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マジカル・マジョリカ
ももちく
文芸・その他ショートショート
2024年10月18日
公開日
3,497文字
完結
県立松阪牛高等学校の部室練のひとつに魔女部がある。

放課後にはその部室前に長蛇の列が並ぶ。

本当に良く当たる占い師として噂のマジカル・マジョリカに占ってもらうためだ……。

第1話

「マジカル・マジョリカ先生! ありがとうございました! 明日、告白してみます!」


「是非、頑張ってくださいね」


 少女が嬉しそうにしている。占い師冥利に尽きるとはこのことだ。


 普段は本田園子として生きている。


 しかし……だ、部活が始まれば、私はマジカル・マジョリカだ!


 見よ、この姿! 雰囲気を出すために赤いベールで顔を半分以上隠している。


 紫のローブと合わせて1200万パワーだ! どうだ、参ったか!


 ごほん……。


「次の方、お入りくださいませ……」


 一人目の客を捌いたとばかりなのに、さっそく二人目の客がやってきた。


「マジカル・マジョリカ先生! 私たちの相性を占ってください!」


 私の占いは良く当たると学校の噂になっている。特に人気なのが相性占いだ。


 そんなにばしばし当たるわけねーだろー! と思うのだが、客が連日、列をなしている……。


 それならばと、霊感水晶タロット占い師のマジカル・マジョリカって、欲張りセットやっちゃったわけですよ!


 なんでだよ、なんで客がもっと増えるんだ!?。


 いやいや。そこは疑えよ! キャパオーバーだよ!


 しかしだ……。冷静になろう。ここまで人気ならば……。


 ひょっとして……。これでメシ食っていけるんじゃね? いや、それはさすがにないか!?


◆ ◆ ◆


 それはさておき……。現在、私の目の前には私が憎んでやまないバカップルがいやがる。


 見せつけるように二人が仲良く椅子に並んで座っていやがる……。


 まあ、ちゃっちゃと占っちゃおうか。独り身はつれーなー!


 って、あれ? うーーーん? 水晶玉がめちゃくちゃ濁って見える。


「あのーーー。つかぬことをお伺いしますが。どちらか浮気してませんかね?」


 あっ、大当たりだ。男の目が思い切り泳いでやがる。


 これ以上、占いを続けると、とんでもないことになるんじゃないかなー。


 まあ、いいや。自分のことじゃないし。


 では、次にタロットを取り出しまして……。ゆっくりとテーブルの上でシャッフルしましてと……。


 あっ、弾かれたカードが床に落ちてしまいましたわよ。……げっ。よりにもよって剣の10かよ!


 指先が震えてかなわん。いかん。これはさすがにヤバイな。


 彼氏くん。これ、彼女にブスッと刺されちゃいますね?


 このカードの絵のように10本の剣でめった刺しコースかな?


 いやいや……。刃傷沙汰に巻き込まれるのは勘弁だっぞい!


「ちょっとおまちくださいね! カードが暴れてまして!」


 ちょっと待て。彼女がこっちを向いて、にっこりと微笑んでいるんじゃが。


 浮気相手、私じゃないよ?


 助けて、誰か! これ以上は無理だよ! 部室から逃げたい!


◆ ◆ ◆


 ふぅーーー。刺されたくないがために適当なことを言ってしまった……。


 本当に、やばい状況だった。殺す覚悟を目に宿してやがった……。


 ……しかしだ。嘘も方便。残酷な真実は誰も救われない!


 良い言葉だ。


 私は先ほどのバカップルが破局にならないように努めたのだ! 


 そうだ、そういうことにしておこう!


 はっはっは! あーーー。つらいっす。


◆ ◆ ◆


 さてと、そろそろ、次の客を部室に招こう。


「お入りください……」


 部室のドアを開いて、ひとりの少年が入ってきた。彼はこの部屋の雰囲気にさぞ驚いているご様子。


 そりゃそうだ。部室の壁一面に黒い布を張り巡らせている。さらには照明を落とせば、キラキラ光るビーズが夜空にまたたく星のように見えるだろう。


 さらに、厳おごそかな雰囲気を高めるために部室のエアコンの設定は冷房16度だ。足が冷えてたまらん!


 そんな私の状態など気にする余裕もないのだろう。目の前の少年が記入カードに名前を一生懸命、書いている。


 ふむふむ。少年の名前は『相田翔太郎』。


「ひとりでこられたということは、自分の将来についてですか?」


 少年がかわいらしくふるふると頭を振っている。


 ふむ。なかなか好みだな、こいつ。


 幼さが残る雰囲気ゆえに食指が進まない感じであったが、これはこれでありな気がする。


 育ちが良いのか、ふわっとしたおぼっちゃんカットの毛が羽のよう軽い。良く見れば目や鼻、そして唇の形とバランスが良い。


 まだまだ男らしさが足りぬというところだが、これは30歳を過ぎる頃には、かなりの男前になるに違いないな。


「あの、上の名前しかちゃんとわからないんですが、それでもいいですか?」


「ああ、かまいませんわよ。私は霊感占いも出来ますので」


「そ、そうですか! では、相性占いをお願いします!」


 少年は嬉しそうだ。学生だぞ。誰が好き好んで金運とか健康運など占ってもらおうというのだ、そんなことより、気になる異性のことだろう。


 って、ちょっと待ちたまえ。お相手の名前を書く欄のところに片仮名で『ホンダ』とか書いてるぞ?


 おいおいおーーーい! そんなベタな展開、あるわけないだろー! ホンダ違いに決まってるだろーーー!


 まあ、とりあえずカマはかけておいて損は無いな。


「下の名前はわからないのですか?」


「その、その。そのこ?」


 まじかよーーー! 私じゃねーかーーー!


「では、そのように名前を書いてください」


「はい。ホンダソノコと……」


 うわーーー。照れてきたーーー! これ、ちゃんと占いできっかなーーー!?


 いや、待て。落ち着け、私。もしかしたら同姓同名のヲチだってある。誕生日で探りを入れろ!


「お相手の誕生日ですか? ぼくの2学年上ですので、たぶん、生まれ年は2007年か8年だと思うんです」


 大当たりきたよ、こんちくしょーーー!


 同学年で同姓同名いねーーーよ!


「わかりました。では、占ってしんぜましょう。こころを落ち着けて、お相手の姿をくっきりと頭の中へ思い浮かべてください」


「わかりました。ちょっと待ってください。えーと、えーと、えーと、うん。ホンダさんはこんな感じだ」


 ちくしょーーー! どんだけ頭の中で美化されてんだよ!


 私はこんなにキラキラしてねーよ!


 占いヲタクだっつーーーの! 今、目の前にいるのがホンダソノコだっつうの!


「えーーー。少々、お待ちくださいね? あまりにもキラキラしすぎて、もらっちゃいました」


「すみません! ソノコさんはぼくにとっての女神なんです! つい、その姿をありありと思い浮かべてしまって……」


 下の名前で呼ぶなっ! 照れるだろうがよっ!


 せめて、最初は上の方だ! ばっきゃろーーー!


 あかん。頭がくらくらしてきた。変に霊感占いなんかするもんじゃない……。


 イメージにあてられた時のダメージがでかすぎる……。


「ごほん……。えーーー、それではさっそくですが、相性占いを行ないますわね。水晶玉占いとタロット占い、どちらが良いですか?」


「タロットのほうでお願いします!」


 本当に行儀良いな、この少年。ペコリとお辞儀してきたぞ?


 だいたいの男は当たるのかよ? って疑ったうえで、さらに舐めた態度してくるんだが……。


 まあ、いいか。さっそくテーブルの上でタロットをかき混ぜましてと。


 まぜまぜ、まぜまぜ。あっ、カードが床に落ちた……。


 ちょっと待って? ねえ? なんで当たり前のように『恋人』なんですかね?


 私、翔太郎くんと初対面だよね? 彼とのドラマチックなイベント、いつ起きてたんですかね!? 記憶にございませんわよ!?


「少々、お待ちくださいね?」


 いかん。落ち着け私。まずはカードを拾え。そして、恋人のカードを山の中に隠せ。それとなくだ!


 占いはイメージが大切なのだ。恋人に引っかかったら、イメージがずっとまとわりつくんだ。


 はい、落ち着け。


 ほら、落ち着きなさい? 胸の高鳴りがおさまりませんわよ? 耳まで赤くなってきたのを自覚できますわよ?


「お待たせしました。出たカードは、星、恋人、法王。最後に、新たな門出の象徴となる愚者ですね」


 もう観念した。何をどうやっても、恋人のイメージから脱却できない。


 さよなら、占い師としての矜持。初めまして、まったく交流のない私の旦那様。


「夜空にまたたく星のように素敵な出会いをした2人はやがて、情熱的な恋愛を始めるでしょう。もしかすると、そのまま結婚まで進むかもしれませんね」


「そ、そんな。ソノコさんとそこまでは何も。でも、勇気が出ました! 明日、告白してみようと思います!」


「では頑張ってくださいね。彼女は大人の男性が好みですわよ」


「努力します! ありがとうございました!」


 翔太郎くんがにこにこ笑顔で部室から出ていく……。


 明日の放課後、校舎裏で待ってるからーーー!


 ……って。あーーー。いらんこと言った。すでに見えていたのに。ほっといても30前半にはモテモテ確定のナイスミドルになるのは。


 なのに、それが24歳を過ぎたころに早まってしまった、私の余計なひとことで。


「光源氏じゃねーんだからさあ! やだなあ。これから先、ずっと浮気されないか心配しなきゃならないなんてなーーー!」

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