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第23話 海だ! 冷たい肉そばだ!

 メイリと仲良く寝たか? って?

 あほか! 二人しかいないんだぞ。不寝番ねずのばん代わり代わりにするしかないだろ! 大体、勇者パーティ見守ってやんなきゃあぶねえじゃないか!

 私にゃ休息などねえんだ!


 大体よう、あいつら段取り悪いわ! お嬢さんたちのお花摘みの意味も分からず、ついて行こうとしたりさ、そんな暇あるならテント張れよ! あ、あっちの意味じゃなくてね、物理的にさ! 火おこしだってへったくそでさ、マッチ無くなりそうだったよ! ライター売りつけてやろうかと思ったよ、本当にさ! 学園長から止められてなかったら売っていたね。まあ、ここはイベントとして止め絵が出てくるお泊りキャンプイベントなんだから、頑張れよお前ら!


 あ~、女子の残念感が伝わってくるよ。とりあえず、ごはん食べられる? まあ一食や二食抜いても生きていけるよ。

 私? 私の飯は完璧さ! この暑い日に食べるために仕込んでおいたさ! そう! 河北町名物、冷たいつったい肉蕎麦! 知らない? 冷たい肉蕎麦。最○川司様が歌ってPRしてるじゃん!


 え? 最上○司様を知らない? ワールドツアーをこなす世界的ビジュアルバンドのドラマーが、全力で演歌を歌うために顕現したのが○上川司様なのよ! 農高の同級生にファンがいたから、それはもう布教しまくってたね。ビジュアル系演歌歌手。それが最上川○様なのよ! とりあえず、冷たい肉蕎麦と○上川司様を知りたかったらここ見な! 絶対見なよ! 

 最上○司「司の冷たい肉そば音頭」(ショート)

 https://www.youtube.com/watch?v=gg1DtWDaJAA


 デビュー曲は『まつぽいよ』だよ! これも見とけ! https://www.youtube.com/watch?v=MDcehWHRyho


 え? 異世界に蕎麦があるのかだって? 蕎麦は寒冷地でも取れる雑穀よ! ガレットとか昔からヨーロッパでも親しまれているわ。


 冷たい肉蕎麦はね、親鳥でだしを取って、親鳥の肉を乗せた親鳥押しの蕎麦。若鳥じゃダメなのよ! だから今回はミニコカじゃなくコカトリスでだしを取って、コカトリスの肉を並べたわ! あ~、魚醤じゃなくて醤油が欲しい! でもおいしい!




 メイリも箸使うの上手くなったよ。ずるずるずると音立ててすすっているよ。やっぱり蕎麦はこうでなくっちゃね。


 なんで蕎麦かって? 野営で肉焼くとどうなるか、勇者パーティの皆様にはぜひ体験して頂きましょう。


 ◇


 ああ、いい匂いが広がってきた。あああああああちゃんがいい仕事してるね。バーベキュー始まったよ。今のうちに食べとけよ。すぐにそれどころじゃなくなるから。


 いい匂いって、人を引き付けるのよね。いいえ、人だけじゃないわ。動物もよ。

 血の匂いがすれば肉食動物が集まるじゃない。その比じゃないよ、肉を焼く匂いは。


 ほれ、肉食獣が来たぞ。あれは狐か? 難易度低いから頑張れ!


 倒しても倒しても次々来るぞ! 狩った獲物を離れた所においておけば、そこである程度の動物は満足して帰るんだが、気がつくのかね? まず匂いを止めないと!


 まあ、いい訓練だ。何事も体験だね。本気でヤバくなったら手貸してやるよ。

 こそっとステーキナイフを投げたりしながら、ヤツらが死なないように手助けしたよ。いい人だろう、私。メイリ、先寝な。あとで交代するよ。


 ◇


「さあ、よく寝れたか? 火事を出さないように薪の跡に残った消し炭は全て土に埋めておけ。頑張れば昼頃には海に着くぞ。ぐずぐずして町まで着かなかったらもう一晩野営だ!」


 ぶつくさ言ってたけど、もう一晩野営したくないのか動き始めたよ。それでいいんだよ。自分の身は自分で守らなきゃね。そうそう。いらない荷物は置いて行くのがいいってやっと分かった? 喋るのもできそうもないね。まあ、今日魔物出たら私とメイリで倒してやるか。


 ◇


 なんとか海辺の町までたどり着いたよ。ここにはクールの実家の別荘があるから、しばらくそこでお世話になることになっているんだ。出迎えた使用人がボロボロの勇者パーティを見て慌てているよ。


「リリア・ミスリル大公令嬢です。皆さまお疲れのようですので、ごはんよりもベッドを用意してさしあげて。私とこの子メイリには、軽い食事を頂けると嬉しいですわ」


 寝とけ寝とけ。飯食う気力もないんだろう。こいつら今日はなにもできねーな。後でメイリと街を回るか。いい魚があれば買いましょう。


 ◇


 一晩寝たら復活したねこいつら。さあ、今日はお楽しみの海水浴イベントだ! ここでイチャイチャしながら親愛度上げたまえ。私? メイリとサポートにまわるよ。


 海といえば海の家! こっちにそんなものないからね。とりあえず焼きそばくらい焼いてやるか。


 焼きそばの麺は蕎麦じゃないよ。中華麺だよ。かん水無いから重曹でなんちゃって中華麺は作ってある。味付けはソースじゃなくて、魚醤でいいよね。大判振る舞いだよ。クッキングヒーター作っておいてよかったよ。鰹節作る技術が欲しい。おっ、匂いにつられてやって来たね。


 イリーナ様! 素敵です。ビキニがセクシーです! クール様と並ぶと美男美女で良い雰囲気じゃないですか! ここは心配ないね。


 ウーリとケールは……。うんバカップル。これはこれでほっとけばいいか。そうしましょう。


 エリーヌ様かわいい! キール王子を見る目が恋する乙女? いいよ。かわいいは正義だ!


 あああああああちゃんとカール王子は………………。見なかったことにしよう。


「昨日までよく頑張りました。今日は思いっきり楽しんでいる様ですね。これは、頑張った皆さまへ、私からのプレゼントです。食べたことないでしょう? おいしいですわよ」


 大丈夫だ。食べ物に毒なんか入れねえよ。農家に失礼だろう! そんなことしなくたっていつでもヤレるよ、ウーリさん。


「「「おいしい!」」」

「焼きそば⁈ なんで? 醤油」


 あ、やっぱり転生者だ。日本人だね!


「醤油、どこで買ったの⁈」


 あああああああちゃん、食いついてきた!


「醤油? なんですのそれ?」


 すっとぼけよう。そうしよう。


「これよ! この味! 醤油よね! それにこの麵! ラーメンの麺よね!」


「醤油? ラーメン? なんでしょうか? この麺はパスタですよ。パスタを作る時に重曹を混ぜるとこんな感じになりますの。茹でる時にお湯に重曹を入れてもできますわよ」


「そうなの?」


「そうです。こんどおやりになったらよいですわ。それから味付けは魚醤です。魚と塩で作った調味料ですわ」


「魚醤?」


「魚醤です。古くからある調味料らしいですよ。手に入らないのでわたくし自作しましたの。貴重なのであまり人様には出さないのですが、今日はみなさまへの特別なプレゼントとして使ったのですわ。味わって召し上がれ」


 あああああああちゃん、泣きながら食べているよ。日本食恋しいよね。分かるよ、うん。


「どうした、あああああああ。泣くほど口に合わないのか! 嫌だったら俺が代わりに食ってやるぞ!」


「バカ王子! あああああああって呼ぶな! アンリだ」


 あ、あああああああちゃんキレたよ。TSじゃないのか? まあ、焼きそば取られそうになったらキレるよね。後でこそっとソース味も差し入れしてやろう。


「そうですわ。カール王子。わたくしたち女子はアンリと呼ぶことにいたしましたのよ。男性の皆様も、アンリと呼んで差し上げては?」


 イリーナ様が進言したよ。そうなんだ。女子はそういうとこいいよね。


「だが、アンリはこいつ、このにっくきリリアが付けた名前だぞ! こんな奴の名づけより、本名のあああああああを名乗る方がいいではないか。なあ、あああああああ」


 えっ? 私への当てつけ⁈ そんなことだけ?


「自信を持て、あああああああ。慣れてきたらそんなに変じゃないぞ、あああああああ」


 変だと思っていたんだ! ダメじゃん!


「兄さん、アンリでいいのでは? 本人気に入っているみたいだし」


 おっ、キール王子ポイントUPだね。


「いや、俺もあああああああと呼ぼう。カール王子の言うとおりだ! リリアの命名など却下だ!」


 ケール。お前もか。あ、ウーリがうなづいているよ。嫌われてるもんね、私。


「クール様はどう思いますの?」


 お、イリーナ様がクールに詰め寄った。どうするクール。


「私か? 私はどちらでも……。まあ、そうだな。アンリと呼ぶか」


 ひよった! 王子より女を取ったか! いいぞ、やれやれ!


「クール! 裏切ったな」

「名前など、どうでもいいではありませんか」


「いいや、良くない! リリアの名づけだぞ」

「でしたら王子がお付けになったらいかがですか?」

「そうか! よし、俺が付けよう。そうだな……。俺の名を与えよう。アカルでどうだ!」


「いやあぁぁぁぁぁぁ。アンリがいい! アンリと呼んでください!」

「嫌なら本名で呼ぶ。せっかく付けてやったのに、失礼なヤツめ!」


 せっかくの海イベントが台無しだよ! どうしてくれるんだバカ王子!


「カール、ケール、お前ら二人メイリと特別訓練を行え。メイリ、殺さないようにな」


 私は冷たく静かな声で告げたよ。メイリ、やっておいで。


「かしこまりました。本気でやってまいります」


「ウーリ、あんたも行くか?」


 ブンブンブンと首を横に振ったよ。行って手当てしてやれよ。


 三人を追放して、私は明るく言ったよ。


「さ、ごみクズはいなくなったし、楽しんできなさい。アンリさんはパートナーがいなくなったから、ここにいてもいいですよ」


 四人は逃げるように海に行ったよ。いいね青春だね。まあ、二人きりになればいい雰囲気になるでしょう。頑張れ、キール王子とクール。王国の未来はあなた達にかかっているんだからね。


 さてと。アンリちゃんはどうしようか。まあ、身バレはしたくないけど、日本食出してやるか。


 私は冷たい肉蕎麦を用意しながら言った。


「雑穀の蕎麦を使ってパスタが出来ないか研究していますの。試食してみません?」


 箸は出さないよ! 一発でばれるからね。フォークで食べてね。雰囲気ないけど。


「お蕎麦! なんで⁈ お蕎麦だ~!」


 やっぱり日本人だね。蕎麦おいしいよね。


「召し上がれ」

「あ、ありがとうございます! いただきます」


 確定。いただきますの時合掌したよ。


「なつかしい。おいしいよ~」

「なつかしい? 私が作ったんだけど、どこかで食べたことがあるの?」


 わざとらしいかな? でもこのくらい言わないと身バレしそうよね。


「え? あ、あの、平民の……いや、母のおじいさんが昔作ってくれたんだけど、おじいさん亡くなって作り方が分からなくなった料理なんです」


 アドリブ力高いね。やるじゃん。


「そう。平民には魚醤が出回っているのかしら。蕎麦のパスタも」


「え? おじいさんは旅人だったから……。どこかで手に入れたみたいです。魚醤、分けていただけませんか?」

「残念だけど、私もあまり持っていないの。ごめんなさい」


 いっぱい作ってるけどね。出回ると面倒じゃん。


「そうですか」

「レシピ書いてあげるわ。欲しかったら自分で作ってみて」


 あれ、大変だからね。上手くいけばいいけど。


「本当ですか! ありがとうございます!」


 あ、やる気になったね。頑張ってね。


 このくらい気分上げたらもういいでしょう。遊んでおいで。


「じゃあ、私は片付けてから訓練に参加してくるよ」

「あ、片付け手伝います」


 おや、気が利くね。やっぱり女性? 気の利くネカマ? どっちだろう。確かめたいけどどうしよう。まあ今日はそこまで突っ込まない方がよさそうだね。情報多すぎだよ。

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