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第10話 10歳です。合法的に追放だ!(第一章 完)

 前回のコカトリス討伐で、私はゴールドランクになったよ。そしてレベルなんだけど……。


 なんかギルド本部のお偉いさんが集まって「ありえね~」って思ったらしくなかなか決まらなかったんだ。だけどね、騎士団長おっさんのサインがあったため、一応騎士団に連絡したみたいなのよね。


 そうしたら団長どころか、先王まで本当だと証言したもんだから大騒ぎになって! 結局面倒くさくなったのか、レベル80ということで落ち着いたよ。国内最高峰だよ! いいのか、そんなので!


 まあ、ゲームと違うから、レベルがどれだけ高くなろうと実力は変わらないんだけどね。

 ほらさ、こんな転生したらさ、「レベルが上がりました」「よっしゃー出来なかった魔法が使える!」「え、筋力がアップ!」とかやりたかったのに……。


 でもさ、現実でそうなったら怖いよね。レベル上がった瞬間HPとMPが増えるとか……。


 ないない、そんなこと。あったら怖いよ。とりあえず、「コカトリス単独征伐はレベル80相当」っていう基準が出来たのは確かだ。誰かやるヤツいるかな?



 それから、報償で貰った本! あれは最高ですな! 王国で知られている魔法とは全然違う法則で考えられているから、使える魔法の質も数も違うのよ。


 王国に伝わる魔法は白魔法。治療や補助魔法に特化しているの。


 それに対し、この本の魔法は黒魔法ね。風火水土を操り、攻撃できる魔法よ。


 最初に手にしたのが初級書だったのよ。だからそれなりの魔法が使えたし、冒険者としてもすぐにのし上がることができたんだけど、今回もらったのは中級書と上級書、それに魔道具製作書だったのよ!


 この魔道具製作書が凄いのよ! 魔石を使ったランプやライター。水を自由に出せる水筒。コンロや冷蔵庫も作れるの。まあ、材料と技術が必要だから、すぐには作れないんだけどね。


 でも、これだけは作らねばと頑張ったのが「マジックバック」よ! これは必須でしょう!


 生き物は入れられないけど、時間と温度が固定され維持されるマジックバック。魔石は頻繁に替えないといけないんだけど、めっちゃ便利なの!


 がんばって魔物倒して材料集めてやっと一つ作ることができたよ! 何回も失敗したけど出来るものだね。よくやった私! これで家を出て行かなければなくなっても、かなりの農具を持っていけるわ!


 しょっつるも! 一年目、作ったッしょっつるが切れた後もう大変だったよ。味付けが塩コショウと乳製品だけ。和食・和食が恋しい……。


 そこからは魚を買える時には買い占め、少しだけ食べては塩漬けしまくったよ。なかなか手に入らないのよ、新鮮な魚って! 干し魚ならよく見るけどね。


 おかげであちらこちらにしょっつる仕込んだツボが増えたよ。置いていきたくなかったからマジックバック間に合ってよかった。


 あ~そう、ツボと言えば漬物も作ったよ。米がないから小麦のふすまで。

 ふすまってあれよ。小麦精製したときにでるまあ米で言うぬかみたいなものね。ぬか漬け代わりにふすま漬け。ああ米が恋しい。でもおいしい。


 うどん作りは、農高生の基本だから。よく売りにも行ったし、農高の学祭では店も出したよね。

 10食分発泡スチロールに入れて売ると、昼には売り切れる大人気商品。懐かしいね。


 しょっつるの出汁にうどん。箸休めの漬物。干し魚。いい感じで和食も出来た。週に一度は和食の日。あ~米欲しい! 味噌汁飲みたい! カレーライス食べたい! そうだ、今度ラーメンにチャレンジするか。スパゲッティを重曹水で煮ると中華麺風になるはずよ!



 メイリを鍛えて、畑を耕し、獣を狩って、魔法を極める。そうして私のスローライフは、順調なまでに過ぎていった。





「リリア。リリアはいるか! どこにいる、出てこい!」


 誰だ? 私の名を呼ぶのは? 里芋を収穫しながら声を聞いていたが、思い出した、父親の声じゃないか! 私はメイリに目配せをし、黙っているように伝えた。


「おおそこの使用人。リリアはどこだ。早く呼んで来い」


 私だよ! なんて誰が言うか! 娘の顔も見忘れたのか?


「お嬢様はお亡くなりになっただ」


 一応そう言っておこう。


「何だと! そんなこと聞いていないぞ!」


「そんなことおらに言われても。お嬢様はこちらに来られてから、毎日泣き暮らして、すぐになくなっただ。毎食パン一つでは、ひもじいと動けなくなり、ひと月で亡くなったよ。メイドのメイリと一緒にな。可哀そうじゃったが、あれじゃあなんともならんかったよ」


 適当に言っとけ。


「そうか。死んだか。ハハハハハ! 騎士団長と大公が急にやって来てはリリアを出せと言われたのだが死んだのでは出しようがないな。うむ。よい情報だ。駄賃をつかわそう」


 信じやがった。


 適当に言った言葉に喜んだのか、父は銅貨を数枚投げたよ。あ~ケチくさい! こんな時は最低でも銀貨だろうに。まったく。


 飛び跳ねるくらい喜んで帰っていったよ。まあなんだ、銅貨でもかねだ。拾うか。


 それにしても、我が親ながらがっかりだよ。そしてラッキー! 私このまま住めそうじゃない! 使用人の振りしていたら信じてくれたの? うちの親、バカで良かった~!


「なに? リリア殿が亡くなった? しかも四年も前に? そんなはずがあるか! 調べさせてもらおう」


 なにやら遠くから不穏な声が聞こえたよ。どこで喋ってるんだ? でけえな、声。


 しばらくすると、ぞろぞろと大勢の人がやってきた。ちっ、義母と義姉もいるよ! 何があった? 見ないようにしよう。


「おい、お前! さっき私に言った事をもう一度みんなの前で言うんだ」


「へい。確かにお嬢様はなくなりましただ。あれは、お嬢様が母屋から追い出された一月後。一日にカビの生えたパンしかないわびしい食事では、生きる体力も気力もなくなりまさあ」


 あ、騎士団長じゃん。先王もいるし。なんでこんなことに? 何しに来た!


「実の娘にそんなことをしていたのか? ゴールドラッシュ侯爵」

「い、いえ。その様なことは……」


 まあいいや。せっかくだから嫌味でも言っておくか。マイファーザーに。


「あれは酷かった。側室が出るはずのパーティーに、仮病で休んだ側室の代わりに出た正室様が、なぜか事故を起こして亡くなった後の事でした」


「なんだと?」


 お、先王様が食いついた!


「母を亡くしたお嬢様は、側室からいじめられ母屋を追い出されたのだよ。ひもじい思いで、寂しい思いで亡くなったお嬢様を……」

「あなた! 何を言っているのです! 首よ首! そんなでたらめなことを言う使用人など首にしてちょうだい!」


 お義母かあさま、必死ね。


「そうよ! お母様に失礼だわ!」


 失礼なのはあなた方! 


「失礼も何も……。お嬢様が死んだのは、食事もろくに与えず今まで死んだかどうかも知らない者たちのせいじゃな。わしゃ何かまちがっとるかのう」


 食事くれなかったのは事実だしね。これくらい言ってもいいよね。


「確かに知らなかったようであったな。ゴールドラッシュ侯爵」

「そそ、そのようなことはございません」


 いいぞ! 言ってやれ先王様!


「葬式もしてないのではないか?」


 してないよね。死んでないから出来ねーけどな。


「あ、あの子は悪魔の子。黒髪に黒目だったのです! 我が家に、王国に災いをもたらす前に私が処分しなければいけなかったのです」


 お父様反論した! だけど私は茶髪茶目だよ! 色濃いけどさ。


「そうよ! そうなんですよ! あんな気持ちの悪い子、生きていても仕方がないのよ!」

「そうですわ、お母様」


 ひっでーな。この母子。


「では、お前たちは先妻の娘リリアは邪魔であった、いらなかったと申すのか」


「「「はい」」」


 言い切ったよ! 知ってるけどさ!


「だそうだがリリア。どう思う?」


 チッ、先王様、気づいてたんかい! で、この茶番? はあ~。仕方がねーなー。

 私は、麦わら帽子を脱ぎ捨て、束ねていた髪をバサッっとほどいた。


「お久しぶりです。お父様、お義母様、お義姉様。あら、お義母様、おふけになりました? お父様も、娘の顔も忘れてしまうほどお久しぶりですわね。お元気でした?」


 現実受け入れられないのか、わなわなふるえて黙っているよ。まあ、お母様といた時から滅多に会わなかったし、深窓の令嬢扱いでパーティーとかにも出させてもらえなかった義娘が、汚れた作業着着て畑仕事をうきうきでやっているの見たら、そりゃ信じられないよね。さっきまで似非方言使っていたし。本気で方言使っても良かったんだけど、理解できなくなるでしょ。

「んだからそのへなこだば」

 って書かれても意味わからないでしょ!


「リ、リリアなのか?」


 話もどすか。お嬢様風でいいよね。


「そうですわ、お父様。お久しぶりです。それに先王様と騎士団長様、お久しぶりでございます。今日は何をしに来られたのかしら。わたくしの事は内緒にして欲しいとお願いしたはずですが」


 来るなら来ると伝えてよ! こっちだって準備ってものがあるんだから!


「今日はそなたの誕生日を祝いに来たのだが。ずいぶん面白いことになっているみたいだな」


 誕生日? なんだっけ? あれ今日何日? 季節分かれば日時も曜日も関係ないよね。


「先王様。これは日常の作業風景ですわ。食物を育てるのにお休みはないのですよ。無駄話している時間も惜しいのです。おまけに、関係しなくて幸せだった家族関係がおかしくなってしまいましたわ。今まで平穏に暮らせていましたのに」


 まったく、何の用だって言うのさ! 


「儂は、独立して爵位を得ている。先王ではなくミスリル大公と呼ぶがいい。それでじゃ。騎士団長」

「はっ。冒険者シャベルことリリア・ゴールドラッシュ。これよりゴールドラッシュ家の籍を抜き、平民となることを認可する」


「「はぁ?」」


 父も義母もついてこれてねーな。馬鹿みたいに口を開けてるぞ。


「ゴールドラッシュ侯爵ならびに夫人。リリアの籍を抜くこと異存はあるまい。これだけぞんざいな扱いをしていたんだ」


「え、ええ。異存はございません」

「この子が平民に? おほほほほ。ありがたいことですわ」


 よっしゃー! ここの畑とはお別れだけど、これで自由になれるね。あとは現金を貰ってこの国を出ればこっちのものだね。


「では次。冒険者シャベルこと平民リリア。二年前の功績により、報奨金一億ゴールドを授ける」

「は。ありがたき幸せでございます」

「では後ほどギルドカードに振り込むように手配する。一週間ほど待て」

「はい」


 一億だよ一億! いっちおっくえ~ん! じゃない一億ゴールド! まあおんなじくらいの価値だからいいでしょ。家が買えるわ。やったね。おっさんたち約束守ってくれたよ!


「一億ゴールド! なぜそんな娘に!」

「無礼であるぞ、ゴールドラッシュ侯爵。もはやこの娘とお前は何の関係もないのであろう。そうだな。お前の娘であれば一億の金は保護者のお前のものだが、平民の成人した娘とお前は何の関係もない! 虐げていた娘の金などどうでもいいであろう」


 や~い。言われてやがる。私の金だ! 色目使うな!


「最後に、王命が下っている。心して聞くように。

  『リリア・ゴールドラッシュがゴールドラッシュ家の籍を抜き、平民となった後、ミスリル大公の養女に迎えるように。これはどちらにも拒否権はない。心して執行する様に』

 以上だ」


「「「はああああ~?」」」


 親子三人声が揃っちまったよ! どういう事だ? いったい!


「儂が息子に出させた。リリア。いまからお前は儂の娘じゃ」


「待て待てまて! 私が先王様の娘だと? 嫌です!」

「王命じゃ」


「ぼ、冒険者としてのカードを切らせて頂きます! たとえ王命であろうとも、シルバー以上の冒険者には拒否権がございます。これは、力ある冒険者がむやみやたらに戦争などに利用できないようにするための取り決めでございます! 騎士団長、分かりますよね」


 やっとこの家から離れて、自由気ままなスローライフ過ごそうと思ったのに。いまさら貴族に戻らされてたまるか!


「確かに、冒険者ギルドとの関係はそのようになっている。先王の願いとは言え、二つ名・冒険者シャベル、登録名リリア・ゴールドラッシュ嬢には命ずることができない」


 そうだろ! やったね。


「だが今は、リリア・ゴールドラッシュ嬢はいなくなった。ここにいるのは家名なきただのリリアだ。再登録するまでは、平民リリアは冒険者ではない。ギルドカードやランクは引き継ぐことはできるが、それは登録完了してからだ。ゆえに今は唯の平民リリアだ。冒険者でなき者に拒否権はない」


 なんだと~! そんなたわごと……。


「法の隙間なので合法だ。ゴールドラッシュ家も除籍した娘に関与することはできない。当然だな。いや、捨てた娘がお前たちより上位の貴族令嬢になるんだ。いままで娘にしてきたことへの罰を受けなければならんな」


「「そんな」」


 父も義母もどうしたらいいのか分からなくなっているよ。私もだけど! 


「降格するか? 金で解決するか?」

「か、金で!」

「そうか。では後ほど金額を示そう。大公よろしいでしょうか」


「ああ。儂が決めてよいか?」

「はい」


「では、1億ゴールド。一週間以内に用意するように。その金はリリアの報奨金とする。いいな」


 お父様固まりながらも了承してたよ。大公様なんてエグイ罰を。義姉と義母様睨んでるよ。


「よいな。リリアはこれから儂の娘じゃ。粗相のない様にな」


 父と義母に圧をかけてるよ。別にいいけど、なぜこうなった!


「お前に、家に住めるほどの報酬を用意してやると言ったではないか。契約書通りだ。儂の家なら文句はないだろう。それなりに立派じゃぞ」


 ご立派すぎだから! 


「最初からそのつもりだったのだぞ。お前のような頭が切れ、教育を受けている、最高ランクの冒険者を自由にさせて他国にみすみす渡すと思うのか? お前が宝石や権力に目の色を変えるような者ならここまではしなかったのだがな。先ほど、冒険者に命令はできないと言ったが、冒険者でありながら貴族の場合は、貴族として命ずることができるのだ。貴族の責任として王命は受けなければいけない。当たり前のことじゃ。最初から選択肢はないのだよ、お前にはな」


 はめられた~!



 こうして私は、ミスリル大公の娘、リリア・ミスリルとなったのだった。

 大公は一代限りの爵位。「それまでに嫁に行くか、騎士爵取る活躍をすればいい」と言われたが余計なお世話だ! あ、メイリは私に付いてきて、今も私に仕えているわ。きっちりメイドとして仕込み直されたけど。


 私のスローライフはこうして終わりを迎えたのでした。


(第一章 完)


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