そして陛下は双眼鏡片手の私達を見つけると、前に出てくる様にうながした。
「ユグレナ・ラグドウィッジ――歴史男爵夫人、そして兄上の元婚約者として、其方はどう思う?」
私は一礼のち、発言の許可を貰った。
「発言許可ありがとうございます。かつてアリエッタ様と同じ立場にあった身として言わせていただきますと」
私はピンク頭の方に向き直る。
「彼女は先代の殿下に近付いたサフィン・ラカスティーン男爵令嬢そのものです」
「そのものとは?」
「そうでなければ、その娘なり血縁者なり。私、そして当時をよく知る私の親友達も証言致します。そのピンク頭、身体に似合わぬ大きすぎる胸、そして大きなやたらと瞳の大きい垂れ目、そんな特徴のある目立つ令嬢、なおかつ私の人生を変えた人物を忘れるものではありません。マフィット・メモダーン男爵令嬢。貴女は一体誰ですか?」
「メモダーン男爵!」
陛下の声も飛ぶ。
「は、はい。ここに」
「其方、この娘は元より其方の元で生い育ったものか?」
「……いえ、数年前に覚えのある女が亡くなったということで引き取った娘です」
「そう、その点も同じです。あの頃のサフィン嬢もやはり同じ経緯で学校へとやってきました。そして先ほどアリエッタ様が問い詰められた様な内容の疑いを掛けられたものです。当時は私もまだ子供でしたから、下手にそれ以上つつくよりは傷物令嬢になった方が楽だ、と婚約破棄を受け容れました。ですがその後当時のビンク頭は姿を消しました。何故でしょう。そこから私は二十年近くその意味を探し求めてきたのです」
「儂も自分が王位に就く原因となった『それ』の意味に興味がある。続けてみよ」
「はい。ですがその前に」
ラヴィリスが合図を送る。
すると周囲の警備兵が殿下と側近候補達、そしてピンク頭をそれぞれ引き離して両腕を掴んだ。
「何をする!」
「これは陛下の御命令です」
「特に、そのメモダーンの娘から息子は離す様に」
するとふっ、とピンク頭は口元を歪めた。
「何を掴んだって言うのよ、ユグリナ・グリンスティーン?」
「まあ、私の旧姓をご存じ? それでは貴女、やはりサフィン・ラカスティーンなのかしら?」
「それだったらどうするというの?」
「貴女の正体に関する仮説をちょっとばかり聞いて欲しくて。これは歴史を学ぶ者としても実に興味深いことだし」
「いいわ、続けなさいよ」
「貴女、トリックスターね」
結論から先に私は言った。
トリックスター? と首を傾げる場内の人々に、私は説明をする。
「神話の中に出てきますでしょう? いたずら好きで、善悪の区別なく、物事を掻き回す存在」
ふん、とピンク頭はあごを上げた。