「喉が食いちぎられているな」
エドワード・ノックスは顔をしかめた。
宿屋の椅子に座り一枚の写真を見ていた。写真の遺体は喉に何カ所か歯形があり、首が半分ほど、ちぎれたような写真であった。
写真機は最近警察の現場で導入されたもので、色がついていないという欠点はあるが、現場の状況がよくわかるようになった。
「おそらく、まだ若い吸血鬼だろうね」
イーサン・クロムウェルはテーブルの上の死体の写真を見ながら言った。短い白髪の初老の男だ。
宿屋で警察から借りてきた資料をイーサンとエドワードの二人は見ていた。
エドワード・ノックスは三十代前半の黒髪の癖毛、口ひげと顎髭を生やしている。やせ形の筋肉質の男で肌は少し日に焼けている。
「へたってことか」
「その通り、血の筋を一噛み、二本の牙を突き立て、耳元で絶える息を感じながら啜り尽くす。それが食事というものだ」
イーサンは唇を舐めた。前の方の歯は、すべて無かった。上下十二本の犬歯と前歯は、三十年ほど前に抜き取られている。
「どんな食事だよ」
エドワードは顔をしかめた。
「それに死体の数も多い。普通の血筋なら月に一度ほど吸血行為をすれば事足りる。まだ成り立ての若い吸血鬼は、人であったときの感覚と、吸血鬼になった感覚の折り合いがついていない。人であったときの食欲、毎日のように食事を取るという風習が抜けずに、過剰に吸血行為を行うケースがある。貪欲な上、へたくそなのだ」
若さという奴かな。イーサンは少し笑い、己の白い髪を撫でた。見た目で言えば、五十代後半から六十代前半、肌は白く、短く刈った髪、灰色の目、首には銀色の首輪をしている。それなりに老いている。だが彼は見た目よりずっと老人であった。齢九百歳以上、この国ができる前、それよりもずっと前から彼は存在している。
イーサン・クロムウェルは、九百年生きた元吸血鬼である。錬金術の秘術により、吸血鬼より人へと、生まれ変わった。その後、裁判を受け、死刑判決を受けたものの、イーサンは、自身の様々な知識と財を使い、国と取引を行い、吸血鬼狩りに協力することを条件に、死刑の執行猶予を勝ち取った。この男は吸血鬼のことを最もよく知る猟犬なのだ。
「これだけ、この場所で食事をしてるってことは、土地勘のある人物、ここの住人と言うことか」
人口五万人ほどの、港町ミルト、半年ほど前から喉を噛み裂かれた死体が見つかるようになった。
「吸血鬼になれば、一生追われることはわかっている、わかっていなければならない。にもかかわらず、一つところでのんびり過ごしているということは、よほどここに思い入れがあるのか、それが思いつかないぐらい頭が悪いのか、彼の行為を見るかぎり、たぶん頭が悪い方が正解だろうね」
イーサンは鼻で笑った。
「それで、この吸血鬼の潜伏先はどこなんだ」
エドワードはテーブルに身を乗り出した。
「君はせっかちだね。いくら私でも、そんなにすぐわかるわけないだろう。君も考えるんだ」
「面倒だな、魔法か何かでわからんのか」
吸血鬼時代イーサンは魔法を極めたと、聞いている。
「人の体では、そんな高度な魔法は使えない。あっという間にひからびてしまうからね。今の私に使えるのは人のレベルで使える簡単な魔法だけだ」
「地道に捜査していくしか無いってわけか」
「そうなるね」
わかっているだけで十件の吸血行為を行っている。最初は路上の娼婦、やがては、窓を破り家の中に入り込み血を吸うようになった。金品も同時に盗んでいる。生きている目撃者はいない。誰かに気づかれれば気づいた人間を殺している。行き当たりばったりの犯行を繰り返しているように見える。
話が広まり今では港町の窓には頑丈な鉄格子にニンニクがぶら下がっている。
最近は海に遺体が浮いていたケースが増えていることから、遺体の発覚を一応恐れて血を吸った後の遺体を海に投げ入れているのでは無いかとイーサンは推測していた。
「犯人は、元こそ泥じゃないのか」
エドワードがいった。
「室内に入り込み金目のものを盗んでいるからかね。もし、犯人がこそ泥なら、現金だけを奪うだろう」
「なぜだ」
「意味も無く目立つだろう。質屋に行って現金にでも換えるかね。わざわざそんなことをしなくても、金なんていくらでも奪える。相手は吸血鬼だ。その気になれば銀行だっておそえるんだよ。わざわざ金に換えるために金目のものなんて盗まないよ。こそ泥だったらその辺はわきまえているさ」
「ふうん」
「それよりも、盗んだ品に注目すべきだ。盗んだものは、お金以外に、たばこ入れに懐中時計、どれも男性用のものだ。自分が女性であるということを隠すために男性用の装飾品を盗んだというのでなければ、吸血鬼の正体は十中八九、男ということになるだろうね。盗んだのは、ただ単に欲しかったからじゃないのかな」
「なるほど」
エドワードは感心した様子を見せた。根は素直なのだろう。
「それよりも、この写真を見たまえ」
イーサンは一枚の写真を見せた。血にまみれた床の写真だ。
「それがどうした」
「靴の跡がある。これは五件目の写真だが、三件目の写真にも靴跡が残っている」
「その靴跡の持ち主が吸血鬼だと言うことだな」
「ようやくまともな答えが返ってきたね。もう一歩考えてみよう。この五件目の写真と三件目の写真で靴跡が変わっている。大きく、すり減ったベタ靴から上等な革靴へと靴跡が変わっている。つまるところ、三件目と五件目の間で彼は靴を変えていると言うことになる」
「靴屋をしらみつぶしに調べれば、吸血鬼が誰かわかると言うことか」
「もちろん別の町で買った可能性もあるし、盗んだ可能性もあるから、断言は出来ないが、人間というものは、急に金が手に入ると手近なところで使ってみたくなるものだからね」
「人間? こいつは、もう違うだろう」
「まぁ、そうかもしれないが変わらない部分は変わらないものだよ」
イーサンは頭をかいた。
「よし、そうと決まれば、さっそく行こう」
「今からかね。もう靴屋は閉まっているだろう」
「たたき起こせば良い」
「だめだだめだ。そんな目立つことをすれば、あっという間に吸血鬼に見つかるぞ。捜査は太陽のある内にしか、してはならない。吸血鬼捜査の鉄則だよ」
「わかったよ。じゃあ、俺は朝まで眠らせてもらう」
エドワードはベットに寝転がった。
「考えるのは苦手かね」
イーサンは残念そうにつぶやいた。
それから二日ほどかけて、靴を売っている商店をしらみつぶしに訪ね、現場に残っていた靴跡を見せ、夜に靴を買った怪しげな男がいなかったが聞いてみたが、それらに該当する人物はいなかった。
暗くなったので二人は宿に帰った。
「なかなか見つからないな、良い靴は見つかったが」
履き心地の良い革靴があったので、エドワードは、思わず買ってしまった。革が足になじんで歩きやすい。
「そう簡単にはいかないよ。ヒントを見つけて、それを一つ一つ、つぶしていく、それしかないんだ」
イーサンは地図を広げ、今日尋ねた店に印をつけていた。
「あらかた回ったと思うが、次はどうするんだ」
「もう一回まわって見ようと思う。何か思い出しているかもしれない」
「またいくのか。その辺は地元の警察に協力してもらえば良いんじゃないのか」
「だめだ。大人数で動けば必ず気取られる。一度逃げられたら、見つけるのは、かなり難しくなる。吸血鬼は、その気になれば土の中でも眠ることが出来るんだ。今なら、まだ自分が住んでいた場所に暮らしている可能性がある。我々が来たことを悟られてはならない」
「面倒なことだな」
「そうだな、あっ」
イーサンは胸元を押さえた。
「どうした」
「まずいぞ」
イーサンは胸元のポケットから何かを取り出した。赤く光った一枚のコインがあった。
「なんだそれ」
「このコインは、強い魔力を持った者が近づけば反応するようにしてある」
下の階の方から物音がした。叫び声もした。
「まさか、来ているのか」
エドワードは立ち上がり耳を澄ませた。体の奥から寒気を感じた。
「ああ、おそらく、吸血鬼だ」
「おい! 何でばれてんだ。ばれないように二人だけで捜査してたんだろ!」
「慎重を期したところでばれるときは、ばれると言うことだな」
「何のんきなこと言ってやがる」
エドワードは杭撃ち銃を手に取った。
「やめておけ、夜の吸血鬼にそんなものは効かん」
「では、どうすればいい、このまま食い殺されるのか」
「逃げる」
「どこに」
ここは宿屋の四階だ。
イーサンは窓を見た。窓の外は海だった。
「その通り、この宿屋を選んだのは、外に海があるからだ」
イーサンは窓を開けた。潮風が入ってくる。
「追ってこれないのか」
確か吸血鬼は海が苦手だと、エドワードは聞いたことがある。
「ふん、冗談を、そんな与太話を君は信じているのかね。誰でもそうだと思うが、衣服が汚れるのはいやだろう。その程度のことだよ。服を海水に浸してまで我々を追ってこない、それを期待しているのさ。あと吸血鬼の鼻も少しはごまかせるからね」
イーサンは、よいしょと、窓によじ登り、あっさり飛び降りた。
ドアを破る音と叫び声が徐々に近づいてくる。
「皆殺しにする気かよ」
エドワードは覚悟を決め、窓枠に登った。吹き上がる風、うねるような夜の海。断崖亭、確かそんな名前の宿だった。物が壊れる音が近づいてくる。エドワードは暗闇へ飛び降りた。
沈んだ。エドワードは必死に海面へ上がろうと手足を動かした。わずかな月の光が見え、そこへ向かって泳いだ。
海面に浮き上がり、息を何度も吸い込んだ。咳き込む、塩の味がきつい。辺りを見渡す。がけの上に宿屋が見える。遠く離れているわけではない。出来るだけ早くここから逃げなければいけない。
イーサンを探す。もう、どこかへ行ってしまったのだろうか。
人の背中らしきものが海面に浮いていた。エドワードはイーサンらしきものに向かって泳いだ。ひっくり返すとやはりイーサンだった。息はしているようだが意識が無いようだ。海に落ちた衝撃で気を失ったらしい。
「自分から言い出したくせに」
エドワードは侮蔑の言葉を吐き、手のかかる猟犬を引っ張りながら、海から上がれる場所を探した。
「おえぇ、気持ち悪い。寒い。痛い」
イーサンは漁師小屋で盛んにつばを吐きながら体をなでさすっていた。
エドワードは、イーサンのえりを引き海を泳いだ。上がれそうな桟橋を見つけ、気を失ったイーサンを陸に引き上げた。それから、イーサンをひきずり、漁師小屋を見つけその中に潜んだ。
「寒い、火を炊こう」
イーサンは小屋にあった網を体に巻き付け震えている。
「だめだ。吸血鬼に気づかれる」
「それは、困る」
イーサンは体を縮めた。
「だいたい、海に飛び込もうと言い出したのは、あんただろう。何で気絶してるんだ」
エドワードは、にらみつけた。
「大した高さでは、なかったんだ。あの程度の高さ、吸血鬼の頃の感覚では、椅子の上から降りるぐらいの高さだ。ところがな、海に落ちる途中、私は自分がすでに吸血鬼ではないことを思い出したんだ。これはまずいと思ったが、どうすればいいか、わからないまま、顔面を打ち付けるように海面に激突したんだ」
イーサンはアゴをさすった。何とも間抜けな話だ。吸血鬼時代のイーサンは空を飛ぶことすら可能だったそうだ。
「それで、襲撃してきた奴は、例の吸血鬼なのか」
「それはわからんが、たぶんそうだろう。宿に帰ってみればわかる。たくさんの証拠が残っているだろうからな」
「そうだな」
宿に残された宿泊客はおそらく全員殺されたとみるべきだ。全く無関係な人達を巻き込んでしまったことに、エドワードは怒りを感じた。
そのままうとうととしながら朝をむかえた。
日が昇り、宿に戻った。所々窓が破壊され、外からでも血の臭いがわかった。町から離れている所為か、この惨劇に、まだ誰も気づいていないようだった。
「ひどい有様だね」
イーサンは平然とした表情で中に入った。いきなり頭の無い死体が宿屋の受付けのテーブルにあった。
「宿屋の主人か」
エドワードはいった。
体型と服装に見覚えがあった。
「おそらくそうだろうね。我々がどこにいるのかも聞かず、下の階から順に全員殺してしまえばいいと、考えたのかもしれない。台帳を調べればいいのに」
「俺たちを殺すために、片っ端から殺しにかかったってわけか」
宿の中は恐ろしく静かだった。時折水滴が落ちるような音がする。
「この靴跡、間違いないね。例の吸血鬼だ」
廊下に点々と赤い靴跡が残っていた。
「なぜ俺たちのことがばれたんだ」
「それはいろいろ考えられるな。ここに来てから五日ほどたつ、どこかしら情報が伝わってもおかしくはないだろう。なんせ、この町は奴の地元だからな」
「警察官が吸血鬼なんて事は無いだろうな」
警察には、吸血鬼の捜査で、きていると報告してある。
「あり得ないことではないが、警察官なんてものは昼間いなきゃおかしいだろう。半年間、夜にしかいない警察官なんて目出って仕方ない。それより、もっとも、疑わしいのは聞き込みをした靴を売っていた商店だろうね」
「靴屋の関係者が、共犯者ということなのか」
「聞き込みをしている際、ここの宿屋のことを話したからね。もし何か思い出したことがあれば教えてくれとね。考えてみれば、あれは軽率だったのかもしれん。わざわざ宿屋まで自分が思い出した情報を言いに来てくれるともおもえないしね。我々が奴を探していると、靴屋が吸血鬼に情報を与えたのかもしれない」
「靴屋は、そいつが吸血鬼だと気づいていないのか」
「おそらくね。我々も吸血鬼を探しているとは言っていない。気づいていて黙っている可能性も否定出来ないが、おまえ警察に追われているぞと、忠告をした、そんなところだろうね。我々は一応刑事という身分で捜査をしているからね。それで始末しに来たんだろう」
「なら、もう一度靴屋を調べれば、奴の手がかりをつかめるってことだな」
「そうだな、どのみち今日、日が沈むまでが勝負だ。日が沈めば奴は逃げるか再び襲ってくるかもしれない。地元の警察に頼んで、手分けして靴屋を当たろう。その前に」
「なんだ」
「水浴びをして服を着替えないか、体がべたべたする。確か宿屋の中庭に井戸があったはずだ」
イーサンは不快そうな顔で手の臭いをかいだ。
警察の協力により、昼までに吸血鬼のめどはついた。ジャック・ディーゼル、年は十七歳、港で日雇い労働者として働いていたが最近は見なくなったそうだ。靴屋の叔父がいる。彼が、エドワードとイーサンのことをジャック・ディーゼルに話したそうだ。ジャック・ディーゼルが吸血鬼であることを知らなかったようで、警察がおまえを調べている、何をしたんだ。とジャック・ディーゼルに教えたそうだ。ちなみに、ジャック・ディーゼルの新しい靴は、この叔父の靴屋で買ったそうだ。彼が住んでいる部屋を聞き、エドワードとイーサンはそこに向かった。
「まだ、ここにいると思うか」
赤煉瓦の小汚いアパート、それが彼の家だ。
「ああ、わずかばかりだか魔力の反応がある」
イーサンは手元のコインを見つめながらいった。
「こんなところに吸血鬼がいるのか、ただの小さいアパートじゃないか」
どこかで下水でも詰まっているのか、じめっとした嫌な匂いがする。
「彼の家だからね。引っ越すったって、彼の年齢では、簡単ではないさ」
「にしたって、なんか、ただの家だろ。昼間知り合いが訪ねてきたらどうするんだ。ちょっとした手違いで死にそうだぜ。もうちょっと、こう、吸血鬼が住む様な感じの所じゃないだろ」
エドワードは不満そうにいった。
「吸血鬼の死因で一番多いのが何か知ってるかい」
「さぁ、杭で心臓を打たれるってのが一番であって欲しいね」
「カーテンの閉め忘れによる太陽焼死だ」
管理人に鍵を借り二人はジャック・ディーゼルの部屋に入った。カーテンは無く窓は木の板でふさがれていた。
「どうやらカーテンの閉め忘れによる焼死はなさそうだね」
イーサンがいった。
床に散らかった衣類、光の全く入らない暗い部屋で、ジャック・ディーゼルはベットの上で眠っていた。
「こいつが吸血鬼なのか」
エドワードはベットの上で眠っている男に懐中電灯の光を当てた。癖毛のブロンド、顔にはそばかすがあり、普通の十七歳の少年の寝顔に見えた。
「呼吸も脈もほとんどない。間違いないよ。彼が吸血鬼だ」
イーサンは彼の腕を手に取りながら言った。
「触っても大丈夫なのか」
「ああ、昼間、吸血鬼にとっては一番眠い時間帯だ。まだ成り立ての吸血鬼には抗える眠気では無い」
イーサンは懐から注射器を取り出し、それをジャック・ディーゼルの腕に突き立てた。
「何をする気だ」
「血液の採取、血液を調べれば彼らの系統、血筋がわかる。それがわかれば、どの血筋が彼に力を分け与えたかわかる」
黒い、粘度の高い血が注射器の中にたまっていく。
「それ大丈夫なのか」
「大丈夫だ。ただの血液に何の力も無い。これを摂取して吸血鬼になったりもしないよ。見たまえ、吸血鬼の血は人間のそれより約三倍粘度が高い。間違いなく吸血鬼だ」
イーサンは、採取した血液が入った注射器を布で巻いて、金属の箱に保管した。
「一体誰に吸血鬼にされたのか、尋問したいところだな」
「無理だね。昼間は、よほどのことが無いと目を覚まさないし、夜は人の手に負えない。やることは一つだ」
イーサンは表情を変えず言った。
「わかっている」
エドワードは杭撃ち銃を手に取った。
「そんなことをしなくても、窓の板を剥がせば済む話だぞ」
「いや、一度やっておきたい」
エドワードは、ジャック・ディーゼルの左の胸に杭打ち銃の銃口を密着させた。銃口から伝わる感触はやわらかく強く押すと沈み込みそうだった。
引き金を引いた。
ハンマーが雷管を叩き、火薬が爆発し、先端に金属の矢尻がついた杭がジャック・ディーゼルの胸に撃ち出された。杭は煙を出している。エドワードは後ろに下がった。
ベッドの上のジャック・ディーゼルの目が開いた。
こちらを見つめた。
誰? 少年は困惑しているような顔をした。
小さな爆発が起きた。ジャック・ディーゼルの胸が膨らむ、木片と小さな鉄の玉がジャック・ディーゼルの胸の中を飛び散った。炸裂式杭打ち銃、二年ほど前に開発された対吸血鬼用の銃だ。これが開発される前は杭が心臓を外し、もう一度撃ちなおすと言うこともあったが、これなら体内で爆発するため、多少心臓をはずしていても、爆発した金属製の玉が吸血鬼の心臓を切り裂くことができる。
ジャック・ディーゼルは金切り声を上げ、そのままの姿勢で、一度、天井近くまで跳ね上がり、胸に穴を開けたまま動かなくなった。
「これで終わりか」
エドワードは言った。
「いや、まだだ」
イーサンは窓の板を引っぺがし、ジャック・ディーゼルの体を太陽の光に当てた。
ジャック・ディーゼルの体は紙束のようにほどけ、灰になった。残った灰は集めて本部に証拠品として送ることになる。
「これでまた少し寿命が延びた」
イーサンは首に巻かれた銀色の首輪を触りながら言った。一定期間、吸血鬼を狩ったという報告がなければ、イーサンの死刑は実行されることになる。
「九百年生きて、まだ生きていたいのか」
イーサンは九百年、人の命を奪い。今は吸血鬼の命を奪っている。どれだけの命を奪ってきたのだろうかと。エドワードは考えた。
「飽きることはないね」
イーサンは真顔で応じた。