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第25話 子守は続くよどこまでも

 勇者パーティ、海辺の町において来てとっとと帰ったよ。イベントは全てクリアしたからね。あとは海で遊ぼうが、ダンジョンで鍛えようが自由にしなよ。


 と思っていたら数ヶ月後に怒られた。なぜだ?


「リリア。お主が聖剣引き抜いたとキールから聞いたのだが」


 お義父様にバレた! キール黙ってろと言ったはずだが!


「やはりか。カールが聖剣を上手く使えなくて悩んでいる。何とかしてやってくれ。儂としてはお前が勇者パーティに入ってもらうのが最適だと思うのだよ」


 え~! やだに決まってるじゃん!


「お義父様。わたくしは神に認められておりませんのよ」


 神様、ありがとう! ゲームシナリオ通りに運んでくれて! あ、NPC扱いで毎回付いて行くパターンもあったっけ。でもあれ難易度が一番やさしいヤツだけよね。普通でもないよ! 過保護だよ! だいたい私が強すぎて、ゲームバランスって何? ってなるのよね。恋愛脳しかないプレーヤーが使うやつ。でも隠しキャラ出てこないし評判よくないのよね。


「勇者パーティに入れというのではない。ついて行ってサポートするだけだ」


 それ、私に何のメリットが?


「日当は弾むぞ」


 嫌だよ! 私は研究がしたいんだ!


「わたくし、先生たちからもの凄く期待されていますのよ。もうじき先生たちから重大発表があるのご存じですよね」


 何か分かんないけど、私の作ったライターについて、先生たちがなんか発表するらしいのよね。我が校の期待の星だ! とか言われているし。

 ま、私としては魔道具作るの怒られないからありがたいんだけど。あんな程度のものでなんで大事おおごとになるんだろう。


「しかしな。魔王の復活も一大事だ」


 まあそうなんだけどね。


「ならば、カール王子が聖剣を使いこなせるように叩き込みます! それで手を打ってくださいませ」


 わたしが付いていかないために頑張るよ。


「……。そうか。ではやってみなさい。結果をみて決めようではないか」


 また訓練に逆戻りか。ま、やつが使えるようになればいいだけだ。頑張らせて仕込んでやろうか!



 取り合えず、問題の拾い上げだね。問題点聞いてみるか。


「魔物に効かないんだ」


 ふむ。どういうことだ?


「全然斬れない」

「どれ、聖剣見せてみろ」


 私は聖剣を手に取った。ああ。そういうことね。


「分かるのか?」

「ああ。お前らがいつも使っている剣は、週一回私が研いでいるんだ。そろそろ切れ味悪くなったんじゃないか? 聖剣は出さなかったろう? だから信用していたんだが、こいつは研ぎがなってない。両刃の剣だが、片方は叩きのめすようにそのままにしておいてだな、もう片方は切れるように研いだ方がいいな。2~3日貸しな。使えるようにしてやるよ」


 妖刀袖の雪が完璧に研がれていたから失念していたよ。聖剣、対鎧用だったね! それじゃ切れ味悪いわけだ。魔物相手には切れ味が必要だよね。


 私は一心に聖剣を研いだよ。魔物は切らないとな。刃紋出ないからつまんねえな、西洋刀。切れ味だけに特化するか。

 上出来だろう。これでやってみな。


 私は闘技場に、王子とゴブリンをぶち込んだ。


「切れる! やれる! 俺は勇者だ!」


 よかったよ。ゴブリン相手に一歩も引かない。やりゃあできるじゃん。最初はどうかと思ったが、強くなったなカール王子。先生は嬉しいよ。子育て終了でいいよね。


 勇者パーティは、どんどん強くなっていった。カール王子をリーダーとして様々なダンジョンを攻略。防具、武器、アイテムを増やしながら、どんどん強くなった。レベルも上がっていった。村一つ救ったこともある。いいぞ、イベント回収してるぞ!


 私はといえば、研究と勇者たちの剣を研ぐのに忙しかった。私の研究は学園のプロジェクトとして発表されたんだよ。世の中がひっくり返るほどの発見と発明らしい。大げさだな。褒め殺しか?

 まあ、面倒くさいことは先生方に丸投げだ! なんか知らないけど、先生方からギルドカードに毎月大量の振り込みがあるんだけど? ま、くれるものはもらっておこう。え? 魔道具に魔力入れて欲しい? いいけど、自分でやったらいいのに。


 剣を研いで、魔力を補充して、研究して、素材集めに狩りに行って。うん、充実しているよ。私の学園生活。あっ、ご褒美に畑も作らせてもらったよ。メイリが嬉しそうに管理してくれている。うん。メイリも立派に育ったね!



「お蕎麦~。お蕎麦食べさせて~」


 おい! アンリさん。私はあなたのお抱えコックじゃないんですよ。


「魚醤作り、失敗したんだもん」


 だろうね。最初から上手く行くわけないじゃん。


「お蕎麦くれたら、情報あげるから~」


 あ~、うっとうしい! そうだ。これ食べさせよう!


「アンリさん。今日は特別ですよ。でも蕎麦ではないです。気に入るといいのですが。今日のメニューは、ひっぱり太麺パスタです」


 大豆があったからさ、茹でて麦わらに包んだのよ。出来たよ、納豆! あ~米! 米さえあれば! でもね、いいんだ。ひっぱりうどんって知っている? これよ!


ひきずり(ひっぱり)うどん

https://www.tamayaseimen.co.jp/wp/archives/384


 鍋から直接引っ張り上げて食べるうどん。鯖缶と納豆があれば食べられるわ。お手軽レシピ。それがひっぱりうどん!


 鯖缶はさすがにないから、青魚の水煮でいいよね。納豆と魚醬、ネギも入れてやりましょうか。ゆで汁で少し溶いて召し上がれ。


「納豆? うどん! なんで?」


「納豆? うどん? なんですかそれは? ここにあるのは豆の発酵食品と太めのパスタ、それにお魚ですけど?」


 そりゃね、乙女ゲームで納豆出てきたら驚くよね。


「いらないのでしたら、別にいいのですが。今日はこれしかありませんのよ」


 クッキングヒーターの上で、コポコポと沸騰している鍋の中で茹であがっているうどん。目の前には納豆と青魚の入ったつけだれ。

 納豆嫌いじゃなかったらこの異世界でこの誘惑を逃れる事なんてできないでしょう?

 私は、アンリのつけダレを回収するふりをした。


「下さい! お願いです! 食べさせてください!」


 そう言ってうどんを食べ始めた。


「おいしい! おいしいよぉ」


 よかったね。私も食べるか。


 ずるずるずると、納豆まみれのうどんをすする音と、しずかにすすり泣く声だけが響く。


 うん。シュールな絵面だね。



「リリアさん、乙女ゲームって知ってますか?」


 あ、王道展開始まったよ。定番のやつだ。


「乙女ゲーム? ですか?」


 うん。ここは王道に知らない振りがいいよね。


「私、他の世界から転生したの。信じてもらえないかもしれないけど、私22歳で独身の女性だったのよ」


 あ、ネカマじゃなかったんだ。よかったよ。


「その世界ではまっていたゲームがあってね。それがこの世界にそっくりなの。やり込んだわ。設定集も読んでたの。それから二次制作の小説や漫画も読んでいたわ。サクラリンゴっていう先生の二次小説は最高だったの。あれではまったようなものよ」


 あ、読者さん発見! サクラリンゴは私のペンネーム。ネットで上げていたやつ読んでたんだ! びっくりだね。本名が桜凛だからさ、一文字足しただけの安直なペンネームだったのよ。


「その国、日本っていう国で出てくる料理がうどん、そば、納豆、醤油。みんなあなただけが作れる料理なの。この国で他では見たことがないわ。あなたも転生者なんでしょ! 絶対そうよ!」


 う~ん。貴重な読者様だし、どうしよう。カミングアウトしてくれたしな。こっちもするのが礼儀か? しかしだねえ。どうしよ。


「ちなみに、そのゲームとやらはどのように進行しますの? それになんであなたは『あああああああ』なんて名前だったの? ゲームだったらそんな名前になるの?」


 もうちょっと情報仕入れてからにしよう。あああああああって名前も気になるし。


「そのゲームでは私がヒロイン役なの。名前も自由に決められるんだけど、私の場合は、突然の発作、心筋梗塞か脳梗塞か知らないけれど、名前を入れようとしたらキーボードのAを押したまま倒れたのよ。だからAが乱打されたの。そのままここへ転生したから、名前があああああああになってしまったの。事故なのよ!」


 そうなんだ。それは大変だったね。


「知っているんでしょ、これからの展開。あなたは冤罪をかけられて卒業パーティーに追放される。そして私達の敵になるのよ。魔族の四天王として」


「そうね。私の知っているゲームと同じね。LOVEパワー~愛の力で魔王を倒せ~よ」

「やっぱり!」


 私はアンリを正面から見つめた。


「私の前世の名前は桜凛よ。農業高校2年生だった」

「え? 年下?」


「それから、小説も書いていたわ。『はかなさの代償』。覚えているわ。こんな話よ。暗唱しようか。


――――――


「リリアお嬢様が池に落ちましたわ!」


 メイドのメリーが大声で叫んだ。叫んだところでリリアには何の役にも立たなかった。大きな池の中ではつかまるものが何もない。

 リリアの同い年の義姉あねウーリから「相談があるの。裏庭に一人で来て」って呼び出されて池の前までいったのはついさっき。池についたらガタイのいい薄汚い男がいた。ウーリが男に「よろしくね」って言ったら、男は、リリアを捕まえて池にぽ~んと投げ入れた。


「あはは、いいざまね」


 そう言うとウーリは男に

 「さあ、私を抱えて走るのよ。門の前で私を下ろしたら捕まらないように逃げて。あとは私とお母様で上手くやるから」

 そう言って男と一緒にいなくなった。メイドのメリーがリリアを見つけて叫んだのはその直後。「もうだめだわ」とリリアは意識を手放した。


――――――


 私が、何度も推敲を重ねた文章だ。覚えているんだよ。私の代表作。


「さくら、りん? サクラリンゴ! え? あなたがサクラリンゴ先生⁉」


 そうだよ。ようこそ読者様!


「え、神! 神がいる!」


 まあ落ち着け。今後の相談をするぞ。


「落ち着こうか。まあ、玉こん食べて落ち着きな」


 玉こんにゃく作る時は、スルメで出汁取るんだよ。そのためにイカ干したんだからね。


「おいしい。日本の味だ」


 黙らせるには飯が一番だね。


「まあそうね。今後の展開で言えば、ウーリとカール王子を中心に、私の悪口が広がっていくでしょうね。黒髪の悪魔、とか、どれだけひどい訓練させられたとか。ミニコカの首を刎ねて走らせたとか? あれ? だいたい真実?」


「他にもあるわよ! 先生の腹に穴を開けたとか、王子の顔面容赦なくシャベルで潰したとか、わざとバーベキューさせて、魔物だらけにして取り囲まれたとか」


 え? 全部本当の事だね。黒髪は微妙だけど。


「あんた何やってんのよ! このままじゃ追放よ!」


 あっ、年下だと知った瞬間ため口になってる!


「いいのよ。私は追放されたいんだから」

「え?」


「だって私、どこ行ったって生きていけると思うし、王子の婚約者なんてなりたくないし、貴族より冒険者の方が似合っていると思わない? カール王子はあなたに任せるわ、アンリさん」


「私だって嫌よ! あのバカ王子の相手なんて!」


「ちなみにどのキャラ推しだったの?」

「キール王子よ」


「ショタか!」

「ショタ言うな! オレオレ苦手なのよ!」


 あ~、そりゃ最悪だね。


「私はあなたにいなくなられると困るのよ! 和食作れるのあなただけだし、王子の相手したくないし。ねえ。追放されないように頑張ろうよ」


「やだよ。追放されたいの! そして自由を手に入れるんだ!」

「じゃあ、私も連れて行ってよ!」


 えっ? めんどい!


「ちょっと! そんな事になったらゲームバランス崩れるでしょう! あなた達は勇者パーティなんだから」

「バカ王子の相手なんかしたくないのよ〜!」


 そこから、ぐちぐちぐちぐちアンリさんの愚痴を聞くはめになった。大変だね、王子の相手すんの。人の話聞かねえからな。分かるよ。頑張れ。この王国の未来は君たち勇者パーティにかかっているんだ!


 そうね、出汁取った後のスルメ食べる? おいしいよ。

 これでごまかされてくれないかな? お、泣きながら食べ始めたよ。


 とにかく、転生とかゲームって話は他の人にはばれないようにって約束だけはできたよ。さて、どうしようかねえ。悩み事が増えちまった。

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