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第4話 一年間生き延びたよ(8歳だよ)

 あの追放から一年がたちました。私は元気です。


 って言うか、ここ最高! 嫌味ったらしく息苦しい本邸と違って、ノンストレスで過ごせる日々の素晴らしさ! 

 まわりには野生の食材がたくさん。りんごを取っても停学にならない!

 ニワトリに似たミニコカトリスを見つけたので、クリッピング、え~と風切羽を切って飛べないようにしてから空き小屋を改造して飼育。本家のコカトリスと違って攻撃力低いから安心よね。畑も順調に広げている。


 農業最高~!


 メイリも順調に育っていったわ。

 最初はミニコカトリスの首を刎ねただけで大騒ぎしながら、殺人鬼を見るような目で私を見ていたのに、今ではツボ抜き率先して出来るようになって。ツボ抜き知らない? え~と、ここでは書けないわね。農高生ならみんなできるわ。

 知りたかったら、ググルのね! グロ覚悟よ! 閲覧注意よ!


 それより、ここの地層ヤバいぐらいに凄いの! いろんな砥石が取れるのよ。なんでこんなに取れるのに研ぎの文化が栄えないのか不思議。荒砥石・中砥石・仕上げ砥石に該当するの石はもちろん、研ぎ師の先生が見せてくれた内曇りや備水、名倉とか言われる砥石にそっくりな粒立ちの砥石まで取れる。さすがに使い道はないんだけど、おじいちゃん先生のこと思い出して泣けてきたわ。


 もちろん、LOVEパワーの事も忘れていない。とにかくレベルを上げて強くならないと……。


 と思っていたのだけれど、どうやらゲームのようにはいかないみたいだった。いくら「ステータスオープン」と唱えてもイメージした画面が現れない。冒険者登録をして話を聞きまくったが、そんなものは誰も知らないらしい。


 レベルもそう。レベルが上がると強くなると思っていたら、強くなった人にレベルと言う称号を与えるのが冒険者ギルドの役割らしい。

 スライムを一日で10匹捕まえられたらレベル2とか、一角ウサギを安定して捕まえたるようになったらレベル5とか、そんな感じ。

 実績に応じて何がどのくらい出来るかの目安がレベル。言われてみれば当たり前の事だったよ。


 レベルが上がったからって急に魔法が出来るようになったりしないし、筋肉がついたリしないよね。実力をレベルで言っているだけ。ゲームはその現実を無視して、楽しめるためにシステムが作られていただけだったみたいね。


 あ、違うと言えば魔物を退治した時もそうね。倒したらキラキラと光の粒になって消えて、そこにアイテムがドロップするとか無いから。


 獲物はそのままの形で残るし、解体しないと毛皮も肉も取れないのよ。内臓とかいらない所は、早めに血の匂いに誘われた獣たちのために投げ捨てるようにぶちまけて食わせないと、解体中も危険だからね。ドロップアイテム? なんで動物が持っているの? ありえないよ。ゴールドだって換金して初めて手に入るに決まってるじゃない!


 だから私は、ありとあらゆる刃物を研いでは武器に変えていった。包丁、ナイフ、ナタ、フォーク。


 結局、私のメインの武器はシャベルになった。メイリの武器は農業用四俣フォークになったわ。


 シャベルは最高よ。耐久性は抜群だし、突く、叩く、切りつける、掘る、埋める、何でもできる万能ソード、それがシャベル。

 まあ、メイリのフォークも突き特化だけど、先が細いしシャベルより軽く扱いやすいわね。


 一輪車ネゴを押しながら、農業用フォークとシャベルで魔物を倒す私達は、他の冒険者から奇異な目で見られていたが、そんなことはどうでもいいわ。生き残った者が正義だ。冒険者になったおかげで強くなれたんだけど、言葉遣いがやさぐれて来たのはしゃーないよね。






 魔法についても研究を重ねたよ。本宅に忍び込んでは、魔法について書かれている本を拝借しては返すを繰り返したんだ。


 大したことは書いていなかったよ。ゲーム知識で大概予想していた通りだった。攻撃魔法ないね。


 仕方がないので、私のイメージで魔法の底上げをしたわ。一日使い切って寝る。これは効果があったみたい。ついでにメイリにも魔法が使えるように指導した。火と水の魔法は仕事に直結するので、私はメイリに感謝されたよ。


 まあ魔法はその程度かと思っていた時、倉庫の奥から異国の文字で書いてある本を発見したのよ。我がスプリング・ウインド王国で使っている文字でもない。母の実家のウインター・コールド王国の文字でもない本。しかし、私には読める。なにせ日本語で書いてある本だったから。


「メイリ、この文字読める?」

「どれでしょうか? なんですかこの文字。大体リリア様が読めない文字を私が読めるわけないじゃないですか」


 そうだね。私が勉強を教えているんだった。万が一学園に行くとき付いてくるのはきっとメイリだから、恥ずかしくないように基礎教養と礼儀作法は仕込んでいるのよね。私はメイリを放っておいて、一人日本語で書かれた本を読んだ。


 そこには、今まで調べてきたのと、全く違う魔法の体系が書いてあったのよ。今まで調べつくした魔法、特に補助系ばかりの魔法とは違う、攻撃も出来るオールラウンドな魔法。

 しかも効率が良すぎ、っていうか今までのが悪すぎに見える。そんな魔法の世界。


 私は実践と実験を重ね、この世界の魔法の一端を理解することができた。


 王国の魔法ってカスね! 愛だの恋だのに左右され過ぎ! ゲームの影響受けすぎているのかな? 私は知り得た魔法理論をもとに、自分自身とメイリを鍛え上げた。


 そうして日々、農業と狩りと、魔法の訓練と勉強と、メイリを育てながら、忙しく過ごしていた。





 今はそう、ちょうどボアの喉元にシャベルを突き入れたところ。ボアは猪を狂暴にした感じね。お肉が美味しいから、今日の夕飯は焼き肉ね。


 首から血液が噴水のように噴き出した。血抜きはこれでいいわよね。

 メイリが手慣れた手さばきでボアの腹を包丁で開くと内臓をバラまいた。

 そうね、頭もいらないや。私はスコップで首を切り落とすと、ポーンと遠くへ投げた。


 集まってきた肉食動物や鳥が、内臓と頭に群がる。それを確認して、胴体を一輪車ねごに乗せて、私達は街へ向かった。一番おいしい所を切り取ったら、後はギルドに売ってしまう。そうやって一年間でかなりの資金を貯めることができた。


 こうして、私達は実家からノーマークで放置されながらも、たくましく成長していったのでした。

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