俺はつくづく地球という星が嫌になった。
テレビをつければ暗いニュース、ネットを見れば誰かの悪口。税金は高い。給料は少ない。おまけに年金も出ないときている。
ちくしょう。こんな星、出ていってやる。
そうだ月へ移住しよう。月では税金が地球の六分の一と聞いたことがある。今夜はスーパームーンだから、地球との距離も近いはずだ(何か間違っているかい?)。
月へ行く方法なら知っている。
両指に鋭利なボールペンを挟んでくるくる回すのだ。
くるくるくるくるくるくるくるくる。
くるくるくるくるくるくるくるくる。
すると、俺の身体はこのように宙に浮くことができるのだ。この風を切るように鋭利なボールペンを使えばね。
俺はそのまま月を目指した。ボールペンの回転速度を上げる。今の俺は新幹線より速いのだ。
どんどん街が離れてく。
どんどん月が大きくなる。
しかし、いつまで経っても月にたどり着かない。
何故だ。月は目の前なのに。
もう少しのところで手が届かない。
まるで恋のようだ。
くるくる回し続けている指も限界が来ていた。
このままだと指がちぎれる。とりあえず休もう。少し休んで、後はガーッと一気に昇ればいいのだ。
疲れていたので場所を選ぶ余裕もなく、とりあえず俺はその辺の地上に降りた。そこは人里離れた山の中だった。
真っ暗で何も見えない。とりあえず広い場所を探していると、茂みの奥に光が見える。
「なんだ?」
近づいてみると、木の中が光っている。大きな竹の木だ。
「なんなんだこれは」
俺はとりあえず、両指に挟んだままの鋭利なボールペンをくるくると回し、その光る竹をスパッと切った。
すると竹の中から両手に懐中電灯を持った女性が現れた。ぐったりとしている。頭から血を流している。息はしていない。おそらくもう……。
「こ、これは一体……!?」
その時、
「ひ、人殺し!」
振り返ると、暗くてはっきりとは見えないが、おじいさんらしき人が俺を指差している。
「ち、違うんだこれは……」
生憎、この状況を打破できるほどの頭脳を俺は持ち合わせていない。こんな山奥に人がいるなんて、俺はほんとについていない。
かくして俺は、殺人罪及び銃刀法違反(これはただの鋭利なボールペンだと主張したが信じてもらえなかった)で警察に捕まり、留置場に入れられた。
牢屋の小さな窓から見えるのは、大きな月。手が届きそうで届かない。何がスーパームーンだ。ちくしょうめ。
俺は思わず、無意識にこう呟いていた。
「ああ、月へ帰りたい……」