私は夜会に出席する予定だったかつての友人達を呼び出した。
彼女達は皆、現在の国政に関わる大貴族に嫁いでいる。
そして昔の騒動も知っている。
懐かしい学校のホールへと急ぐと、かつての私の父の役職、副宰相夫人となっているシェレス・メンドリーサ公爵夫人と、国軍の少将夫人となっているラヴィリス・カリアット侯爵夫人がちょうど馬車から降りるところだった。
「ユグレナ!」
「ああシェリス、ラヴィリス、久しぶりね」
「悠長に挨拶している場合ではないのでしょう? 夫にはもう連絡を回したから、すぐにこの会場の警備のレベルを上げてくれるはずよ」
「こちらも、本来出席予定のない陛下達に連絡をつけてくれたわ。先代の時のことを今の陛下はご存じだから、一応用意はなさってらしたということだし」
「さすがだわ」
私達は揃って中へと入って行く。
「母上! ……こちらです。今ちょうど、王太子殿下と側近候補達が、婚約者の令嬢達を順番に断罪しようとしているところです」
「判ったわ。それで、彼女達には……」
「はい。あらかじめ、できるだけ引き延ばす様に伝えてあります」
*
私は息子が学校に入る時、伝えておいたことがある。
何故なら、うちの息子は現在の王太子殿下と同じ学年だからだ。
「もしもピンクと見まごう色の髪の男爵令嬢が王太子殿下や、高い身分の貴族令息になれなれしく近寄る様なことが見られたら、すぐに教えてちょうだい」
息子は何のことか判らない様だったが、ともかく「絶対」と約束させた。
本当に出てこなければ、それはそれでいい。
出てきた時には歴史学者男爵夫妻の片割れとして、二十年近く調べてきた結果を息子に伝えなくてはならない、と思っていた。
そして息子が三年に進級した時。
「母上! 出ました! ピンク頭!」
礼儀もへったくれもなく息子は飛び込んできた。
「出たのね。ありがとう。どういう娘?」
「マフィット・メモダーン男爵令嬢。今日こそ教えてくれるよね。俺ずっと殿下のこと見張っていたんだから」
「ありがとうハモンド。これから話すわ。長くなりそうだから、お茶の用意をさせるわ」
そう言って息子には、私がそれまで調べた資料をテーブルに広げ、これから起こるだろう事柄を説明した。
「だから、これからそのピンク頭のマフィット嬢の様子を観察して欲しいの。貴方の勉学を邪魔する様なことになってごめんなさいね」
「ううんいいよ。俺もそんな理由があるとしたら、何が起こるのか、かなり楽しみだ!」
こら、と国家の一大事にもなりそうな出来事にわくわくしている息子のおでこにこつんと拳骨を当てた。
息子のハモンドは、それから色んな伝手をたどり、王太子殿下の婚約者である公爵令嬢アリエッタと、側近達四人のそれぞれの婚約者に渡りを付けた。
この辺りが実に手際が良く、まあ親に似ず、だ。