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私を月へ……
私を月へ……
久保田毒虫
SFSFコレクション
2024年10月18日
公開日
1,011字
完結済
俺はつくづく地球という星が嫌になった。テレビをつければ暗いニュース、ネットを見れば誰かの悪口。税金は高い。給料は少ない。ちくしょう。こんな星、出ていってやる。そうだ月へ移住しよう。月では税金が地球の六分の一と聞いたことがある……。

私を月へ……

 俺はつくづく地球という星が嫌になった。

 テレビをつければ暗いニュース、ネットを見れば誰かの悪口。税金は高い。給料は少ない。おまけに年金も出ないときている。

 ちくしょう。こんな星、出ていってやる。

 そうだ月へ移住しよう。月では税金が地球の六分の一と聞いたことがある。今夜はスーパームーンだから、地球との距離も近いはずだ(何か間違っているかい?)。


 月へ行く方法なら知っている。

 両指に鋭利なボールペンを挟んでくるくる回すのだ。

 くるくるくるくるくるくるくるくる。

 くるくるくるくるくるくるくるくる。

 すると、俺の身体はこのように宙に浮くことができるのだ。この風を切るように鋭利なボールペンを使えばね。


 俺はそのまま月を目指した。ボールペンの回転速度を上げる。今の俺は新幹線より速いのだ。

 どんどん街が離れてく。

 どんどん月が大きくなる。

 しかし、いつまで経っても月にたどり着かない。

 何故だ。月は目の前なのに。

 もう少しのところで手が届かない。

 まるで恋のようだ。

 くるくる回し続けている指も限界が来ていた。

 このままだと指がちぎれる。とりあえず休もう。少し休んで、後はガーッと一気に昇ればいいのだ。


 疲れていたので場所を選ぶ余裕もなく、とりあえず俺はその辺の地上に降りた。そこは人里離れた山の中だった。

 真っ暗で何も見えない。とりあえず広い場所を探していると、茂みの奥に光が見える。

「なんだ?」

 近づいてみると、木の中が光っている。大きな竹の木だ。

「なんなんだこれは」

 俺はとりあえず、両指に挟んだままの鋭利なボールペンをくるくると回し、その光る竹をスパッと切った。

 すると竹の中から両手に懐中電灯を持った女性が現れた。ぐったりとしている。頭から血を流している。息はしていない。おそらくもう……。

「こ、これは一体……!?」

 その時、

「ひ、人殺し!」

 振り返ると、暗くてはっきりとは見えないが、おじいさんらしき人が俺を指差している。

「ち、違うんだこれは……」

 生憎、この状況を打破できるほどの頭脳を俺は持ち合わせていない。こんな山奥に人がいるなんて、俺はほんとについていない。


 かくして俺は、殺人罪及び銃刀法違反(これはただの鋭利なボールペンだと主張したが信じてもらえなかった)で警察に捕まり、留置場に入れられた。

 牢屋の小さな窓から見えるのは、大きな月。手が届きそうで届かない。何がスーパームーンだ。ちくしょうめ。


 俺は思わず、無意識にこう呟いていた。

「ああ、月へ帰りたい……」

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