あの日から、毎日のようにアンリさんが昼飯をたかりに来るようになっちまったよ。私じゃなくて勇者パーティと飯食えよ!
「え~、馬鹿王子の顔見ておいしいご飯食べられると思うの~」
はあ。それ言われると仕方がないね。ほれ、バッファローの
「やった~!」
まあ、そんなこんなで、ランチたかられてるんだよ。ま、近況を教えてくれるからいいとするか。
カール王子とウーリとケールは相変わらず私の悪評を流している。
アンリとキール王子は私を擁護。エリーヌ様もキール王子に感化されて擁護派になったよ。
イリーナ様とクールは中立? 我関せず?
勇者パーティの中で分かれてしまってるよ! 追放だけでいいのに! がんばれウーリにカール王子!
私の発明品は量産されたらしい。売れるたびに私の貯金が増えていく。でも何だね、なんで誰も魔力を充填できないの? 魔力入れてって魔道具集まってくるんだけど! 最近は一気に入れる方法見つけたから、一日十分ぐらいで済むようになったんだけど。ちょっと狩りに行くとたまるのよね。
まあ、発明も学園側が協力を惜しまないから、やりたい放題出来るようになったし、たまに勇者パーティに気合入れに行くと順調に育ってんのが分かるし。
もともと原作ゲーム好きだったからさ、みんなが原作に近い成長するのが嬉しいよ。イベントもちゃんとこなしているね。陰から見せてもらっているよ。うん。イリーナ様お綺麗。エリーヌ様かわいい! 眼福だね。
野郎どももたくましくなって! 見た目は最高! 顔も最高! 中身も成長しろよ!
魔道具さ、私作ってんのみんな知らないのかな? 感謝されるどころか私の評判落ちまくっているよ。やったね。
先生方、私の事隠してくれているんだよ。名前出ないようにしてね。良かったよ。おかげでヘイト溜まりまくっているよ。この間なんか、見知らぬ生徒から石投げられたんだよ。打ち返してやったけど。いいよ、陰口の最高ね。
「何であんな女がカール王子の婚約者なのかしら?」
「ミニコカトリスの首を持って嗤っていたらしいですわ」
「あの方、部屋に籠って怪しいもの作ってらしゃっるって噂よ」
「悪魔でも呼び出しているのかしら」
いいぞいいぞ、もっと言って!
アンリ、あんたがどれだけ頑張っても、私の悪評は止まらないよ!
◇
そして迎えた卒業式。
勇者パーティのみんながステージでお披露目されているよ。
神父様が神のお言葉をみんなに告げ、王様から直々に勇者として任命された。
明日から頑張れよ。キャンプの仕方忘れてないよね。基礎はみっちり私が叩き込んだんだ。自信もってやりな。
おっと、先生の気分になっちまったよ。でもさ、せっかく育ったんだ。たとえ性格悪いウーリでも、死なないで頑張って欲しいよ。
アンリさん、こっち睨みつけない! 私は勇者に任命されていないのよ! 一緒には行けないの! 行けたとしても行く気ないから!
卒業生代表の挨拶はイリーナ様がおこなった。入園式の時は私だったから、シナリオがおかしくなったのよね。
今回は私は試験免除で受けていないから、成績1位はイリーナ様。私が代表にならなくてよかったよ。
ここでは事件は起きないはずだし、卒業イベントを存分に味わいましょう。
アンリさんがカール王子に肩を抱き寄せられた! その顔やめなアンリ。嫌なの分かるけどさあ、ちょっとだけ流れるアニメーションでは、シルエットだけど照れまくって嬉しそうなのが良く分かるヒロインと、二枚目の王子の組み合わせが素敵だったんだからさ。思い出壊さないで!
卒業式は堪能できた。さて、次こそ今日のメインイベント。卒業パーティーだよ。
◇
卒業パーティ、一応私は婚約している身だから、王子が迎えに来てエスコートされる予定……。なんだけどカール王子が来るわけないよね。
リリア、ゲームでは王子の婚約者ですらなかったから、誰からも誘われず、一人で壁の花しているのよね。
今日は私にとって大事な日だから、ドレスは黒でまとめたわ。黒髪の魔女にふさわしいわね。悪役令嬢っぽいでしょ。
さ、敵陣へ向かおうか。
◇
賑やかなパーティー会場に、バタンと大きな音を立てて入っていったよ。
一瞬鎮まった会場に、ざわざわと私への悪口が広がる。
いいのか? 私はミスリル大公の義理の娘。現王の義理の妹だよ。向こうに王も大公もいるんだがね。じゃあ始めようか。悪役令嬢を。
バシャッ
私は片手で持ったグラスの中身を、悪口を言っていたご令嬢たちに向けて水平にぶちまけた。
「「「キャー」」」
よい具合に悲鳴が上がってるね。私は「おーほほほ」とわざとらしい高笑いをした。
「どの方がわたくしの悪口をおっしゃっているのかしら? あなたどなた? 見たことがないから子爵? 男爵? おかしいわね。わたくし大公の娘なのですけど。身分差ってご存じかしら? なめた口聞いてんじゃねーぞ、格下がぁ!」
もう一度高笑いをしたわ。おーほほほほほ。
「そこまでだ、リリア!」
おっ、真打登場! カール王子頑張れ!
「今までは学園の生徒として扱ってきたが、もはやその枷は外れた。リリア・ミスリル。皇太子の権限で、お前との婚約は破棄する! お前は我々勇者に対し、悪業三昧を尽くした。まさに悪魔のごとき所業。その罪により、お前は国外追放だ! 俺は、ここにいるあああああああと真実の愛に生きる!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ―――――――」
「照れるなあああああああ」
「本気でいやだ〜! アンリって呼べー!」
アンリさん、面白いけど今大事なの私の追放よね。止めるよ。
「あら、そんな平民と結婚? 頭おかしくなったのかしら。大体、わたくしをここに留めたいのはお義父様ですわ。貴方ごときがわたくしを追放できるのかしら。追放理由お聞かせ願えませんこと?」
ちゃんと言えよカール王子! 義父様を説得するんだ!
「出会いから酷かった。お前はミニコカトリスのクビを
何回もやったし、見せたよね。原理も教えたよね。そういうものだからさ。誰がやってもそうなるのよ。
「それに、何度も何度も俺達を切りつけ顔面を叩き続けた! 何度も何度も死ぬような思いをさせやがって! 人間ではできない! お前は人間じゃねえ!」
単なる訓練じゃん。 いいじゃん、怪我がすぐ治る闘技場でやったんだから。
「その程度のこと、大したことございませんわ。おかげで強くなりましたでしょう」
うわっ、周りの卒業生ドン引きしてる。いいぞ! 王子! やれやれ!
「ああ、強くなれた。一人では無理でも、八人いればお前を倒せるほどに!」
えっ! 無理無理! あんた達まだまだよ! 勘違いすると大怪我するよ!
「カール、その程度の事でこの娘を他国へやるわけにはいかない。敵に回すな、飼い殺せ」
お義父様! ひっでーなー! 飼い殺しですか!
「まだあります! こいつは、そう、こいつは聖剣でなく妖刀を引き抜きました! 魔族しか抜くことができないと言われている妖刀を抜いたのです!」
お、空気が変わった。上出来だよカール王子。
「黒髪、黒目。この子魔族なのよ!」
「そんな事ない! ウーリさん、リリアさんは素敵な人なのよ!」
アンリさん。無駄よ。私は逃げさせて貰うよ。
私はカバンから妖刀袖の雪を出して、鞘から抜いた。
妖しげに光るように、光魔法をかけたら、刀身から思った以上の眩しすぎる光があふれた。
やりすぎた〜! あ、でもいいのか? いいみたい! みんな引きまくってるよ。結果オーライだね。
ガッシャン
窓ガラスが割れ、四つ叉フォークを持った悪魔が入ってきた。
「ふはははは。愚かな人間どもよ。我が主リリア様を返してもらおう」
「魔物だ! 行くぞみんな」
その時、会場に神の声が響いた。
「やっと入園式シナリオが出来る」
は? 今何つった? 神様。
「オボン。皆のものよく聞け。魔王がついに完全復活した。魔王に対抗するために八人の勇者よ。これより、我が力の一部を祝福として授ける。
第一王子 カール・ダイヤルビー。
「よっしゃ」
第二王子 キール・ダイヤルビー。
「はい」
宰相子息 クール・イエローブック。
「謹んでお受けいたします」
騎士団長子息 ケール・ブラウンホース。
「おう!」
公爵令嬢 イリーナ・ホワイトローズ。
「かしこまりました」
侯爵令嬢 ウーリ・ゴールドラッシュ。
「これよ! これが欲しかったのよ」
子爵令嬢 エリーヌ・グリーンフィールド。
「はっ、はい」
平民 あああああああ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――」
アンリさん! そんな露骨に! 気持ちは痛いほど分かるわ。
しかしやべーな。あの悪魔、仮装したメイリだよ。私達が鍛えた勇者が祝福貰ったら、どれだけ強くなるの? しかも4対1だし。
「お前たちやるぞ!」
「魔物を倒すんだ!」
「みなさま、いまこそ勇者にバフをかけるのよ」
「「「バフ!!!」」」「デバフ!」
え? アンリさん? 今デバフかけてない? かけたよね!
「魔物に向かってデバフよ!
「「「デバフ!!!」」」「ッバフ!」
小さいッを入れて誤魔化してもダメ! ってそれどころじゃない! メイリがヤバい!
と思ったけど杞憂だったわ。王子たち秒で倒されたよ。え~い、鍛え直せお前ら!
メイリが私に近づいて膝まづく。勇者があれだけやられたんだ。誰も手出しできないよね。
メイリは私に鳥かごを渡した。え? 予定にないよ。あ、あれやれってか?
私はミニコカの首を刎ねて会場を走らせた。
「「「きゃ―――――――――!!!!!!!」」」
駆け回る首なしミニコカトリス。
すまんミニコカ。ちゃんと回収して美味しく食べるから! 成仏しろよ。
パニックに陥り、ミニコカから逃げ惑う人々。これだけやれば十分よね。じゃ行こうか。
「逃がすな! リリアを野に放してはいかん!」
私はコカトリスか! 向ってくる兵士たちに大きな水球を魔法でぶつけた。
「こ、攻撃魔法。魔族だ!」
誰も私達には近づかない。ミニコカを回収した私はメイリの手を取り、優雅に会場を後にした。
外に出た私は、誰も聞いていない空に向かって、大声で叫んだ。言わずにはいられなかったんだよ。
ごめん。あれだけの料理を無駄にして! 農家の皆さん、料理人の皆さん、食材になった動植物たち。本当にごめんね―――――――――!
隣でメイリも祈りを捧げていたよ。うん、いい子に育った。二人で祈ろうね。
さあ、次で最終回だ。予想外の展開だらけ、楽しみにしてろよ!