目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第9話 冒険? なめるな

「朝からそんな恰好でどこに行っていたんですか!」


 通用門から入ろうとした私に、騎士団長のおっさんが言いがかりを付けてきた。


「あんたらが依頼出したから、ギルドに依頼を受けに行ってたんじゃないか。あんたらの子供がき世話子守りをさせたいんだろう? だったら時間前に依頼を受けないと私がタダ働き、依頼放棄になってしまうじゃないか! メンドクサイ依頼がなかったら部屋で大人しくしてたよ」


「その恰好は? 服は用意していましたよね」


「あのなあ。冒険者ギルドにドレスを着ていく馬鹿がどこにいるんだ!」

「まあ、そうですね」


 そうだろうが! まったく朝からうるさいなあ。ちゃんと帰って来たからいいじゃないか。朝市で立ち食いなんかしてないぞ。


「とにかく、早く部屋に戻って着替えて下さい。まもなく朝食の時間です」

「部屋で一人で食べたいんだが」

「却下です」


 真面目に戻ってこなけりゃよかったよ。私は部屋に戻らされて、メイドたちからドレスに着替えさせられ、髪の毛をセットされた。





 食堂には先王と奥様、騎士団長、それに二人の子供がいた。第一王子のカールと騎士団長の息子ケールね。第二王子はいないのかしら。


「今日はお前たちに、冒険者の体験をしてもらう事にした。カール、ケールいいな」

「「はい」」


 先王様が言ったら二人とも緊張しながら返事をしたよ。躾が行き届いているのかな?


「先生は、そこにいるシャベル殿だ。きちんと言う事を聞くように」

「お父様。昨日も思ったのですが、そこの女の子が冒険者でコカトリスを倒したのですか?」


「ああ。そうだ」


「信じられません。なんで僕が女の子に剣を習わなくてはいけないのでしょうか。馬鹿にしているのですか?」

「ケールの言う通りだ! 騎士団長、俺にこんな女の言う事を聞けと? 第一王子のカール様に!」


 あらあら。カール王子はこの頃から俺様キャラなのね。ケール様は男尊女卑の脳筋。いいわ、キャラブレしていないのね! とか言うと思ってるのか? けっ、ガキが生意気な口ききやがる。てめーの実力どの位だぁ? そうだ。最初から嫌われたらいいや。だったらへなちょこなプライドずだずだにして、精一杯トラウマ植え付けてやりましょう。そうしましょう。


「確かにコカトリスを倒したのはわたくしでございますわ。カール様、ケール様。それは、こちらにおられる騎士団長様が見ていられたので間違いありませんわ。つまり、私に勝てればお二人はコカトリスよりも強いと言う事です。どうでしょうか? わたくしの訓練に挑戦なさられて成功すれば、私の称号はお二人にお譲りいたしますわ。同い年の女になど、負けるお二人ではございませんよね」


「当たり前だ! 僕は騎士団で鍛えているんだ。同じ年の女になど負けるものか!」

「俺も勇者として教会から予言されているんだ。勇者が負けるわけなどないであろう!」


 単純だ! さすが子供ね。さすが攻略対象! 挑発に乗らないと事件が起きないから、この二人挑発は断れない。これは設定集の中のゲームのシナリオ作家のつぶやきにそんな事が書いてあったの。やったね。情報通りだわ。じゃあ、8時に広場に集合ね。よろしく!





 広場で待っていたら、アーマーを着こんだ兵士10人がやってきた。その後で、馬車に乗って先王と騎士団長、それにカール王子とケール様がやってきた。

 ケール様は私を見るなり、こう仰られましたわ。


「お前、さっきの女か⁈ なんて格好をしているんだ」


 普段着だ! そっちこそなんて格好だ? チェーンメイル着込んでどこに行こうというんだ?


「これが冒険者シャベルの普段着だ。いいか、今日は私が指導者だ。指導者の言う事はちゃんと聞くように。わかったな、そこのガキ二人!」


 おーおー、兵士の皆様殺気立っているよ。団長あきれた顔していないで何とかしてよ!


「何だと! 誰に向かって口を聞いているんだ!」

「俺に対してなんて口をきくんだ! この王子に向かって! 失礼にも程がある!」


「馬鹿か! これから行くのは死と隣り合わせの世界だ。そこでは身分や権力など何の価値もない! 信用できるのは己の命を守るための力だけだ。お前らにはそれはない! 大体なんだ? この役にも立たそうなでくの坊たちは。連れていくのか? 足手まといを守るほど、こっちは気を使ってられないんだ! ガキ二人、生きて帰らすよう仕込みながら面倒見なくちゃならんのに。騎士団長! こいつらの世話は依頼には入っていないはずだ。連れて来るなボケ。帰せ!」


 ハハハ。殺気がはんぱねーな。こいつら、あの現場にいなかったな。


「団長さんよう。こいつら私のこと信じてない奴らばかりだな」

「ああ。子供には任せられないと王子の護衛を訴え出た者たちばかりだ」


「いいだろう。そこのお前、かかってきな」

「ガキが生意気な口聞くな。武器も持たないガキをいじめるのは趣味じゃない」


 騎士団精神か? めんどい。


「武器ならこれだ」

「シャベルだぁ? ふざけるな」

「そうだな。シャベルもいらないや。行くよ」


 私はシャベルを地面に刺すと、一気に詰め寄っては、防御されている膝を思いっきり蹴りつけた。

 防御されていようが、間接は逆には曲がらないんだよ。急所を突かれた男は、そのままよろけて転んだ。隙だらけだ。地面に着いた頭を蹴ると、兜の重さが災いし首をやられたのか、男はその場でのたうち回っていた。


「いいか、鎧を着たもの同士の戦いなら、お上品にルールとお約束で戦ってくれるのだろうが、動物や魔物はなりふり構わず攻撃してくるんだ。そんな重いものを身に着けていたら、動きが遅くなるに決まっているだろう! 四つ足の動物なら下から一気に距離を詰めるんだ。大振りした剣などかすらせもできないさ。それに、馬車で行く気か? ばかか! 獲物逃げるだろう! まったく。馬鹿しかいないのか? 騎士団は」


 おっ、ちょっとあおったら残っているやつら剣を抜いたよ。じゃあ遠慮せずシャベルで迎え撃つか。あ~あ、剣が重いから振りかぶるのが遅すぎだ。シャベルで肘やあごを叩きつけたら痛がって剣を放したよ。


「と言うくらい、身軽なものは動きが速い。ガチガチに防御を固めても、急所を狙えば簡単に倒すことができるんだ! ゴブリンなんか私より瞬発力があるぞ。そんなの着こんでいたら逃げる事すらできないな。ガキども! 取っ捕まってケツでも掘られたいか?」


 カール王子とケール様は私を見てブルブルふるえてるぞ? どうしたんだ? こんなに優しく教えているのに。ほら、騎士の皆さん、怪我なんかさせていないよ。


「じゃあ、魔物退治に出発だー!」


「い、いやだ。誰が行くか~!」


「おい、王子さまよー。あんた勇者になるんだろう? 魔物倒さず勇者になれるのか? ああぁ?」


「お、王子に舐めた口をきくな!」


「はあ? 女の言う事など聞けないといっていた騎士団長の息子様? そうだな、あんたなら王子守ってゴブリンと戦えるよなぁ」


 ちょっと凄みを利かせたら腰抜かしてるよ。どうしよ。これから、楽しい魔物狩りに行くつもりだったのに。こんな時は親父達に相談か?


「あのさ~、あんたの息子腰抜かしているんだが、引きずって連れていっていいか? 王子はさすがに歩けそうだから心配ないが、剣は振れるのか? 訓練してるよな」


「冒険者シャベルよ。もういいのではないか? この子らも現実を知ったことだろう」


 おや、先王様。何を言い出すんですか? 礼儀正しく聞いてみようか。


「いいえ、それではわたくしの依頼が失敗になってしまいます。依頼書に依れば、カール王子とキール王子、ケール様のお三人に、わたくし冒険者シャベルが、魔物の狩り方を教え体験させることになっております。キール王子はどちらでしょう? 欠席でよろしくて? こちらは、ミスリル大公並びにホワイトホース騎士団長、あなた達の連名での依頼です。依頼主が依頼を故意に邪魔することは、ギルドに於いては冒険者をはめ、命や財産を奪おうとする行為とみなされ禁止されています。ご存じですよね。騎士団長殿」


「あ、ああ。昔それで依頼達成が出来ず、不当に評価を落とされた冒険者がいたために出来たルールだ」


「今の発言は、わたくしの依頼を妨害する行為に当たります。取り消してください」


「儂の立場でも駄目か」


「貴族と冒険者ギルドは別のルールで動いております。国から独立しているのが冒険者ギルドの強み。もしごり押しするなら、ゴールドランクのわたくしの権限でギルドに報告いたしましょう。そうなれば、高ランク冒険者の多数がこの国を離れるでしょう。騎士団では魔物を狩れないことは、この間分かったと思ったのですが」


 別に、依頼達成ってサインしてもらえば終わるんだけどさ、この二人魔王退治に行くんだろ? 教会から鍛えておけって言われてんだよな。だったら今からきっちり鍛えておけよ! うちのメイリの方が強いぞ。私が仕込んだからな。


「しかし、このまま二人を連れていっても魔物を狩る前に死にそうなんだが」

「殺させはしませんよ。まあ、何とか治る程度のケガはするかも知れませんが、その時は助けますよ。ぎりぎりまで戦い、死線を潜りきり抜けることでこそ、真の強さを獲得できるのです! まあ、王城には聖女と呼ばれる治療師がいるらしいので、かなりのケガでもだいじょうぶですよね。腕が切れても責任もって持ち帰りますのでご安心ください!」


「聖女にそこまでの力はないわ!」


「やだな~。軽い冒険者ジョークじゃないですか」


 おっと引かれてしまった。しょうがない。プラン変更するか。


「まあまあ。かわいい子には旅をさせろというではありませんか。とはいえ、皆様がご心配なのは分かりました。では、この場で魔物の狩り方を体験すると言う事ではいかがでしょうか? もちろん危険性は全くと言っていいほどございませんわ」


「何をさせる気だ?」


 やだなぁ。騎士団長のおっさん、疑ってるよ。安心しな。うちのメイドがしょっちゅうやっていることだ。


「ミニコカトリスを仕入れてきます。無害な鳥ですが一応魔物になっています。まあ、つつかれたり引っかかれたりはするでしょうが、その程度の傷は通常の訓練でもできるでしょう? その鳥を捕まえ退治するというのではいかがでしょうか? 一応魔物の狩り方を教え、冒険者としての体験をさせるという依頼は達成できます」


「それならば」

「儂もその程度でいいと思う」


 過保護め!


「そこの二人は? 私と外で魔物狩りたいか? いつでも連れていくが。こんな生ぬるいのがいいのか? どっちだ!」


「「生ぬるいのでお願いします」」


 男なら冒険一択じゃないのかよ!


「つまらねえな。おめーらホントに男なのか? 女に聞きたくねえんじゃなかったのかぁ? 男なら手に汗拭う……」


「「生ぬるい方で!!」」


 ま、そうだろうな。ふっふっふ。最後までついてこれるかな?





 結局、三日間ミニコカトリスを追いかけさせたが、ヤツら捕まえる事すら出来なかったよ。血抜きさせたり、羽もがせたり、ツボ抜きさせたり、料理させたりまでしたかったんだけどね。仕方がないから、目の前で首の刎ね方実践してやって見せたよ。もちろんすぐに二人の方に投げて走らせたよ。逃げ回って腰抜かしていたけど、それ森の中でやったら、あんた達生きていられないからね。腰抜かしていたらすぐ他の獣の標的になるから。何事も経験。よかったね、安全な広場の中でさ。


「もう帰っていいかな?」って聞いたら、快く帰してくれたよ。変な依頼かけずに最初から帰してくれればよかったのに。ご厚意で馬車で送ってもらえたから、五日で帰れたよ。途中で魔物と盗賊を瞬殺したけどね。


 さ、スローライフに戻ろう。メイリに新しい作業着をお土産で渡したら喜んでいたよ。「真っ赤なツナギなんて見たことありません! 素敵です!」ってね。


 前世でさ、『仙台貨〇』っていう宮城愛にあふれたバンドがあってだね。日本を代表するビジュアル系メジャーバンドが、趣味? でやっているコミカルなバンドが『仙台〇物』ね。

 赤い作業着ツナギ着て活動していたんだよ。動画で発見した先輩のおかげで、ちょっと農高で〇台貨物ブームがおきたんだよね。みんな赤い作業着欲しがったんだ。まさか王都にあるとは思わなかったよ。


 農高のみんなのこと思い出したら涙出て来たよ。



……………………


仙〇貨物、検索するんだ! 本当にあるその筋では有名なバンドだよ! いいぞ。〇台貨物! 武道館満席にしたのに、武道館、出入り禁止になったという伝説があるのが仙台貨〇だよ!


仙台〇物 / チバイズム~手ぬぐいを脱がさないで~ ↓聞け 見ろ 最高だぞ

https://www.youtube.com/watch?v=q5zqtjnxuZE

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?