてみる? チャコと」


 私は少し冷たくテリィにそう返す。


「へえー、こんな小さな装置なんだ。てっきり鎧みたいなものだと思ってたけど全然邪魔にならないんだね」


 チャコは『纒着結界装置』に驚きながら、模擬戦用フィールドに立つ。


「ルールは通常通り! テリィが勝てばテリィに出場権使うよ! いいわね!」


 私は審判として位置取って宣う。


 二人は見合いながら小さく頷いた。


「では…………、初めッ‼」


 私の声で、試合は開始された。


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