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第12話 それはあんまりじゃない?

 さて、午後の体力測定の始まりだよ。私だけ真っ赤なドレスを着ている。他の生徒は騎士服とか乗馬用の服。平民は動きやすい格好ね。

「場違いにもほどがあるんじゃないでしょうか?」って執事とメイド長に言ったんだけど、「「お嬢様にはフルセットの鎧を着せてもまだハンデです」」と声を揃えて言われたよ。でも目立ってしょうがないね。恥ずかしいったらありゃしねーよ。


 大体この体力測定で私、悪役令嬢のレッテルを張られるのよね。ヒロインちゃんの名前にいちゃもんつけるの。


 「○○? そんな名前、あなたには似合ないわ。犬か豚とでも名乗ればいいわ」


 とか言うんだよね。あ、○○なのはヒロインちゃんが名前を自由に決められるから。何が来るか分からないのよ。


 その後泣きながら、「豚は酷いです」って言うと、王子が「○○、すてきな名前だ。君にぴったりだよ」ってフォローするのよね。そこからメインキャラたちが私を非難し始めるの。もう集中攻撃! 正義ぶった正論は面倒よね。


 つまり、このセリフ言わずに絡もうとしなければいいのね。わざわざ目立つこともしたくないしね。


 時間が来たよ。最初は走ったり飛んだりした普通の体力測定。男子と女子とで分かれて測定だ。

 ドレスだけど負けはしない。負けはしないけど、重いし動きづらいよ。


 まあ、実力の二割もださなくても余裕でしょ。まんまとメイド長の策にハメられた気はするけど、まあいいや。


「大したことありませんですわね。クスクス」


 王子の取り巻きが話しているよ。


 朝、ドレスで来たから目立っていたけどさ、取り巻きと一緒に悪評流していたんだよね王子、知ってるよ。

 休憩時間の間ひそひそひそひそ嫌がらせみたいな陰口、聞こえるように言われていたんだかよね!

 今だって、「王族の方は素晴らしい! 偽王族ではああはいきませんわよね」とか言わせているんだよね。ああ、義姉のウーリ混ざっているよ。


 いいけどさ、こっちは侯爵出だぞ! 今は大公の養女!

 子爵や男爵のお嬢さん、一緒になって悪口言っててもいいけど、立場分かっているの?



 最後は魔力検査だね。魔力持ち自体少なく、男性には魔力がほとんどないのがゲームの仕様。この世界がゲームに近いならそうなるよね。


 カール王子が手をかざすとぼんやりと検査用の水晶が光った。「「「おお!」」」という歓声が広がったね。続けてキール王子。よかったね、光っているよ。大したことないけど。


 うん、どや顔がうざいね。彼らとは親戚になってから何度か会ったけどさ、最初に手ほどきした訓練がよほど辛かったのか避けられまくったんだよね。第二王子のキール様は訓練すらやっていなかったのに! 



「お前がどれほどのものか俺が確認してやろう」


 うっっっざ! カール王子うざい! めんどくさいからさっさと終わらせましょう。私は王子の顔を見ないように斜め上を向いて手をかざした。


 手のひら全体からゴワっと魔力が流れた。魔力がそのまま光に変わったのかな? 遠くの木とか校舎がめちゃくちゃ明るくなった。


「目がぁ~! 目がぁ~!」


 カール王子が目をおさえながら転がっているよ。近づいて凝視していたからね。

 で、私の結果は?


「何色だった?」

「透明のようでしたね」

「透明? 聞いたことないな」


 全部の色混ぜれば透明じゃん。光の三原色知ってる? 赤と青と緑。黄色じゃないよ緑だよ。緑と赤混ぜると黄色くなるのなんで?


 結局魔力測定は、私だけ測定不能になってしまった。王子が転がっただけのつまらない結果でした。あ~あ。



 私の魔力は、理解不能ということで一旦保留にされちまった。要は無かったことにしようとしてるね、先生方。

 次々と流れ作業で魔力測定が行われているよ。男子はほとんど光らないね。ゲームと一緒だよ。


 女子はそれぞれだね。魔力なんてなくても困らないから、光らなくても気にしていない。でも、たまに薄いピンクの光を放つ魔力持ちがいた。


 ゲームキャラクターたちね。


 公爵令嬢の イリーナ・ホワイトローズ様。当然よねって感じで落ち着いているよ。さすがだね。


 侯爵令嬢の ウーリ・ゴールドラッシュ。あ~あ。自慢げに高笑いしてるわ。まったく。我が義姉ながら品がないったら……。


 子爵令嬢の エリーヌ・グリーンフィールド様。目を丸くして驚いてるよ。かわいいね。




 そして、とうとうヒロインちゃんね。この平民の中の誰だろう? 私はドキドキしながらも、こそこそと注目したよ。うっすらと光らせる平民が何人かいたけど、ヒロイン誰だろう?


 そう思っていたら、最後の受験者が今までで(私を除いてだけど)一番強くピンク色に光らせた。会場がざわつく。


「誰だ? 平民?」

「名前は?」


 ざわざわと人が集まってくる。貴族にとって強い魔力持ちの平民は、利用価値が高い商品扱い。まあ、学園にいる間は露骨なことはできないように先生たちが目を光らせるから安心だけど。スカウト合戦始まるよね。


「静粛に! どうせ分かることですから名前を公表します。ただ今、魔力測定を行ったのは『あああああああ』さん。平民です。『あああああああ』さんに対して無理やりな引き抜きや強引な接触は控えるように。あまりにも目に余る様なら……」


 は? 待って? 『あああああああ』?


 名前考えるの飽きるほどのヘビーユーザー? いやいや、いくら何でも恋愛シミュレーションだよ! まさか男性ユーザーのTS転生? いや、それでも『あああああああ』はないわよ! 思わず近寄って声をかけてかけてしまいましたわよ!


「『あああああああ』? そんな名前、あなたには似合ないわ。アンリとかアリシアとでも名乗ればいいわ」


 あ゛~! やばいやばいやばい! 思わずフラグ踏んじまった! だって、『あああああああ』はないよね。


「あっ……、ありがとうございます。ではこれからアンリとお呼びください」


 はぁ? ヒロインちゃん? もしかして名前嫌だったの? なんだろう、開発のテストデータが『あああああああ』だったとか? ありうるわね。転生者とは限らないし。


「そう。良かったわね。すてきな名前よ」

「はい」


「ちょっと待った!」


 あ、カール王子が出てきた。せっかくいい雰囲気だったのに。


「『あああああああ』、すてきな名前だ。君にぴったりだよ」

「いえ、私はアンリと名乗ります」


「だめだ! いくら君が平民で貴族に頭が上がらなくても、無理やり言いなりになって名前を変える必要はないんだ。『あああああああ』、すてきな? す、すてきな名前ではないか……な?」


 カール王子、本気か? 本気で言っているの?


「な、なあキール。素敵な名前だよな。あああああああって」

「え? あ、そうですね。個性的な名前ですよね」


 フォローになってませんよ。キール王子。


「大体、人の名前にケチをつけるお前は何様のつもりだ!」

「あら、わたくしはこの子の為を思って言ったまでですわ。ねえ」


 だって『あああああああ』はないよね。女子として。


「はい。私はご令嬢様の言うように、これからはアンリと名乗ります」


「無理しなくていいんだ! いいか皆よく聞け! この子の名前は『あああああああ』。『あああああああ』だ。俺が命ずる! 『あああああああ』と呼ぶように。いいか『あああああああ』『あああああああ』だ。それ以外で呼ぶな。よかったな『あああああああ』。お前はお前の名前を名乗れ」


「いやあぁぁぁぁぁぁ―――――!」


 あらら、『あああああああ』ちゃんしゃがみこんだよ。王子が連呼するから。


「貴様! お前がアンリと名乗れなど言うからこんなことになったんだ 責任取れ!」


 はぁ? あんたが『あああああああ』連呼したからじゃない!


「わたくしに悪い所など微塵もございませんわ。あの子もアンリという名を喜んでいましたし」


「人の心の分からない奴だ。お前みたいなものが大公家の一員だと名乗るとは許せない」

「あら。私の義父おとうさまの選択をけなすおつもりですの?」


 あらら、黙っちゃったわ。そうよね。お祖父様ですものね。


「あなたがあの子をどのように呼ぼうと勝手ですが、わたくしは『あああああああ』などと呼ぶ気はございませんわ。私は慈悲を持ってアンリと呼んで差し上げます」


「ひどい女だ。こんなに怖がってしゃがんでしまったじゃないか。安心しろ、君はずっと『あああああああ』でいいんだ。こんな女のいうことなんて聞かなくていい」


「お願い! もう許して!」


「ほら、『あああああああ』もそう言っている。許してやれリリア。そして『あああああああ』と呼んでやるんだ」


 ……めんどい。もういいよね。


「あ、そう? 仕方ないわね。ではこれからは『あああ……」

「許して! 貴女にまでそう呼ばれるのは!」


 そうだよねー。でも続けるのも嫌でしょ。


「早く呼んでやれ」

「お許しください! 私はアンリと呼ばれたいです」


「何を言っているんだ! リリア、お前のせいだ。はやく『あああああああ』と呼べ」

「はいはい。『あああああああ』さん。これからそう呼ぶわ」

「いや~! アンリがいいです~!」


 目に涙を溜めながら私に縋りついた。


「やめるんだ『あああああああ』。そんな態度は人間としての尊厳が! 君の態度はまるで家畜、みたいじゃないか!」


 あ、悪役令嬢のバッドワード、王子が言っちゃたよ。どうなるのこれ。

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