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第5話 情けは私の為ならず

『『みぃの〇いー〇ほに ふ~〇と〇ーと〜~』』

 さあ、今日も元気に農作業! 伏字でFFJを歌ってはラジオ体操をこなし、朝の農作業を終えた私達は、朝食を食べながら今日の予定を話し合った。

 メイリはいい感じに育ったよ。朝から一緒にFFJも一緒に歌うし、ラジオ体操もする。そう、ラジオ体操と言えば、FFJの歌を作曲した作曲家って、ラジオ体操の歌も作曲してるんだよ! 先生が自慢げに話していたのを覚えていたよ。どうでもいいね、こんな豆知識。


 今日は天気もいいので、「一週間ほど泊まりがけで行く、大がかりな依頼を受けて村人を助けたい」と私が言うと、リリアは「人助けは大切です。じゃあ、私がミニコカトリス達と畑の世話をしていますね」とこころよく送り出してくれたよ。


 本当は二人で行きたいのだが、農業に休みはない。泊まりがけならソロになってしまうのは仕方がないことだよね。


 私は作業着を着て麦わら帽子をかぶり、首にはタオルをまいた。そして軍手と皮のブーツを装着した。

 皮のブーツは高かったけど、野山駆けまわるには必要よ。一輪車ねごの持ち手と台のぎりぎりの所にシャベルとフォークを括り付け、一通り必要なものを詰めたリュックを背負ってギルドに向かった。


「ようシャベル! 今日はどの依頼受けてくれるんだ?」


 ギルドでのランクは、私はシルバークラス。ここではトップクラスの扱いなのよ。だから優先的に窓口が使える。「シャベル」という残念な二つ名を付けられてしまったが、本名知られるよりいいよね。メイリは「フォーク」だし。そのまんまね。


 私は不愛想に「これ」と引っぺがした依頼書を渡す。窓口のおっさんが「正気か⁈」と声をあげ大声でギルド長を呼んだ。


「嬢ちゃん、フォークはどうした」

「留守番。やることが多いからね」


 ギルド長はあきれた様に言った。


「どこのどいつが、ソロでコカトリスを倒しに行こうとするんだ! 死ぬ気か!」


 言いたいことは分かる。だが、私なら大丈夫だ。


「はぁ。なあ嬢ちゃん、お前はうちの最大戦力なんだ。死なれちゃ困るし、大怪我されても困る。考え直せ」


 そうは言われても、やりたいんだよ私は!


「村の者も困っているんだろう? ならば最大戦力の私が行くしかあるまい」

「コカトリスは空を飛ぶんだ! 大型の魔獣だ! 普通は40人~50人くらいの複数パーティで倒しに行くんだよ!」


 そんなに参加者いるのか? いないから塩漬け案件なんだろうに。


「せめてフォークと組んでいかないか?」


 折れてきたがだめだよ。農家に休みはないんだ。


「分かった。とりあえず調査という依頼に出来るように手を回しておく。無理だと思ったらすぐ引き返せ。依頼失敗にならないようにしておくからな。いいな! 怪我する前に帰ってこい!」


 ギルド長はしぶしぶ依頼書を受け取ってくれた。


「本当は領主案件なんだが……。ここの領主は動いてくれないからな。中央が動いているかもしれん。気を付けておけよ」


 お父様、何やってるんですか! 働けよ! 嫌なことを聞いてテンションが下がっちまったじゃないの。


 一輪車ネゴを押して街道に向かった。人気ひとけがなくなったのを確認して、私はFFJの歌を歌ってテンションを上げ直したわ。





 休憩を取りながら4時間ほど移動した。時々、大声で歌っていたので、獣除けになったのか順調な歩みだ。もう少しで村に着くところまで来たら、村の方から「ギャー、ギャー」とコカトリスの鳴き声が聞こえた。空でコカトリスが旋回している。さらに急降下したり急上昇したり。私は一輪車をしっかりつかみ直し、村へと走り向かった。


 村の近くの街道では、立派な馬車3台を囲むように、立派な鎧を着けた騎士たちがコカトリスと対峙していたよ。でも形勢はコカトリスにあるわね。あんな重い剣を振り回しても、コカトリスに当たる訳がない。盾で攻撃を防ぐので精いっぱいだね。


 あれが今回の標的か。ずいぶんでかいね。でも騎士みたいな人たちが戦っているから、私が手を出してもいいの? 倒せそうもなさそうだしいいか、と思って勝手に手伝うとトラブルの元だしな。でも負けるよね、これ。そう思いつつ、リュックを一輪車の中に下ろして、シャベルとフォークを外し、肩に担いで戦闘体制を整えた。いつでも戦える。だけど混ざっていいものか……。


 しかたがない。あそこで指示しているえらそうなおっさんに聞いてみるか。


「あの~」

「なんだ! 子供か! 何でここにいる! 子供はとっとと避難しろ! というか、今までいなかったよな。え~い、このまま離れたら標的になるのか! 厄介だがそこで大人しく伏せておけ!」


 案外いい人?


「いえいえ。わたくしシルバーランクの冒険者です。こちらのコカトリスの駆除依頼を受けておりまして。依頼の遂行、つまり一緒に戦ってもよろしいでしょうか」


 指示役の男は私の依頼書と私を交互に見ながら、「シルバーランク、レベル55だと! お前がか! なに、二つ名シャベル? シャベルがメインウエポンなのか? ふざけているのか!」と叫び、「勝手にしろ!」とキレた。


「勝手にしろ。言質取りましたよ!」


 私はそう言って、前線に躍り出た。まったく。私一人なら魔法を使えるのに。今回は魔法は封印しておかないとまずいことになりそう。あ~メンドクサイ。


「とりゃー!」


 急降下してきたコカトリスの羽に、私は農業用フォークを投げつけた。鋭く研がれたフォークの先は、コカトリスの風切り羽を切り裂き、そのまま胴体に片羽を巻き込み突き刺さった。


「ウギャー」


 大声でのたうち回るコカトリス。ここぞとばかりに前線の兵士が剣でコカトリスを切りつけるが、全然斬れていない。研いでないのか? 叩くのは間違っていないけど切れなかったら致命傷にはならないぞ。


「ゴギャ―」


 コカトリスが叫びながら首と足で兵士を蹴散らす。兵士たちは吹き飛んでしまった。


 仕方がない。私はシャベルを横薙ぎに振り切り、コカトリスの体の中で、一番細い右足首を切った。

 ドダン、と倒れたコカトリス。立ち上がることはできない。


 だから来るなって、足手まといの兵士たち! 群がってコカトリスを叩いているけど、左足は健在だし、首で跳ね飛ばされているじゃない。固定されていない片羽だって、広げれば立派な凶器なんだからさ。


 私は急いで近くの木に登って、コカトリスの首めがけて飛び降りた。


 シャベルのさじ部分に両足を乗せ、持ち手を両手でしっかりと持つと、シャベルと私の体が一体化する。私の全体重を乗せ加速してゆくシャベルの先端は、見事にコカトリスの首を突き抜けた。骨が砕ける音がした。


 確実に息の根は止めたけど、鳥ってさ、しばらくは動き続けるのよね。反射運動なんだけど。

 実習で先生が鶏の首を刎ねて、そのまましばらく首なしで走っているの見せられたのは懐かしい思い出ね。汚れるから雪の上でやっていたよ。農高あるあるだよね。

 今回は片足落としているからその場でバタバタしているだけ。大量に血は噴き出しているけどね。私はさっさと避けたから大丈夫。うん、いい仕事した!


 おそるおそる様子を見ては構えている兵士は放っといて、私は指示役の男の所に行った。


「私が倒した。でいいわよね」

「あ、ああ」

「じゃあ、サインして。討伐証明書」


 男は、素直にサインをしてくれた。


「討伐の証明に頭は貰って行くから。あとは村人に解体させておいて。あとでギルドの関係者が取りに来るから」


 そう伝えて、村に行こうとすると、男が引き留めた。


「どこへ行くんだ!」

「村長からサインを貰わないといけないの。それに討伐終わったって知らせないと。頭取りに戻るから。いいよね」


「あ、ああ。多分報償も出るから後で寄ってくれ」

「分かった」


 そうして、私は村に行って、村長に討伐終了を告げサインを貰ってから、村人に解体を依頼した。


 あれだけ大型のコカトリスが騒いでいたんだ。しばらくは肉食動物寄ってこないわよね。解体するなら今のうちだよ。そう言ったら、村人たちは我先にと解体に向かったよ。村長、肉は多少ちょろまかしてもいいけど、希少部位盗んだらギルドが黙っていないってちゃんと伝えてね。





 現場に戻ったら、偉そうなおっさんが指示役の隣にいた。


「お前があれをやったのか?」

「ええ。あなたの命の恩人よ」

「おい!」


 指示役さんが私を止めた。なぜ? あのままなら全滅していたよ。


「ははは。よい。その通りだ。儂の命の恩人よ、名はなんと申す」

「ギルドではシャベルで通っている」


 なんかヤバそうだったので名前は伏せよう。


「歳は?」

「8歳」

「8歳だと! 小さいと思っていたがまだ子供じゃないか。儂の孫と同い年か」


 どうした? なにかヤバい気配がビンビンとしてきた。


「もういいかな。私ギルドに報告に行かないと」

「いや待て。功労者に対して何もしない訳にはいかない」

「こっちは仕事なんだ。早く行きたいのよ。命の恩人の頼みくらい聞いてくれてもいいんじゃない?」


 私はおっさんを睨みつけた。


「そうじゃな。では後でギルドを通して報償を与えよう。それならいいかな」

「ああ。そうしてもらうと助かるよ。それじゃあ、頭はもらっていくから。感謝とかいらないし、金だけ振り込んでくれる?」


 私はそう言うと一輪車にリュックが乗っているのを確認し背負うと、一輪車を押してコカトリスの首と農業用フォークを回収に行った。

 勢いよくシャベルを振ると、コカトリスの首が抵抗なく斬れた。一輪車に乗せ、そのままフォークとシャベルを括り付けると私はギルドに向かった。今から急げば明るいうちに帰れるね。


 泊まろうと思っていた冒険は、日帰りになってしまった。だって仕方ないじゃない。あの団体の面倒なんて見たくないんだから。巻き込まれるとろくなことにならないの目に見えるじゃない。


 人助けしてトラブルに巻き込まれたくないよ! 情けなんてかけるもんじゃあないよね。

 私はえらそうなおっさんを思い出し、「関わりたくないな」と、心底思った。

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