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汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。
万業破印
異世界恋愛ロマファン
2024年10月18日
公開日
66,826文字
連載中
聖女とは世界に平和と安寧をもたらす存在。だが、かつて双子聖女の妹が魔女と化し、夜の国の魔王と結託し人類に反旗を翻した。以来、双子聖女は不吉の象徴となり忌み嫌われる存在になった。ライセ神聖王国に聖女ミアが誕生するも、それは双子として。妹のニーノは国法にのっとり、魔女として生まれながらに地下牢に幽閉された。しかも双子と分からないように呪いを込めた鉄仮面を被せられて。そんなニーノを救おうとしていたミアはある日、ニーノの罠にかかり入れ替わられてしまう。最愛の妹はいつしかミアを憎悪する魔女に変貌していたのだ。そのままミアは魔女として処刑されそうになるもそこに現れたのは獣人魔王ルーク。実はミアは幼い頃、伝説の夜の国に迷い込みそこで一人の獣人の少年と出会い結婚の約束をしていたのだ。それがルークであることは後に思い出し衝撃を受けることに。最愛の聖女の危機に駆けつけた獣人魔王はミアを救い出し転移魔法で夜の国へと逃れる。そして獣人にとって究極の求愛の言葉を口にする。「ミア、汝に我が尾と獣耳を捧げる」それは自分の身も心も愛する者に捧げることを意味していた。

プロローグ

 怒りと敵意に満ちた視線が私に突き刺さり、周りに集まる人々からは罵声と怒号を浴びせかけられる。


 そう、今も憎悪に塗れながら怒声と共に私に石を投げつけてくる彼等は私の愛すべき民。


 いや、だった者達だ。


 鉄仮面をかぶせられ、手枷をはめられた私は処刑場へと連れて行かれた。手枷から繋がる縄を握り、私を処刑場まで引きずっていくのは、昨日まで私の護衛を務めていた衛兵であった。彼等は敬愛の念の代わりに憎悪の眼差しを私に向けていた。


 私は何処で選択を間違ってしまったんだろうか?


「今より魔女の処刑を執り行う!」


 威厳のある中年男性の声が響き渡った。


 その声を聞いた瞬間、私の心は深い絶望に囚われた。何故なら、その声は私の実の父親のものだったからだ。


 ここは光の王国と呼ばれたライセ神聖王国。その国王バルカンは私の実父なのだ。


 私は、血の繋がった実父によって処刑宣告を受けたのだ。その衝撃と絶望感は誰にも理解することは出来ないだろう。歯の根が合わずカタカタと鳴るのが分かった。


 私は衛兵達によって柱に縛り付けられた。足元には油の沁み込んだ薪が敷き詰められてる。魔女の処刑方法は火刑と決まっている。これから私に待ち受ける悲惨な運命を考えただけで私の心は恐怖に支配された。


「私は魔女ではありません! お父様、お願いします。どうか信じてください!」


 私はお父様に向かって鉄仮面越しに必死に叫んだ。もしかしたらお父様なら真実に気付いてくれるかもしれない。脳裏に浮かぶのは昨日まで私に惜しみない愛情を注いでくれた優しいお父様の笑顔。


 しかし。


「汚らわしい、魔女が聖女を語るな……!」


 お父様に私の言葉は届かなかった。代わりに汚物でも見るかのような険相を私に返して来る。


 私はそれ以上何も言えず吐きかけた言葉を呑み込み、代わりに嗚咽を洩らした。


 そして、お父様の横で銀髪の少女が悲し気な表情でむせび泣く姿が見えた。彼女は私と視線を合わせた瞬間、ニタリ、と引きつった笑みを浮かべた。それはまるで悪魔の笑みの様に見え、ゾクリと背筋に冷たい汗が流れた。


 貴女はどうして私に対してそんな笑顔を浮かべていられるの?


 私は彼女に向かってそう訊ねようとするも、その前に衛兵によって足元に火が放たれた。


 火はたちまち勢いを増し燃え盛る。それはあたかも地獄の業火の様に思えた。足元に熱が迫り黒煙が立ち込める頃には私は全てを諦めきっていた。


 しかし、その時、私の脳裏に美しい獣人の男性の姿が過った。そして、不意の私は彼の名を呟いていた。


 次の瞬間、突如として周囲は暗闇に包まれる。


 雷鳴が轟き、爆発音が響き渡る。


 私は吹き飛ばされるような激しい衝撃を受けるも、何故か全身に安らぐような暖かい感触を味わった。


「ようやく会えたな、ミア」


 囁くような優しい男性の声が耳元に聞こえた。たちまち胸の中が懐かしさで満たされる。その理由は分からなかった。


 私が目を開くと、そこには赤い瞳の美しい男性の優し気な笑顔があった。彼の頭の上にピンと伸びる黒い獣耳がとても印象的だった。そこでようやく私は彼に力強くがっしりと、でもとても優しく抱かれていることに気付く。心を埋め尽くしていた恐怖は彼の笑顔を見た瞬間に安らぎに代わっていた。胸がどうしようもなく激しく鼓動するのは恐怖以外の感情によるものだった。


「もしかして貴方は……!」


 彼の名前を呼ぼうとするも、嗚咽が止まらなくなり言葉を上手く発することが出来ない。止めどもない涙が零れ落ちると、彼は更に優しくギュッと私を広い胸元に抱き寄せた。


「オレと一緒に来るか……?」


 そう言って彼はクスリと微笑んだ。その笑顔と子供の頃に出会った獣人の少年姿が重なる。


 私は今度こそ彼の名を呼んだ。


「ルーク……!」と。 

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