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10 ピンク頭は役割を終えたらしい

「過去の文献、各地の文献、様々なものを漁ってみました。するとともかく出てくるのです。ピンク頭の惑わす存在が。そもそもこのピンク頭自体が、ありえない髪の色であることに、のでしょう?」


 え、と周囲は自分達の髪を見渡す。

 この国の人間の髪の色は茶系統が多い。

 たまに焦げ茶、黒、そして金髪は居るけれど、「ピンクと見まごう色」の髪はのだ。


「髪を染めているか? と思ったこともあったので、そこは息子の協力で、彼女の髪を何とか採取してもらいました。そして夫の知り合いの化学者に、その髪が染めたものなのかどうか、分析していただきました。結果は天然です。ですが自然界でこの色を持つ毛はあり得ない、というのが彼女から全く離れた場所に居る化学者の証言でした。だけど彼女は存在する。では彼女は何なのでしょう?」

「それで、トリックスター?」

「私は貴女が人外のものだと思っているわ」

「人外とはまたおおげさな」


 あははは、と彼女は笑った。

 殿下をちら、と見るとその笑い方に青ざめていた。


「各地の資料、各時代の資料を見たところ、まるで次の支配者がまともであるかどうかを推し量るかどうかを確かめる様に出現している。この国であったなら、婚約破棄にまで持って行くのか、自分を相手にするのかどうか、で人の上に立つ者であるのかを見定めている様に」

「ふうん」


 彼女は面白そうに首を回した。

 すると、編み込みやら何やら複雑に結われていたピンク頭が一気に広がった。


「まずまずの正答おめでとう」


 ぱちぱち、と彼女は拍手をする。

 しばらくそうしていたかと思うと、ぱん、と大きく一度手を叩いた。

 周囲の空気が一瞬ぴりっとした。

 そしてあっ、と言う表情で彼女を見る。

 皆ことに気付いたのだ。

 私の中でも彼女のそれにぞわりとする違和感がいきなり生じた。


「とりあえずここまで突いたのはあんたが初めてだわ」


 口調がまるで変わった。


「まさかこの世界の人間で気付くのが出てくるとは思わなかったけど。それだけ文明が進化してきたということかしら」

「それでは本当にトリックスターだというの?」

「まあそう認識してもらってもいいけど。ともかくあたしはこの世界を安定させるために存在している。歪みがあればそれを修正するのがあたしの役割。この世界に戦争が無いのもそのせい」

「……戦争?」

「そう、あんた達戦争って概念が無いのに兵士はいるのよね。学校に疑問を持ったのもあんたが初めてだわ。おめでとう」


 再びぱちぱち。


「この世界は変わらない。代は変わろうと人が移ろうと、この国はずっとここにあるし、どこから攻めこまれることもないし何処を攻め込むこともない。だってここはそういう世界なんだから。男女分けて暮らしているのが唐突に一斉に同じ学校に居ることに対しても疑問を持っていない、神も居ない。神話という名は知っていても信じている神も居ない。そういう世界をずっと安定させるために飛び回っているだけのこと。そのための手段に確かに善悪は無いわね。ああ勿体無い。ぜひあんたをあたしの世界の上司に紹介したいものね。こんなバグが出ましたって」


 バグ? 何のことだろう。


「ともかくそこまであんたが気付いてしまったならば、ピンク頭はそろそろ役目を終わらせなくてはならないわね。婚約破棄騒動以外の方法を考えなくちゃ」


 それじゃあね、と言ってするり、とピンク頭の姿はその場から消え失せた。

 文字通り。

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