私、ライラ・バルーンはライト帝国はセブン地域の南に位置するサウシスの街で図書館司書をしながら魔法学校で戦闘部のコーチというか外部顧問をしている。
やたらと物騒な名称だけど、これはただの部活動の名前だ。【総合戦闘競技】を行う部活の外部顧問で、学生時代は私自身も選手だったというか現役で選手でもあるんだけど。
とりあえずそんなことより私は今、非常に困っている。
「はあ……、どうしろっていうのよ……」
私は情けない声で、旧公都のど真ん中で頭頂部をさすりながら一人つぶやく。
単純な交通事故だったらしい。
うちの部から全帝国総合戦闘競技選手権大会のセブン地域代表決定予選に出る予定だった部員が、怪我をした。
相手の前方不注意により『魔動四輪』に引っ掛けられた。
幸い命には別状はなかったし、完治が見込める怪我で後遺症も残らないようだったのだけど。
全治三ヶ月、来月の予選には間に合わないのだ。
…………よりにもよってうちのエースが……、いや誰であろうと怪我は良くないけど。
サウシスの魔法学校は伝統的に体育会系が少ないので戦闘部の部員もかなり少ない。
故に全国予選出場枠は一つのみ。
他の部員たちはまだ全国に行けるような練度はない。まあ記念出場のようなかたちで出してあげることもできるけど……あまりそれはやりたくない。
全国予選の出場枠は色々と規定がある。
団体としての民間大会などでの成績や、団体規模などに応じて出場枠は決まる。
サウシス魔法学校戦闘部は、言っちゃあなんだけど弱小だ。私がとった学生時代の民間大会優勝とこないだとった全帝ベスト8の成績で獲た全国予選出場枠を後輩部員でたちで何とか繋いだ予選出場枠だ。
この予選である程度の成績を残せないと、うちの部は全帝大会予選出場枠を失うことが多大に考えられる。
本戦出場とはいかなくても、最低でも予選で二回は勝てないと全国予選出場枠を維持できないだろう。
うちのエースは高等部二学年なのでまだ来年もチャンスがあるけど……、出場枠が無くなりもう一度出場枠を得る為の成績を取るには来年じゃあ間に合わない。
故に私は、溜まっていた有給休暇をどかっと使って助っ人を探している。
しっかしこれが難航している……というか無理でしょ。ちょっともう泣きそうなんだけど。
全国予選でもそこそこの成績を残せるような戦闘技量がある若者で。
さらにサウシス魔法学校に編入して戦闘部に所属して予選に出場してくれるような人間……。
い、いねぇ~……。
少なくともサウシスには居ないので旧公都にまで足を伸ばして、そんな奇跡の人員を探しているが見つかるわけもなく。
一応旧公都の学校をこっそり回って部内の出場枠にはギリギリ選ばれなかったけど予選には出たい子を狙ってスカウトしようとしていたけど……余裕で見つかって怒られまくった。
何なら警察呼ばれて捕まりかけた。たまたま現場に駆けつけたお巡りさんが昔から面識のあるダイルさんだったのでゲンコツで見逃してもらえたけど…………まさか二十歳にもなって大人からマジゲンコツで叱られるとは思わなかった。
と、いうことで私は困っている。
一応冒険者ギルドも覗いてみる……いや、そんな才能があって努力の出来るような人間が冒険者になんかなるわけがない。
パパとママの時代ならいざ知らず、この時代に自ら冒険者になりたいなんて変わり者――――。
一人いたわ。
天才的な才能と恵まれた肉体、変態的な努力癖を持った男の子。
でも……うーん。私としては会っても問題ないしむしろ会いたいくらいなんだけど。
多分彼は私に会いたくないんだと思うというか、少し避けているとは思う。実際もう三年近く会っていない。
誰も気にしちゃいないのに……。まあそういう真面目さが彼の変態的な努力癖の裏打ちになるんだろうけど。
「…………お腹すいた」
色々考えていたが、お腹が鳴ったので素直に呟く。
腹が減ってはなんちゃらら。
とりあえず食事にしてから考えよ。
「いらっしゃいませ、ただいま大変混みあっておりますので相席でしたらすぐにご案内できますが如何なさいます?」
「あー、構いませんよ」
適当な飯屋に入ると、店員にそう言われてそのまま返す。お昼時で混雑していた。
「……ご協力ありがとうございます。あ、ではこちらの席へ」
店員さんは一人の客に声をかけて許可をもらったようで、私を席に案内する。
でっかい人だな。背中が広い、椅子が小さく見えるような大男が座っていた。
私はそんな風に思いつつ大男の向かいの席に座ると。
「失礼しま…………え、チャコ⁉」
「ら、ライラちゃん……?」
ひと声かけた相手に驚愕し、思わず名前を言うと相手からも私の名前が返ってくる。
チャコール・ポートマン。
両親同士が旧知の仲で、私も彼と幼なじみである。
ポートマン一家はセブン地域の北の村に住んでいて、私たちバルーン一家は南のサウシスに住んでいるけどチャコのママは長距離の転移魔法を使えるため良く遊んでいたし私たちも旅行がてらよく遊びに行っていた。
彼は冒険者に強く憧れていた。
うちのパパとママやチャコのパパが語る昔話に強く影響を受けたみたいだった。
そこから冒険者を目指して特訓に特訓を重ねて、ひたむきに頑張り続けて十六になる年に旧公都へと出てきたと聞いた。
変わり者の努力家で、二メーター近い大男……というかこの三年近くでまた大きくなったのね。
昔は私と変わらない、可愛くて何をするにも一緒。
まあ彼の初めては大体私が貰ったし、私の初めても大体彼が持っていった程度には仲が良かった。
だから、トラブルが起きた。
「久しぶりじゃん! また大きくなったんじゃない? 元気してたの? あ、店員さん彼と同じものを普通盛りで」
私はチャコに笑顔で問いかけて、さくっと注文を済ます。
「う、うん……まあ健康ではあるかな、ははは。あ、ライラちゃんはどうして旧公都に? サウシスの図書館で働いてるって聞いてたけど。昔から本を読むのが好きだったよね、ライラちゃんにぴったりだ」
しどろもどろにぎこちなく笑顔を作ってチャコは返しつつ、すぐに切り替えて話しを繋ぐ。
やっぱりまだ気にしているか……。
チャコのママや医者のクライスさんに聞いた限りだと、かなり参ってしまって何を食べても戻してしまったり不眠になるほどだったらしい。
でも……なんかそれだけじゃあない?
何で話題を私の情報に対するものへと変えたんだ?
近況報告を避けた……、直近で何かあったのか。