「おい、それ俺が焼けるの待ってたんだよ!」
ホットプレートの上で焼き上がるのをニマニマ見守っていた肉が、正面から伸びた箸に無情にも攫われるのに思わず声を上げた。
「え? 食べないからいらないのかと思って。焦げるよ?」
「俺はよく焼いたのが好きなんだ! 第一、その肉まだちゃんと焼けてねえだろ? そんなの食ったら腹壊すぞ」
「何言ってんの!? あり得ないって。だって俺の家ではこれくらいで食べてたもん!」
ムキになる親友。メシのことになると普段のおっとり優しい姿なんて吹っ飛ぶんだよな……。
「いや、でもな……」
「嘘じゃないよ! あ、そうだ。母ちゃんに訊いたら──」
スマホを取り出した彼を慌てて止める。
「いや、待て待て待て!」
いい大人の息子から、いきなり「焼肉はよく焼かなくても大丈夫だよね?」なんて電話掛かって来たら母ちゃんも困るだろ……。
というか情けなくて泣くんじゃねえか!? お前の母ちゃん、女手ひとつで苦労して育ててくれたって言ってたよな?
「……わかった。お前が生焼け食うのは好きにしろ。でも俺はしっかり焼きてえんだ! だから陣地決めようぜ」
宣言して、俺は皿の上のもやしを鉄板の真ん中に一直線に並べた。
「この線のこっちが俺! 絶対取るなよ!」
「ホント食い意地張ってるよね〜」
やれやれ、と呆れたような彼にどの口が! と脱力する。
お前にだけは言われたくねえええ!
~END~