この世界について少々聞いておくれ。
とりあえず。
まあ歴史の話というか、ちょっと前の話だ。
この世界には、ほんの二十年前までスキルやらステータスウインドウやら人を襲う魔物とかいう怪物やら、わけのかわらない超常的なものがあったらしい。
人々は魔物とやらと戦う為に神様だかなんだかに与えられた超人的な力を得られるスキルと、自身の色々な能力を根拠ゼロな謎の数値として把握して、そんなわけのわからんものを軸に生存して生活を行っていた。
……まあ、正直あまりピンとこない。
僕の生まれるちょっと前に起こった【大変革】と呼ばれる原因不明の魔物やらスキルやらステータスウインドウの消失現象により、それらは完全に世界から失われた。
つまり僕はその時代を知らない。
親世代はがっつりスキルを用いて魔物とやらと激闘の日々を送っていたので、当時の話を聞くことはあったし授業でもわりと時間を使って【大変革】がもたらした混乱と、魔力との親和率が上がったことによる魔法革命やらは習ったけど。
多分遠い未来では神話やおとぎ話として語り継がれることになる時代だった。
まあ魔物は本当に脅威で、命の危機が今より身近だったしスキルやらステータスによる差別なども色濃くあった。魔物という脅威を理由に加虐性が容認されていた節があった。
単純に世界は良くなったとする意見は多い。
スキルという超人的な力やステータスウインドウという超常現象を失っても余りあるほど、魔物という脅威が消えたことは世界にとって有益なことだった。
さらに当時は、魔物やらにこの星の魔力を吸われていて今より人々は魔法が上手く使えなかったけど星の魔力を取り戻したことで魔法学やら魔道具研究が飛躍的に伸びて生活水準は向上したし。
まあそれでもスキル至上主義社会だったことを忘れられない大人たちもいたりして、なんかまだまだ二十余年程度では解決できない軋轢のようなものがあるけど。
それでも世界は良くなった……と、
いや、なんか含みのある言い方をしてしまっているけど僕は別に今の世の中に対して大きな不満はない。【大変革】の後に生まれ育った僕がスキル至上主義なわけもないし、両親も元々そういった思想を持っていなかった。
でも…………、不謹慎なのはわかっているけど。
僕は、そんなかつての世界。
凶悪な魔物に超人的なスキルを用いて戦いの日々と冒険に明け暮れる生活に、憧れを持ってしまう。
かつての世界を、面白そうなものだと思ってしまう。
今の世界が酷く、つまらないものだと感じてしまうのだ。
こんなものは相対的なものでしかなくて、実際昔は昔で文字通りの死活問題で必死だった現実を非現実のように憧れてしまうのは馬鹿なことだとわかっているけれども。
それでも……。
僕はこのつまらない世界で、最もつまらない仕事である冒険者ギルドの職員をしながら。
そんなことを、考えてしまうのさ。